83 / 200
第一章 龍の料理人
第82話
しおりを挟む「と~ちゃ~く……な~のじゃっ!!」
いつも通り城の中庭に着陸すると、カミルは私のことをゆっくりと地面に下ろしてくれた。
「ありがとう、長旅お疲れ様。」
「何の何の、この程度腹を減らすための運動ぐらいにしかならんのじゃ。」
カミルにいつも運んでもらっているお礼を告げると、私のことを見てノノがヴェルに話しかけていた。
「あうあう~!!」
「え?なぁに?」
「ヴェル……ノノがありがとって言ってる。」
「あら~!!ちゃんとお礼を言えるなんて良い子ね~撫で撫でしてあげるわ~。」
「あう~♪」
ノノにお礼を告げられすっかり気分がよくなったヴェルは、ノノのことをわしゃわしゃと撫で始めた。ノノもまんざらではないらしく、身を任せて気持ち良さそうにしている。
そんなやり取りを眺めていると、突然後ろから服の襟をぐいっと持ち上げられ体が宙に浮いた。
「ピィ~!!」
「お?なんだ……ピッピか、驚かせないでくれ。」
後ろから聞こえた聞きなれた鳴き声にホッと胸を撫で下ろしていたのも束の間……更にその後方から声が聞こえた。
「へぇ~、この子ピッピって言うんだ?可愛い名前だね~。」
「「「!?」」」
ピッピの背中から聞こえた声に私とカミル、そしてヴェルの三人は同時にその声のした方を振り向いた。そこにはピッピの背中に跨がった魔王ことアベルがいた。
「やぁ!!お帰りエルフの国は楽しかった?」
「なっ……なな、何で魔王様がここにっ!?」
「ん~?カミル~ここは無礼講……じゃなかった~?魔王……じゃなくてアベル~って呼んでよ。ねっ?それに、ミノルはもうボクの専属料理人でもあるんだし?ボクがここにご飯を食べに来てもおかしくないよね?」
器用にピッピのことを乗りこなしているアベルは、上手いことピッピのことを操縦してカミルの隣に近寄ると、そう耳元で囁いた。
その後私の方に近寄ってくると、ピッピの背中から降りて私の目をのぞき込みながら口を開く。
「さぁ、今日は何を作ってくれるのかな?僕お腹ペコペコなんだよね~。」
「今日はとりあえず……さっきボルドで買ってきた魚をメインに使って料理を作るつもりだ。エルフの国で買った新しい調味料があるしな。」
「ふぅんお魚かぁ~。良いね!!ボク脂っこいお肉よりかはあっさりしたお魚の方が好きだよ?」
「そうか、覚えておくよ。」
以外にもアベルは肉より魚派だったようだ。魚を使った料理と聞いて一気に上機嫌になっていることを見るに本当のことなのだろう。
「っと、さっそく調理に入りたいところだが……その前に。」
私はインベントリを開き、アルマスからもらった例のエルフの秘薬を取り出した。
「ノノ、これを食べてくれるか?」
「あう……。」
少しためらう様子を見せるノノ、やはりまだ少し遠慮しているようだ。
「遠慮することはないんだぞ?いつかは使うものだし、それが今回ノノだったってだけだ。」
「あう~……う~……あむっ。」
ノノは私と秘薬を交互に何度か見つめると、意を決したようで秘薬を口の中へと放り込んだ。
「ん~……。」
そしてノノは秘薬をコロコロと口のなかで転がし、味わいながら食べていた。顔をしかめることも無いことから、秘薬の味は苦いわけではないらしい。
「ほへ~……ボクもその秘薬食べたことないんだよね~。ねぇねぇどんな味?どんな味?」
興味津々……といった様子でアベルはノノの顔を覗き込みながら問いかけた。そしてゴクン……とノノがそれを飲み込むと、ノノは口を開いた。
「甘くて……美味しい…………あっ!!」
ノノの口から放たれた言葉は「あう。」といういつもの言葉ではなく、普通の言葉だった。
秘薬の効果に私達も驚いていたものの、一番驚いていたのはノノ自身だった。
「喋れるようになったみたいだな。ノノ?」
「あっ……あっ……えと、んと……その…………あ、ありがとうございましゅっ!!……あぅ、噛んじゃった。」
「まだ舌が慣れてないんだろ。ゆっくり話していけば良い。」
口に手を当てて恥ずかしそうにしているノノの頭に手を置いて、私はそうなだめるように言った。
「ほぉ~……にしても本当に話せるようになったか。エルフの秘薬というのも侮れないものよのぉ~。」
「ね~?ホント凄いわ。ねぇノノ、私の名前わかる?」
「えと……ヴェルしゃま?」
まだ舌が慣れていないのかノノはさ行を発音するのが苦手なようだ。
「そうそう私はヴェルよ。改めてよろしくね~、ん~!!頬擦りしちゃう~♪」
「えへへ……。」
ぎゅ~……っとノノのことをヴェルは抱きしめ頬擦りしている。
「それじゃ……私のこと……わかる?」
ノノの前にずいっとマームが顔を出し、自分の顔を指差しながら問いかけた。
「マームちゃん!」
「ふふ……正解。良い子……良い子。」
自分の名前を呼ばれて上機嫌になったマームは、ヴェルが抱きしめているノノの頭をポンポンと撫でている。
「ねぇねぇじゃあボクはボクは?」
「えと……魔王しゃま?」
「ん~、正解だけどハズレ~。この場所ではボクのことはアベルで良いよ。ノノちゃん?」
「あぅ~……えっとえっと……じゃあアベル……しゃん?」
「あはっ、まぁ……それでもいっか~。これから毎日会うことになると思うからよろしくね~。」
手をヒラヒラと振りながらアベルはノノに自己紹介をした。
「ふふっ、後は~~~……ノノ、こっちのは誰か分かるかしら?」
ヴェルはノノを抱き抱えて、カミルの前に持っていき問いかけた。
「こっちのとはなんじゃ!!こっちのとは!!人を物扱いしおってまったく失礼な奴じゃ。」
プンスカ怒るカミルの姿をみて、少し縮こまりながらもノノは言った。
「えっと……カミルしゃま。」
「ん、その通り……妾がカミルじゃ。まぁ……そのなんじゃ?いち早くミノルのように美味しい料理を作れるようになるのじゃぞ?」
いざ名前を呼ばれると、少し恥ずかしかったのか、カミルは頬をポリポリと掻きながらノノに激励の言葉を投げ掛けた。
「は、はいっ!!」
「さて……っとまぁ、最後になったが……私はミノルだ。これからちょっとずつ料理について教えていくから、よろしくな。」
「よ、よろしくお願いしましゅっ!!えと……お師しゃま!!」
少し私の呼び方を迷った末、ノノは私のことをお師様……と呼んだ。弟子と師匠という関係は間違いないから吝かではないが、少しむず痒いな。
さて、ノノも無事言葉が話せるようになったことだし……祝いの意味を込めて料理を作らせてもらうとしようか。
1
あなたにおすすめの小説
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる