アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

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第一章 龍の料理人

第82話

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「と~ちゃ~く……な~のじゃっ!!」

 いつも通り城の中庭に着陸すると、カミルは私のことをゆっくりと地面に下ろしてくれた。

「ありがとう、長旅お疲れ様。」

「何の何の、この程度腹を減らすための運動ぐらいにしかならんのじゃ。」

 カミルにいつも運んでもらっているお礼を告げると、私のことを見てノノがヴェルに話しかけていた。

「あうあう~!!」

「え?なぁに?」

「ヴェル……ノノがありがとって言ってる。」

「あら~!!ちゃんとお礼を言えるなんて良い子ね~撫で撫でしてあげるわ~。」

「あう~♪」

 ノノにお礼を告げられすっかり気分がよくなったヴェルは、ノノのことをわしゃわしゃと撫で始めた。ノノもまんざらではないらしく、身を任せて気持ち良さそうにしている。
 そんなやり取りを眺めていると、突然後ろから服の襟をぐいっと持ち上げられ体が宙に浮いた。

「ピィ~!!」

「お?なんだ……ピッピか、驚かせないでくれ。」

 後ろから聞こえた聞きなれた鳴き声にホッと胸を撫で下ろしていたのも束の間……更にその後方から声が聞こえた。

「へぇ~、この子ピッピって言うんだ?可愛い名前だね~。」

「「「!?」」」

 ピッピの背中から聞こえた声に私とカミル、そしてヴェルの三人は同時にその声のした方を振り向いた。そこにはピッピの背中に跨がった魔王ことアベルがいた。
 
「やぁ!!お帰りエルフの国は楽しかった?」

「なっ……なな、何で魔王様がここにっ!?」

「ん~?カミル~ここは無礼講……じゃなかった~?魔王……じゃなくてアベル~って呼んでよ。ねっ?それに、ミノルはもうボクの専属料理人でもあるんだし?ボクがここにご飯を食べに来てもおかしくないよね?」

 器用にピッピのことを乗りこなしているアベルは、上手いことピッピのことを操縦してカミルの隣に近寄ると、そう耳元で囁いた。
 その後私の方に近寄ってくると、ピッピの背中から降りて私の目をのぞき込みながら口を開く。

「さぁ、今日は何を作ってくれるのかな?僕お腹ペコペコなんだよね~。」

「今日はとりあえず……さっきボルドで買ってきた魚をメインに使って料理を作るつもりだ。エルフの国で買った新しい調味料があるしな。」

「ふぅんお魚かぁ~。良いね!!ボク脂っこいお肉よりかはあっさりしたお魚の方が好きだよ?」

「そうか、覚えておくよ。」

 以外にもアベルは肉より魚派だったようだ。魚を使った料理と聞いて一気に上機嫌になっていることを見るに本当のことなのだろう。

「っと、さっそく調理に入りたいところだが……その前に。」

 私はインベントリを開き、アルマスからもらった例のエルフの秘薬を取り出した。

「ノノ、これを食べてくれるか?」

「あう……。」

 少しためらう様子を見せるノノ、やはりまだ少し遠慮しているようだ。

「遠慮することはないんだぞ?いつかは使うものだし、それが今回ノノだったってだけだ。」

「あう~……う~……あむっ。」

 ノノは私と秘薬を交互に何度か見つめると、意を決したようで秘薬を口の中へと放り込んだ。

「ん~……。」

 そしてノノは秘薬をコロコロと口のなかで転がし、味わいながら食べていた。顔をしかめることも無いことから、秘薬の味は苦いわけではないらしい。

「ほへ~……ボクもその秘薬食べたことないんだよね~。ねぇねぇどんな味?どんな味?」

 興味津々……といった様子でアベルはノノの顔を覗き込みながら問いかけた。そしてゴクン……とノノがそれを飲み込むと、ノノは口を開いた。

「甘くて……美味しい…………あっ!!」

 ノノの口から放たれた言葉は「あう。」といういつもの言葉ではなく、普通の言葉だった。
 秘薬の効果に私達も驚いていたものの、一番驚いていたのはノノ自身だった。

「喋れるようになったみたいだな。ノノ?」

「あっ……あっ……えと、んと……その…………あ、ありがとうございましゅっ!!……あぅ、噛んじゃった。」

「まだ舌が慣れてないんだろ。ゆっくり話していけば良い。」

 口に手を当てて恥ずかしそうにしているノノの頭に手を置いて、私はそうなだめるように言った。

「ほぉ~……にしても本当に話せるようになったか。エルフの秘薬というのも侮れないものよのぉ~。」

「ね~?ホント凄いわ。ねぇノノ、私の名前わかる?」

「えと……ヴェルしゃま?」

 まだ舌が慣れていないのかノノはさ行を発音するのが苦手なようだ。

「そうそう私はヴェルよ。改めてよろしくね~、ん~!!頬擦りしちゃう~♪」

「えへへ……。」

 ぎゅ~……っとノノのことをヴェルは抱きしめ頬擦りしている。

「それじゃ……私のこと……わかる?」

 ノノの前にずいっとマームが顔を出し、自分の顔を指差しながら問いかけた。

「マームちゃん!」

「ふふ……正解。良い子……良い子。」

 自分の名前を呼ばれて上機嫌になったマームは、ヴェルが抱きしめているノノの頭をポンポンと撫でている。

「ねぇねぇじゃあボクはボクは?」

「えと……魔王しゃま?」

「ん~、正解だけどハズレ~。この場所ではボクのことはアベルで良いよ。ノノちゃん?」

「あぅ~……えっとえっと……じゃあアベル……しゃん?」

「あはっ、まぁ……それでもいっか~。これから毎日会うことになると思うからよろしくね~。」

 手をヒラヒラと振りながらアベルはノノに自己紹介をした。

「ふふっ、後は~~~……ノノ、こっちのは誰か分かるかしら?」

 ヴェルはノノを抱き抱えて、カミルの前に持っていき問いかけた。

とはなんじゃ!!こっちのとは!!人を物扱いしおってまったく失礼な奴じゃ。」

 プンスカ怒るカミルの姿をみて、少し縮こまりながらもノノは言った。

「えっと……カミルしゃま。」

「ん、その通り……妾がカミルじゃ。まぁ……そのなんじゃ?いち早くミノルのように美味しい料理を作れるようになるのじゃぞ?」

 いざ名前を呼ばれると、少し恥ずかしかったのか、カミルは頬をポリポリと掻きながらノノに激励の言葉を投げ掛けた。

「は、はいっ!!」

「さて……っとまぁ、最後になったが……私はミノルだ。これからちょっとずつ料理について教えていくから、よろしくな。」

「よ、よろしくお願いしましゅっ!!えと……お師しゃま!!」

 少し私の呼び方を迷った末、ノノは私のことをお師様……と呼んだ。弟子と師匠という関係は間違いないから吝かではないが、少しむず痒いな。
 さて、ノノも無事言葉が話せるようになったことだし……祝いの意味を込めて料理を作らせてもらうとしようか。
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