アナザーワールドシェフ

しゃむしぇる

文字の大きさ
165 / 200
第三章 魔族と人間と

第164話

しおりを挟む
 さて、それじゃ炊き出しを始めるとするか。

「お師様、何を作るんです?」

「取りあえず卵をとじたお粥で様子見だ。」

「え?お腹減ってるんだからもっとこう……お肉とかの方が良いんじゃないの?」

 お粥を作ると聞いたアベルは首をかしげながら問いかけてくる。
 確かにお腹いっぱい食べさせてやりたい気持ちはわかるのだが、それには意外な落とし穴が存在するのだ。

「アベルが彼らにお腹いっぱい食べさせてやりたい気持ちはわかる。だが、今彼らは飢餓状態なのはわかるな?」

「うん、それはわかるけど……。」

「飢餓状態ってことは、しばらくの間胃袋とかそういう消化器官が機能してなかったんだ。」

「うん?だから……つまり?」

「リフィーディング症候群って言ってな。飢餓状態の人に突然栄養満点の物を食べさせると、消化器官が驚いてショック死する可能性があるんだ。」

 事実、戦国時代……豊臣秀吉が敵軍に対して兵糧攻めを行った後、投降してきた兵士に飯を振る舞ったところ何人もバタバタと死んでいったという話がある。
 秀吉は決して飯に毒を盛った訳ではない。その現象は、現代医学でそれは飢餓状態の人間に突然大量の栄養を摂取させたことによるショック死……つまりリフィーディング症候群を発症したと解明されている。

「うわ……それホント!?」

「ホントの話だ。だからノアをここに連れてきたときもお粥から食べさせただろ?」

 あれも念のためリフィーディング症候群を防ぐためだったんだが……。

「だから今は取りあえずお粥を何回かに分けて皆に食べさせるぞ。?」

「「「はいっ!!」」」

 念のため食べさせ過ぎないように……と皆に釘を刺しておく。恐らく不満を持つ人間が出てくるだろうからな。

 ノノ達が調理に取りかかったのを見て、私はゼバスと名乗った騎士のもとへと歩み寄った。

「ゼバスさん……でしたよね?」

「む、貴殿は?」

「私はミノルと言います。彼女に仕えてる料理人です。」

「魔王殿の料理人か。我輩に何か用事でも?」

「今から皆さんにご飯を振る舞うのですが……先に理解していただきたいことがあります。」

「聞こう。」

 私はゼバスにリフィーディング症候群の事を分かりやすく説明した。そして、不平や不満を持つ人が出てくるかもしれないことも……。

 すると……。

「なるほど、それは我輩に任せてもらおう。我輩から彼らに説明する。」

「そうしてくれるとありがたいです。弱った胃腸の調子を整えたら普通の食事を提供するとも伝えてください。」

「承った。」

 バサリと鎧についたマントを翻すと、彼は集まった人達の前で演説を始めた。
 彼への民衆の信頼は厚いようで、集まった人間達は彼の言葉を素直に聞いていた。

「これで良し。」

 人々の理解を得られたことは大きい。理解がないまま配給を始めたら暴動が起こりかねないからな。

 食欲に突き動かされる人間の行動力は恐ろしい。飢餓状態の人は気持ちを落ち着かせることができなくなり、あっさりと人を殺してしまったりすることもある。

 アベル達の前にゼバスの指揮のもと行列ができている様を満足そうに眺めていると、後ろから声をかけられた。

「よもや私めが生あるうちにこのような光景を目にすることができるとは……。」

「ようやく魔族と人間とが手を取り合いましたね。」

 いつの間にか私の後ろにはシグルドさんが佇んでいた。その目の縁には一粒の涙があった。

「ここからは一気に崩れますよ。」

 彼等達が亡命に成功した……と広まれば、これから一気に人の流れができてくるだろう。

「そうなれば魔王様の願いも後一歩……ですな。」

「はい。」

 シグルドさんの言葉に私は頷いた。

「っと、そろそろアベル達の方が忙しくなってきたみたいなので……私も手伝ってきます。」

「よろしくお願いいたします。」

 こちらに深く一礼するシグルドさん。そんな彼を背に私はアベル達のもとへ駆け足で駆け寄った。

「皆大丈夫か?」

「あ!!ミノル!!どこ行ってたのさ!!も~忙しくて大変だよ!!」

 わしゃわしゃと大量のお米をとぎながらアベルは私に言った。

「すまんすまん、ちょっといろいろやることがあったんだよ。あ~っと、アベルは米をといでもらって……ノノは米を炊いてくれ。」

「はいです!!」

「ノアは私が作ったお粥を盛り付けて皆に配るんだ。」

「わかりました。」

 それぞれに役割を言い渡して一気に作業に取りかかる。そして人間達への配給は滞りなく進んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。 敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。 結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。 だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。 「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」 謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。 少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。 これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。 【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

異世界で「節分」始めました。~聖なる大豆と恵方巻で、痩せた荒野を最強の農園国家に作り替えます~

黒崎隼人
ファンタジー
目覚めればそこは、草木も生えぬ死の荒野だった。 農家の息子・ハルトが手にしたのは、たった一粒の干からびた大豆と、謎のスキル【節分】。 「鬼はぁ、外ォッ!」 その掛け声と共に放たれた豆は、魔物(赤鬼)を一撃で浄化し、痩せた土地を肥沃な大地へと変える規格外の力を持っていた!? 無限に増えるSSSランクの聖なる大豆。一瞬で育つ野菜たち。 そしてスキルで生み出した「恵方巻」の美味しさは、行き倒れていた元エリート女騎士・セシリアの胃袋を完全に掴んでしまい……? 豆の精霊マメゾウや、グルメなギルドマスターを巻き込んで、ハルトの異世界農業生活が今、始まる。 豆まきで世界を救い、美味しい日本食で仲間を笑顔にする、ほのぼの農園ファンタジー!

追放された万能聖魔導師、辺境で無自覚に神を超える ~俺を無能と言った奴ら、まだ息してる?~

たまごころ
ファンタジー
王国一の聖魔導師アレンは、嫉妬した王子の策略で「無能」と断じられ、国を追放された。 辿り着いた辺境の村で、アレンは「ただの治癒師」として静かに暮らそうとするが――。 壊れた街を再生し、疫病を一晩で根絶し、魔王の眷属まで癒しながら、本人はただの村医者のつもり。 その結果、「あの無能が神を超えた」と噂が広がり、王と勇者は頭を抱えることに。 ざまぁとスカッとが止まらない、無自覚最強転生ファンタジー開幕!

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

処理中です...