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第三章 魔族と人間と
第163話
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人間の動きを探りながら毎日を過ごしていると、アベルのもとにある連絡が入ったらしく、慌てて私のもとへとやって来た。
「ミノル!!大変大変っ!!」
「こんな朝早くから……どうしたんだ?」
朝早くから私の部屋に慌てて飛び込んできたアベルに、私は未だ重い瞼を擦りながら問いかける。
すると……。
「大変なんだって!!」
「大変なのはわかったから……何がどう大変なのか教えてくれ。」
「あ、ご、ごめん。あのね、さっき国境の警備長から緊急の報告があって。」
「ふむ。」
「武器を持ってない人間がたくさん押し寄せてきてるんだって!!」
「ついに出てきたか。」
私はむくりと体を起こし、大きく背伸びをした。
「出てきたって……どういうこと?」
「簡単な話だ。食料が国で賄えなくなって、それによって飢えた人達が投降してきたんだろ。」
恐らくその僅かに残っている食料は国王や貴族とかに優先的に渡っているはずだからな。農民とかそういう、いわゆる平民と呼ばれる人達が飢えに苦しむのは時間の問題だった。
「ど、どうすれば良いかな?」
「どうすれば……って受け入れる他ないだろ?仮にもし、一度こちら側に投降したという事実が国にバレたらその人達はどうなる?」
「う~ん、拘束?される?」
「それかその場で処刑だろうな。」
いつの時代でも、どこの国でも、自分の生まれた国への反逆という罪は重いものだ。
「そ、それはダメだよ!!」
「なら受け入れる他ないだろ?」
ただ、受け入れたら受け入れたで、リスクも当然出てくる。平民に成り済ました内通者が居たりしたら面倒だ。
まぁ、仮にもし……内通者がいたとしても、アレを目の前で見せてやれば戦意喪失するだろうけどな。
「さ~て、今日は忙しくなるぞ。」
私はいつもなら私服を身に纏うところだったが、アベルの報告を聞いて急遽コックコートに着替えた。
「あ、アベル……前に用意してくれって言ってた調理器具って全部あっちにあるのか?」
「うん、もうあっちに運んであるよ~。」
「なら良し。さ、今日は近く控えてる大配給へ向けてのリハーサルだ。」
「りはーさる?」
「予行演習って意味だ。各々着替えて自分の調理器具持ったら行くぞ。」
そして私は、アベル、ノア、そしてノノとともに国境へと急いで向かうのだった。
◇
その頃国境では……
「お母さん……僕お腹すいた。」
何日も食事を口にしていないのか、痩せ細った人間の少年はか細い声で自分の母親に言った。
「大丈夫よ。」
同じく痩せた母親は自分の子供をぎゅっと抱き締める。
その親子の周りにも飢えで痩せた人間がたくさん集まっていた。
彼らは王都から離れた村や町で暮らす平民達だ。冬に備えていた食料を全て王都の兵士達になすすべなく奪われてしまい、飢えに飢えている。
この国に絶望を抱いた彼らは一か八か……敵である魔族に助けを乞おうと集まったのだ。
魔族は人間を殺さない……という最近流れ始めた噂を信じて
飢えた人々が国境手前でざわつく中、突然……魔族の領地の何もない空間に大きな亀裂が入った。
すると、目の前で国境を守っていた魔族の兵士達が一斉にその亀裂の方に膝をつく。
何が起こっているのかわからずに不安そうにそれを眺めている彼ら。
そんな彼らの前に亀裂の中から四人の人影が姿を現した。
「お手数をおかけして申し訳ありません魔王様。」
現れた四人の方に急いで走って行った兵士は膝をつきながらそう言った。
彼が最後に口にした魔王様という言葉を聞いた人間達は思わず恐れを抱いて黙りこんでしまう。
「あ~、そういうのいいから。君達はこの前ここに運んできたアレを用意しといてくれる?」
「はっ!!」
アベルの言葉に従い兵士達は詰所の方へと駆け足で駆けていった。
その姿を満足そうに見送った彼女は国境を挟んで向こう側……つまり人間の国側に大量に集まった彼らの方へと歩みを進めた。
そして彼らの前に立つと、口を開く。
「えっと~……君達を引率してきた人は誰?ちょっと話をしたいんだけど~。」
すると、重そうな鎧を身に纏った強面の老人が手を挙げてアベルの前に歩いてきた。
「彼等を導いたのは我輩……元王国騎士団所属ゼバスであります。」
ゼバスと名乗った彼は続けて言った。
「無理を承知で御願い申し上げる。どうか……我輩一人の首と引き換えに彼等を食わせてやってはくれないだろうか?」
地面に頭を擦り付けながら彼はアベルに頼み込む。するとアベルはあっさりと答えた。
「あ、別に首とかいらないから。ボクそんなの飾る趣味ないし。」
「で、では何をお望みか!!」
「お望みって……別に君達には何も望まないよ?お腹が空いてるなら、お腹いっぱいご飯食べさせてあげるし……。」
アベルの言葉にゼバスはポカンとした表情を浮かべた。それは彼の後ろにいた人間達も皆同じだった。
「まぁ敢えて言うなら、ボクが望むのは平和。ただ、それだけだよ。」
ポカンとした表情を浮かべる彼らの元に、アベルの後ろからノアが姿を現す。
「お久しぶりですゼバスさん。」
「なっ……!!の、ノア様ご無事だったのですか!?」
「えへへ、ご心配をおかけしました。」
ペコリとゼバスに謝ると、ノアは集まった人間達に声をかけた。
「私……勇者ノアは、魔王アベルの平和の考えに賛同します!!この国には皆さんを十分に養っていける食料もあります。新たな時代を私達と歩むことを決意した方はその線を踏み越えてください。」
ノアの言葉に、一番にゼバスが国境を跨ぎ涙ながらにアベルとノアの前に膝をついた。
「感謝いたします……。」
それを皮切りに、集まっていた人々は皆魔族と人間とを隔てていた、ちっぽけな一本の線を乗り越えた。
「ミノル!!大変大変っ!!」
「こんな朝早くから……どうしたんだ?」
朝早くから私の部屋に慌てて飛び込んできたアベルに、私は未だ重い瞼を擦りながら問いかける。
すると……。
「大変なんだって!!」
「大変なのはわかったから……何がどう大変なのか教えてくれ。」
「あ、ご、ごめん。あのね、さっき国境の警備長から緊急の報告があって。」
「ふむ。」
「武器を持ってない人間がたくさん押し寄せてきてるんだって!!」
「ついに出てきたか。」
私はむくりと体を起こし、大きく背伸びをした。
「出てきたって……どういうこと?」
「簡単な話だ。食料が国で賄えなくなって、それによって飢えた人達が投降してきたんだろ。」
恐らくその僅かに残っている食料は国王や貴族とかに優先的に渡っているはずだからな。農民とかそういう、いわゆる平民と呼ばれる人達が飢えに苦しむのは時間の問題だった。
「ど、どうすれば良いかな?」
「どうすれば……って受け入れる他ないだろ?仮にもし、一度こちら側に投降したという事実が国にバレたらその人達はどうなる?」
「う~ん、拘束?される?」
「それかその場で処刑だろうな。」
いつの時代でも、どこの国でも、自分の生まれた国への反逆という罪は重いものだ。
「そ、それはダメだよ!!」
「なら受け入れる他ないだろ?」
ただ、受け入れたら受け入れたで、リスクも当然出てくる。平民に成り済ました内通者が居たりしたら面倒だ。
まぁ、仮にもし……内通者がいたとしても、アレを目の前で見せてやれば戦意喪失するだろうけどな。
「さ~て、今日は忙しくなるぞ。」
私はいつもなら私服を身に纏うところだったが、アベルの報告を聞いて急遽コックコートに着替えた。
「あ、アベル……前に用意してくれって言ってた調理器具って全部あっちにあるのか?」
「うん、もうあっちに運んであるよ~。」
「なら良し。さ、今日は近く控えてる大配給へ向けてのリハーサルだ。」
「りはーさる?」
「予行演習って意味だ。各々着替えて自分の調理器具持ったら行くぞ。」
そして私は、アベル、ノア、そしてノノとともに国境へと急いで向かうのだった。
◇
その頃国境では……
「お母さん……僕お腹すいた。」
何日も食事を口にしていないのか、痩せ細った人間の少年はか細い声で自分の母親に言った。
「大丈夫よ。」
同じく痩せた母親は自分の子供をぎゅっと抱き締める。
その親子の周りにも飢えで痩せた人間がたくさん集まっていた。
彼らは王都から離れた村や町で暮らす平民達だ。冬に備えていた食料を全て王都の兵士達になすすべなく奪われてしまい、飢えに飢えている。
この国に絶望を抱いた彼らは一か八か……敵である魔族に助けを乞おうと集まったのだ。
魔族は人間を殺さない……という最近流れ始めた噂を信じて
飢えた人々が国境手前でざわつく中、突然……魔族の領地の何もない空間に大きな亀裂が入った。
すると、目の前で国境を守っていた魔族の兵士達が一斉にその亀裂の方に膝をつく。
何が起こっているのかわからずに不安そうにそれを眺めている彼ら。
そんな彼らの前に亀裂の中から四人の人影が姿を現した。
「お手数をおかけして申し訳ありません魔王様。」
現れた四人の方に急いで走って行った兵士は膝をつきながらそう言った。
彼が最後に口にした魔王様という言葉を聞いた人間達は思わず恐れを抱いて黙りこんでしまう。
「あ~、そういうのいいから。君達はこの前ここに運んできたアレを用意しといてくれる?」
「はっ!!」
アベルの言葉に従い兵士達は詰所の方へと駆け足で駆けていった。
その姿を満足そうに見送った彼女は国境を挟んで向こう側……つまり人間の国側に大量に集まった彼らの方へと歩みを進めた。
そして彼らの前に立つと、口を開く。
「えっと~……君達を引率してきた人は誰?ちょっと話をしたいんだけど~。」
すると、重そうな鎧を身に纏った強面の老人が手を挙げてアベルの前に歩いてきた。
「彼等を導いたのは我輩……元王国騎士団所属ゼバスであります。」
ゼバスと名乗った彼は続けて言った。
「無理を承知で御願い申し上げる。どうか……我輩一人の首と引き換えに彼等を食わせてやってはくれないだろうか?」
地面に頭を擦り付けながら彼はアベルに頼み込む。するとアベルはあっさりと答えた。
「あ、別に首とかいらないから。ボクそんなの飾る趣味ないし。」
「で、では何をお望みか!!」
「お望みって……別に君達には何も望まないよ?お腹が空いてるなら、お腹いっぱいご飯食べさせてあげるし……。」
アベルの言葉にゼバスはポカンとした表情を浮かべた。それは彼の後ろにいた人間達も皆同じだった。
「まぁ敢えて言うなら、ボクが望むのは平和。ただ、それだけだよ。」
ポカンとした表情を浮かべる彼らの元に、アベルの後ろからノアが姿を現す。
「お久しぶりですゼバスさん。」
「なっ……!!の、ノア様ご無事だったのですか!?」
「えへへ、ご心配をおかけしました。」
ペコリとゼバスに謝ると、ノアは集まった人間達に声をかけた。
「私……勇者ノアは、魔王アベルの平和の考えに賛同します!!この国には皆さんを十分に養っていける食料もあります。新たな時代を私達と歩むことを決意した方はその線を踏み越えてください。」
ノアの言葉に、一番にゼバスが国境を跨ぎ涙ながらにアベルとノアの前に膝をついた。
「感謝いたします……。」
それを皮切りに、集まっていた人々は皆魔族と人間とを隔てていた、ちっぽけな一本の線を乗り越えた。
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