たいして好みでは無い、と言われたので婚約解消した令嬢は、伯爵様と交渉する。

らりささ

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5.仕事編

21.最後のピース

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「やばいかもなぁ」
クルーズ様がため息交じりに言った。

セラ様が時の精霊様のところに帰ってから、数日経っても、1週間経っても、彼女は魔術部に姿を現さない。

「時の精霊様のご機嫌が悪くなったのですかね?」
私とアンナも気が気ではなかった。

「そうなんだよね。僕が契約している空間も、あの日からずっと開けることさえできないから、相当かもな…」
クルーズ様は、真剣な面持ちであった。
それがどれ程深刻な状況なのかを物語っていた。

「もしかして、私、何かしましたか?」
私には若干、嫌な予感があった。
「ルシンダには、何か心当たりがある?」
クルーズ様が、前のめり気味に聞いてきた。
「大したことではないと思ってはいたのですが...セラ様が時の精霊様のところに帰宅された時に、チラッと精霊様らしき方が見えたのですよ」
「え?!うそ!?時の精霊が姿を見せたの?!」
クルーズ様が、かなり驚かれている。
一般的に、精霊はそんなに容易く人間に姿を見せることはない、らしい。

 だとしたら、ククとルルはなんだったのかしら。
 会いたいな…

私は、小さな妖精さんたちのことを思い出していた。

「時の精霊はどんな感じだった?!」
クルーズ様の質問に、私は我に返った。
「わ、分からないですよ?私が見た姿が、時の精霊様かどうかは、私には判断し兼ねますので。ただ…」
「ただ??」
「ものすごーーーーーく、睨まれた気がしたのです…」
「睨まれた?時の精霊が、ルシンダに嫉妬したってこと?」
「うーん。嫉妬って感じより、怒ってるって感じですかね?私もはっきりと姿が見えた訳ではないので、雰囲気ですけど」
「おそらく、ルシンダが見たというその姿が時の精霊と考えて、間違いではないと思うけど…」
クルーズ様が、思考を巡らせ始めたようだ。
彼はこの状態になると、誰の言うこともあまり聞こえないらしい。
私とアンナは、暫く待つことにした。
アンナが、私の好きなお茶を淹れてくれた。

「十中八九、時の精霊は我々に協力する気はない。それどころか、これ以上先に進ませたくない、という意志さえ感じるよ。私は」
こういう時のクルーズ様の発言は、独り言かどうか非常に分かりずらい。

「私に加護を与えたらしい方と何か関係があるのでしょうか?」
私は、クルーズ様に聞こえているかどうか分からなかったが、一応、聞いてみることにした。

「そう断言していいと思うよ」
クルーズ様はちゃんと答えてくれはしたが、まだ少し何かを考えておられるようだった。

「アスランに魔術部に来るよう、伝令をだそう」
クルーズ様はそう言って、突然、伝令魔法を展開された。
あまりの手際の良さに、私とアンナは声も出なかった。

あっと言う間に、鳥の姿をした伝令魔法がアスラン様の執務室に向けて飛び立った。
「すごい…」
もの凄く美しい鳥であった。

「アスランのこれまでのこと、ルシンダ、セラ、時の精霊…やはりこれは、偶然ではないと思う。原点に立ち返るとしよう。ルシンダ、少し時間がかかるかもしれないが、近づいてきていると俺は思っている」
クルーズ様が嬉しそうに言った。

私たちは、アスラン様の到着を待つこととした。

トントントン。
ドアを叩く音がした。

「アスランが来たかな?どしたー?入ってこーい!」
クルーズ様が言った。

「失礼します」
入ってきたのは、ライト様であった。

「あ…」
「あ…、ルーシ」
ライト様が私に気づいて、少し顔を赤らめた。

 き、気まずい…

「あら、どうしたライトくん?」
クルーズ様は、先日のゴタゴタを知らない。
「青の隊長から、クルーズ様にこれを届けるようにと言われまして、執務室にはいらっしゃらなかったもので、こちらに…」
ライト様の説明が、なんだか言い訳じみていてぎこちない。

「わざわざ?真面目なやつだな、アイツも。ありがとう、すまんね」
そうクルーズ様は言ったあと、どうやら私とライト様の間に流れる変な空気を察したようだった。

「ライトくん、お茶でも飲んでいきたまえ。アンナくん、お茶をお願い」
クルーズ様が楽しそうに言った。
アンナは言われるまま、お茶の準備に入った。

 こ、この方は…
 いらんことをしてくれる…
 しかも、これは、たぶん、わざとだな…

「あ、私は結構です。このあと騎士団にすぐ戻らなければならないので」
ライト様は遠慮された。
「まぁまぁ、誰のお茶が飲めないって?」
クルーズ様が、笑顔でライト様を脅している。
「では…少しだけ…」
この国の軍師の言う事に、ライト様はそう言うしかなかった。

「ほら、座って!」
こともあろうか、クルーズ様が私の隣にライト様を座らせた。

 こ、この人、絶対に楽しんでるなーー!

私は、なるべく平静を装った。

私は少しだけ、ライト様の事を思い出していた。
しかし、あまりにも私の中の思い出と、今のライト様が違いすぎて、現実とは思えなかった。
しかも、私はアスラン様一筋だし、どうすることもできない。

、こないだは突然ごめんな。でも、俺は真剣なんだ」
ライト様が私の方に体を向けて、言った。
「そのことなのですが、正直、困ります。私はアスラン様以外の方と、そういうことは考えられないですし、それに…」
「それに?」
ライト様は何かを期待しているようだ。
「私も少しですが、以前ライト様とお話したことを思い出しましたが、あの時、たった一度きりですよね?」
ライト様がそれを聞いて、あからさまに嬉しそうな顔をした。

 こ、困る…!

「その、言いにくいのですが、何年も前の、しかも、たった一度のことで、そういうふうに言われるのは…少し、怖いです…」
私は思い切って言った。そして、そっとライト様の顔を見た。

やばい、この方、この世の終わりみたいな顔をしている…

 というか、ライト様は、私とのことを美化しすぎなのではないだろうか?

その思い込みが怖いのだ。

そんなことを思っていたら、クルーズ様に呼ばれたアスラン様が魔術部に入ってきた。

「私がそんなに暇だと思うなよ!」
アスラン様はクルーズ様にそう言ったあと、こちらを見て、一瞬、固まった。

「あぁ、ライト…」
「はぁ、青の隊長より遣いを頼まれまして、そして、こんな状況です…」
ライト様は死にそうな顔をしていた。

対照的に、クルーズ様はもの凄く楽しそうであった。
意外に、アスラン様がライト様に同情的な目を向けた。

「で、何があったのかな?」
クルーズ様が、ウキウキで私たち3人に聞いてきた。
「何も。お前がでしゃばってくるような話は何もないよ」
アスラン様がクルーズ様を躱した。

「それより、何で呼んだの?」
アスラン様が上手く話を変えた。

「セラが、戻ってこない。やばいかもしれない」
一転して、クルーズ様が本気モードになった。
「あれから?まだ来ないのか?長すぎんか?」
「そうなんだ。ちょっと思うことがあって、明日、アスランたち時間とれない?」
クルーズ様には何か作戦でもあるのだろうか。

「いや、無理だな。明日は」
アスラン様が言った。
「お忙しいんですか?」
私は明日、そんなに忙しいとは聞いていなかった。
「いや、そうじゃなくて…」
「何ですか?」
「ルシンダ、あなた、明日、誕生日でしょ?」
アスラン様が照れたように言った。

 そ、そうだった!
 明日は、私の21歳の誕生日だった!

「惚気だったか!!くそ!」
クルーズ様が声を上げた。

 きゃーん!
 アスラン様が、私の誕生日に何か考えてくださっていたなんて…!

私は嬉しすぎて、子供のように喜んでしまった。
アスラン様も嬉しそうだ。
私の隣で、ライト様が複雑そうな顔をしていた。

その時、目の前の空間に突然、“亀裂”が入った。

「な!何ですか?!これは!」
ライト様は相当驚いている。

「時の精霊ですかね?」
私はクルーズ様に聞いた。
「いや、いつもと感じが違う」
クルーズ様が警戒体勢に入った。
それを見たアスラン様が、すぐに私の腕を引っ張り、私を守るように彼も警戒体勢に入った。

『揃ったな…』
頭に直接響くような声がした。

「なに?!この声?聞こえる?」
私は叫んだ。

『迎えに来たぞ!』
重く低い声。
その声が頭の中で響いたあと、私は意識を失った。

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