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3話 揺れる音、君の隣で
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春の陽光が屋上を柔らかく照らしていた。
風に揺れる桜の花びらが、白いフェンス越しにちらちらと舞う。
遠くで校庭のざわめきがするが、この屋上は二人だけの静かな世界だった。
屋上には、昼食の後に憂が取り出したお弁当箱が広げられていた。
一段目を開けると、赤・黄・緑が鮮やかに並ぶ。
照り焼きチキンの深い艶、ふわりと巻かれた黄金色の卵焼き、ほうれん草と人参の胡麻和え、真っ赤なミニトマト。
隅には筍の佃煮がちょこんと収まり、全体を引き締めている。
二段目には、彩り豊かな野菜がぎっしりと詰まっていた。
ブロッコリーの塩茹で、かぼちゃの煮物、アスパラのベーコン巻き、菜の花のおひたし、春を感じさせる山菜の天ぷらも。
葉月の心配りが伝わってくる。
三段目を開けると、鮭といくらの親子おにぎり、梅と大葉の紅白おにぎり、焼きたらこ入りのおにぎり――形も色も様々で、千秋は思わず息を飲んだ。
「……なんて見事なお弁当……。職人の手による“芸術品”ですわ」
千秋は両手を胸に当て、うっとりとため息をついた。
憂は右手でおにぎりを掴み、ほおばる。
卵焼き、チキン……食べても食べても減らない。
「……憂さんの胃袋は、底なしですのね……」
千秋は少し引きつった笑顔を浮かべつつも、隣で無邪気に食べ続ける憂の姿に、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
食べ終わると、憂はかばんから立派なバナナ一房を取り出し、にこにこと笑う。
「千秋も食べる?」
千秋は一瞬固まって手を振った。
「い、いえ……お気持ちだけで結構ですわ」
憂は豪快にかじり、満足そうに頷く。
「ふふ、あたし、まだまだ食べられるよ!」
春風と甘い香りが、屋上に漂った。
「……憂さん、もうすぐお誕生日ですわね」
「うん……知ってたの?」
憂は目を細める。
千秋は微笑を深め、そっと声を弾ませた。
「ええ、もしよろしければ、その日に私の家でささやかなお茶会を開こうと思うのです。憂さんのお祝いのために」
「お茶会?」
「はい。紅茶とケーキを用意して――葉月さんも来てくださると嬉しいですわ」
憂はにこりと笑い、手元のバナナをかじり終えた。
「へぇ、千秋らしいね。ありがとう、楽しみにしてる!」
小さくあくびを漏らした憂は、ぽつりとつぶやく。
「……ふわぁ、なんだか眠くなってきたかも」
千秋は鞄の中から、淡いブルーのラベルがついた透明なボトルを取り出した。
キャップをひねると、軽やかな音がして、甘くてほのかな柑橘の香りが風に混じる。
「少し、飲みます?」
「うん、ありがとう」
憂が一口飲むと、冷たい水分が喉を滑り、体の奥まで透き通るように染みわたった。
「……これ、すっきりしてておいしいね」
「勉強の合間に飲むと、頭が冴える気がしますの」
千秋はそう言って微笑み、空にかざす。
ボトルの水面が、春の光を反射してきらめいた。
「ねえ、千秋……なんか、風の匂いまで甘いね」
千秋は頷きながら、ワイヤレスイヤホンを取り出した。
「……少し、音楽を聴きませんこと?」
「うん、いいよ」
二人が耳にイヤホンを差し込むと、静かなピアノの音が流れ始めた。
柔らかく、どこか懐かしい旋律が風に溶けていく。
まるで心の奥をやさしく撫でるようなその音色は、かつて飲料メーカーのCMで聴いたメロディだった。
憂は千秋の肩にもたれかかるようにして座り、うとうとと目を細める。
頭がそっと千秋に触れるたび、心がふわりと揺れ、胸の奥にあたたかな光が満ちていく。
千秋はそっと手を握り、体を寄せて憂に寄り添った。
指先から伝わる微かなぬくもりに、胸の奥で何かが静かにほどけていく。
二人の呼吸はゆっくりと重なり、ピアノの旋律に合わせるように、穏やかで甘い時間が流れていった。
風に揺れる桜の花びらが、白いフェンス越しにちらちらと舞う。
遠くで校庭のざわめきがするが、この屋上は二人だけの静かな世界だった。
屋上には、昼食の後に憂が取り出したお弁当箱が広げられていた。
一段目を開けると、赤・黄・緑が鮮やかに並ぶ。
照り焼きチキンの深い艶、ふわりと巻かれた黄金色の卵焼き、ほうれん草と人参の胡麻和え、真っ赤なミニトマト。
隅には筍の佃煮がちょこんと収まり、全体を引き締めている。
二段目には、彩り豊かな野菜がぎっしりと詰まっていた。
ブロッコリーの塩茹で、かぼちゃの煮物、アスパラのベーコン巻き、菜の花のおひたし、春を感じさせる山菜の天ぷらも。
葉月の心配りが伝わってくる。
三段目を開けると、鮭といくらの親子おにぎり、梅と大葉の紅白おにぎり、焼きたらこ入りのおにぎり――形も色も様々で、千秋は思わず息を飲んだ。
「……なんて見事なお弁当……。職人の手による“芸術品”ですわ」
千秋は両手を胸に当て、うっとりとため息をついた。
憂は右手でおにぎりを掴み、ほおばる。
卵焼き、チキン……食べても食べても減らない。
「……憂さんの胃袋は、底なしですのね……」
千秋は少し引きつった笑顔を浮かべつつも、隣で無邪気に食べ続ける憂の姿に、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
食べ終わると、憂はかばんから立派なバナナ一房を取り出し、にこにこと笑う。
「千秋も食べる?」
千秋は一瞬固まって手を振った。
「い、いえ……お気持ちだけで結構ですわ」
憂は豪快にかじり、満足そうに頷く。
「ふふ、あたし、まだまだ食べられるよ!」
春風と甘い香りが、屋上に漂った。
「……憂さん、もうすぐお誕生日ですわね」
「うん……知ってたの?」
憂は目を細める。
千秋は微笑を深め、そっと声を弾ませた。
「ええ、もしよろしければ、その日に私の家でささやかなお茶会を開こうと思うのです。憂さんのお祝いのために」
「お茶会?」
「はい。紅茶とケーキを用意して――葉月さんも来てくださると嬉しいですわ」
憂はにこりと笑い、手元のバナナをかじり終えた。
「へぇ、千秋らしいね。ありがとう、楽しみにしてる!」
小さくあくびを漏らした憂は、ぽつりとつぶやく。
「……ふわぁ、なんだか眠くなってきたかも」
千秋は鞄の中から、淡いブルーのラベルがついた透明なボトルを取り出した。
キャップをひねると、軽やかな音がして、甘くてほのかな柑橘の香りが風に混じる。
「少し、飲みます?」
「うん、ありがとう」
憂が一口飲むと、冷たい水分が喉を滑り、体の奥まで透き通るように染みわたった。
「……これ、すっきりしてておいしいね」
「勉強の合間に飲むと、頭が冴える気がしますの」
千秋はそう言って微笑み、空にかざす。
ボトルの水面が、春の光を反射してきらめいた。
「ねえ、千秋……なんか、風の匂いまで甘いね」
千秋は頷きながら、ワイヤレスイヤホンを取り出した。
「……少し、音楽を聴きませんこと?」
「うん、いいよ」
二人が耳にイヤホンを差し込むと、静かなピアノの音が流れ始めた。
柔らかく、どこか懐かしい旋律が風に溶けていく。
まるで心の奥をやさしく撫でるようなその音色は、かつて飲料メーカーのCMで聴いたメロディだった。
憂は千秋の肩にもたれかかるようにして座り、うとうとと目を細める。
頭がそっと千秋に触れるたび、心がふわりと揺れ、胸の奥にあたたかな光が満ちていく。
千秋はそっと手を握り、体を寄せて憂に寄り添った。
指先から伝わる微かなぬくもりに、胸の奥で何かが静かにほどけていく。
二人の呼吸はゆっくりと重なり、ピアノの旋律に合わせるように、穏やかで甘い時間が流れていった。
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