沈黙のういザード 

豚さん

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4話 花びら舞う祝福の日

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憂の誕生日当日、春の風に乗って花びらが舞っていた。

憂は姉・葉月と並んで駅から歩き、緑に囲まれた千秋のお屋敷へ向かっていた。

その身に纏うのは、千秋の母から贈られた海外ブランドのドレス。
淡いクリーム色の生地に春らしい小花模様が施され、胸元には上品なリボン。
歩くたびに裾が軽やかに揺れ、憂の年頃にふさわしい可憐さを際立たせていた。

胸の奥は高鳴るのに、どこか落ち着かず、足元ばかり気になって仕方がなかった。

まるで借り物の夢の中を歩いているようだった。

「……葉月姉、ほんとにそのドレスで来たんだ」

思わず目を丸くする憂。

そこにいたのは、普段の“自由すぎるお姉ちゃん”ではなく、
深いネイビーブルーのロングドレスに身を包んだ、見惚れるほど大人びた葉月だった。
髪はすっきりとまとめられ、控えめなパールのネックレスが光を受けて揺れている。

「当然でしょう? 今日は憂ちゃんの誕生日よ。おめかしして当然じゃない」

葉月は涼しい微笑みを浮かべ、裾をつまんでみせた。

堂々とした姿に、憂は胸の奥がくすぐったくなった。

そのとき、屋敷の奥から――

春風とともに、軽やかな声が響いた。

「ごきげんよう、お二人とも!」

声の主は、庭の石畳をゆっくりと歩いて現れた千秋だった。
春色のワンピースに真っ白なカーディガンを合わせた優雅なお嬢様スタイル。
歩くたびに裾がふわりと揺れ、陽光を受けて花びらのように光る。

「今日は特別なお茶会ですもの。お客様をお迎えするには、こんな風に優雅に現れるのもいいでしょう?」

裾を翻しながら微笑むその姿に、

憂は「……やっぱり千秋って、歩くだけで絵になるな」と思わず息を呑んだ。

「あら……やはりお似合いですわ、憂さん。

そのドレス、母が“春の光を映す一着”と申しておりましたの」

憂は小さく肩をすくめ、視線を伏せた。

「……ちょっと落ち着かないけど、千秋のお母さんからの贈り物だし、大事に着させてもらうよ」

千秋は唇に指を当て、いたずらっぽく笑う。

「母は“服はその人の心を映す鏡”と申しておりましてね。
このドレスをあなたに選んだときも、“きっと似合うはず”と少し意味深でしたのよ」


葉月がくすっと笑い、憂に目をやる。

「ふふ……でも、あのお母さんなら、本当に“世界的デザイナー”になってもおかしくないわね。
……でも、どこか“服以上のもの”を見ている気がするのよね」

千秋は軽く息をつき、表情を和らげた。

「残念ながら、父も母も今日は所用で席を外しております。
でも……その分、わたくしがしっかりおもてなししますわ。どうぞ楽しんでくださいね」

大理石の床と高い天井を誇る玄関ホールが、三人を柔らかく包み込む。
白髪をきちんとなでつけた執事と、揃いのエプロンドレスのメイドたちが出迎えた。

「お嬢様方、ようこそお越しくださいました」

低く落ち着いた声に合わせ、メイドたちは一斉に裾を広げ、完璧な礼を示す。

「う、うわぁ……本物のメイドさんだ!」

葉月は思わず声を上げたが、すぐに憂に袖を引かれて我に返る。

「す、すみません……ちょっとテンションが……でも、この制服、素敵ですね!」

千秋は喉を軽く鳴らし、片手を口元に添えて笑った。

「ふふ……葉月さん。お気持ちはわかりますけれど、彼女たちも少し照れておりますの」

葉月は慌てて姿勢を正し、頬を赤く染めた。

憂はその光景を見て、小さくため息をつく。

「……ほんと、葉月姉は変わらないなあ」

石畳を抜けると、中庭が視界に広がった。
手入れの行き届いた芝生に、色とりどりの花々。
中央には純白のクロスをかけた大きな丸テーブル。
銀のティーポット、繊細なレース模様のカップ、

三段のアフタヌーンティースタンドには、サンドイッチやスコーン、苺を飾ったケーキが整然と並ぶ。

「……わぁ、本格的」

憂は思わず声を漏らす。

千秋は得意げに微笑む。

「当然ですわ。今日は憂さんのお誕生日ですもの。
すべてわたくしの監修で準備いたしました」

「これは……ホテルみたい……」

 葉月は動画を撮りながら感嘆する。

 千秋は茶葉を丁寧に取り出し、香りを混ぜ合わせる。

「今日の紅茶は、わたくしが淹れますわ」

 ダージリンの甘さ、アッサムの深み、
 アールグレイの citrus の香り。

「……すごい、乾いた茶葉なのに花みたいな香り……」

 黄金の紅茶がカップに注がれ、
 春の空気に甘い香りが広がっていった。
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