91 / 255
28話 次女と長女
しおりを挟む
玄関の扉を開けると、
あたたかな照明と夕餉の香りが迎えてくれた。
「――お帰り、雪姉ちゃん!」
ぱたぱたと廊下を駆けてくる足音。
くりっとした目で、葉月が嬉しそうに抱きつく。
「葉月。ただいま」
「文化祭どうだった!?
千秋ちゃんといっぱい楽しんだ!?」
「すごく楽しかったよ。
初めての学園生活が……こんなに素敵だなんて」
雪乃は微笑みながら、
葉月の頭をそっと撫でた。
「憂と一緒に、ね。
……そして千秋にもありがとう、って伝えたい」
葉月は一瞬、驚いたように目を瞬かせる。
「……雪姉ちゃんが、そんな顔するなんて、さ」
いつか置いていかれた幼い日。
でも、今はもう違う。
「何年、妹やってると思ってるの。
雪姉ちゃんが嬉しいと、あたしも嬉しいんだから」
葉月は軽く笑って、けれどその声は少しだけ震えていた。
「……ねぇ、雪姉ちゃん。
あんまり一人で頑張りすぎないでよ?」
「私は、大丈夫よ。葉月こそ――」
「ううん、大丈夫じゃない。
ずっと見てきたんだから分かるの。
雪姉ちゃん、強がりなんだもん」
葉月はそっと視線を合わせて。
「夕ご飯できてるけど……
食べる? お腹すいてるでしょ?」
「ううん。今はいい。
そろそろ……身体の方の限界が来てるから」
葉月は一瞬だけ眉を下げる。
苦しそうな、けれど全部わかってる表情。
「……戻るんだね」
「うん。憂に……返さなきゃ」
二人で並んで階段を上がる。
日常の音が、少し遠く聞こえた。
憂の部屋の前まで来たとき、
雪乃はふと振り返る。
「葉月。朝ごはん……
本当に美味しかったよ」
「えっ? 芋のツルのお浸し?」
「そう。
ちゃんと愛情、味に出てた」
葉月は照れたように笑う。
「そりゃ、あたしメイドやってるし!
料理スキルは日々アップしてますからっ!」
明るく返した声の奥に、
隠しきれない寂しさがあった。
「おやすみ、葉月」
「…………うん」
雪乃はドアノブを握る。
葉月が小さく呼び止めた。
「ねぇ、雪姉ちゃん」
「なに?」
葉月は笑った。
いつもの、元気いっぱいの笑顔で。
「おやすみなさい、お姉ちゃん」
でも――
その笑顔は、
泣き出しそうな悲しみを
必死に隠していた。
雪乃は静かに扉を閉める。
わずかに開いた隙間から、
廊下の灯りが細く差し込む。
閉じる寸前、
葉月の顔だけが見えた。
明るい笑顔のまま、
目だけが酷く寂しそうだった。
夜は静かに深まり、
一つの想いが胸の奥で震えていた。
あたたかな照明と夕餉の香りが迎えてくれた。
「――お帰り、雪姉ちゃん!」
ぱたぱたと廊下を駆けてくる足音。
くりっとした目で、葉月が嬉しそうに抱きつく。
「葉月。ただいま」
「文化祭どうだった!?
千秋ちゃんといっぱい楽しんだ!?」
「すごく楽しかったよ。
初めての学園生活が……こんなに素敵だなんて」
雪乃は微笑みながら、
葉月の頭をそっと撫でた。
「憂と一緒に、ね。
……そして千秋にもありがとう、って伝えたい」
葉月は一瞬、驚いたように目を瞬かせる。
「……雪姉ちゃんが、そんな顔するなんて、さ」
いつか置いていかれた幼い日。
でも、今はもう違う。
「何年、妹やってると思ってるの。
雪姉ちゃんが嬉しいと、あたしも嬉しいんだから」
葉月は軽く笑って、けれどその声は少しだけ震えていた。
「……ねぇ、雪姉ちゃん。
あんまり一人で頑張りすぎないでよ?」
「私は、大丈夫よ。葉月こそ――」
「ううん、大丈夫じゃない。
ずっと見てきたんだから分かるの。
雪姉ちゃん、強がりなんだもん」
葉月はそっと視線を合わせて。
「夕ご飯できてるけど……
食べる? お腹すいてるでしょ?」
「ううん。今はいい。
そろそろ……身体の方の限界が来てるから」
葉月は一瞬だけ眉を下げる。
苦しそうな、けれど全部わかってる表情。
「……戻るんだね」
「うん。憂に……返さなきゃ」
二人で並んで階段を上がる。
日常の音が、少し遠く聞こえた。
憂の部屋の前まで来たとき、
雪乃はふと振り返る。
「葉月。朝ごはん……
本当に美味しかったよ」
「えっ? 芋のツルのお浸し?」
「そう。
ちゃんと愛情、味に出てた」
葉月は照れたように笑う。
「そりゃ、あたしメイドやってるし!
料理スキルは日々アップしてますからっ!」
明るく返した声の奥に、
隠しきれない寂しさがあった。
「おやすみ、葉月」
「…………うん」
雪乃はドアノブを握る。
葉月が小さく呼び止めた。
「ねぇ、雪姉ちゃん」
「なに?」
葉月は笑った。
いつもの、元気いっぱいの笑顔で。
「おやすみなさい、お姉ちゃん」
でも――
その笑顔は、
泣き出しそうな悲しみを
必死に隠していた。
雪乃は静かに扉を閉める。
わずかに開いた隙間から、
廊下の灯りが細く差し込む。
閉じる寸前、
葉月の顔だけが見えた。
明るい笑顔のまま、
目だけが酷く寂しそうだった。
夜は静かに深まり、
一つの想いが胸の奥で震えていた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる