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3話 努力の天才と鬼才
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放課後。冬の夕暮れが街を薄紫に染めていた。
「憂さん、今日は……一緒に歩きませんこと?」
「えっ? 車は?」
「駅前まで待たせますわ。たまには……お友達と並んで帰るのも素敵でしょう?」
「千秋~絶対それ言い訳でしょ~?」
「そ、そんなこと……ありますけれどっ!」
ふたりは肩を並べて校門を出た。
「受験、もうすぐだね」
「そうですわね……文系科目は、なんとかなりそうですの」
「千秋、英語すごく伸びたもんね! 教えててビックリしたよ」
「それは……憂先生の教え方が、とてもお上手だからですわ」
照れを帯びた声。
だけどその奥には――
別の感情がほんの少し潜んでいた。
「わたくし……ずっと羨ましかったんですの」
「え? わたし?」
「はい。いつも上位で……授業中も、問題を解く速度が桁違いで。
努力家なのに、努力を当然のようにこなす憂さんが」
千秋はうつむき、吐息で前髪が揺れた。
「雪乃さんは……“天才”でしたわ。
触れた音がすぐ芸術になるような、鬼才そのもの。
その背中は、わたくしには掴めないほど遠かった」
冬の風が、ふたりの頬をかすめる。
「でも……憂さんは違った。
苦しみながらも、必死に手を伸ばして、届かせる。
その姿が……わたくしには眩しかったんです」
「……千秋」
「だから、あなたを見ていると……
わたくしの小さな努力なんて、恥ずかしくなる時があって」
少し沈む空気。
そこで――
「くらえーっ!」
「きゃっ!? つ、冷たっ!」
憂が突然、自分のキンキンに冷えた両手を
千秋の額にぴとっと押し当てた。
「ふふっ、千秋の反応おもしろっ!」
「お、おいたがすぎますわ憂さん!!
凍えますわ!! ほんとうに!!」
言葉とは裏腹に、楽しげな声。
手を離されまいと、千秋は憂の手首をぎゅっと掴む。
「……こんなに冷たい手で」
「う、うん。寒かったから」
「まったく……放っておけませんわ」
千秋はその小さな手を包み込み、そっと熱を宿すように握りしめた。
「わたくしが、温めて差し上げますわ」
「ちょっ……近い……!」
「これは罰です。反省なさって?」
憂も自然と握り返していた。
「ありがとう、千秋」
「礼には及びませんわ。……わたくしの手も、憂さんが温めてくださっていますもの」
ふたりの手は、もう離れなかった。
「……受験前って、考えること多くなるよね!」
「ええ。でも――」
千秋は視線をそっと上げる。
「雪乃さんの天才でもなく。葉月さんの支えでもなく。
あなた自身の音で、未来を切り開いてきた憂さんとなら……
わたくし、頑張れますわ」
「じゃあ責任とってもらおうかな」
「もちろんですわ。東野高校、わたくしたち二人で合格いたしましょう」
駅前が近づく。
千秋の送迎車が静かに待っている。
「また明日、一緒に帰る?」
「はい。明日も……その次もずっと」
別れ際、千秋は名残惜しそうに手を離し、
その指先を胸元に押さえる。
夜風が揺らすマフラーは、まだふたりを繋いだままだった。
「憂さん、今日は……一緒に歩きませんこと?」
「えっ? 車は?」
「駅前まで待たせますわ。たまには……お友達と並んで帰るのも素敵でしょう?」
「千秋~絶対それ言い訳でしょ~?」
「そ、そんなこと……ありますけれどっ!」
ふたりは肩を並べて校門を出た。
「受験、もうすぐだね」
「そうですわね……文系科目は、なんとかなりそうですの」
「千秋、英語すごく伸びたもんね! 教えててビックリしたよ」
「それは……憂先生の教え方が、とてもお上手だからですわ」
照れを帯びた声。
だけどその奥には――
別の感情がほんの少し潜んでいた。
「わたくし……ずっと羨ましかったんですの」
「え? わたし?」
「はい。いつも上位で……授業中も、問題を解く速度が桁違いで。
努力家なのに、努力を当然のようにこなす憂さんが」
千秋はうつむき、吐息で前髪が揺れた。
「雪乃さんは……“天才”でしたわ。
触れた音がすぐ芸術になるような、鬼才そのもの。
その背中は、わたくしには掴めないほど遠かった」
冬の風が、ふたりの頬をかすめる。
「でも……憂さんは違った。
苦しみながらも、必死に手を伸ばして、届かせる。
その姿が……わたくしには眩しかったんです」
「……千秋」
「だから、あなたを見ていると……
わたくしの小さな努力なんて、恥ずかしくなる時があって」
少し沈む空気。
そこで――
「くらえーっ!」
「きゃっ!? つ、冷たっ!」
憂が突然、自分のキンキンに冷えた両手を
千秋の額にぴとっと押し当てた。
「ふふっ、千秋の反応おもしろっ!」
「お、おいたがすぎますわ憂さん!!
凍えますわ!! ほんとうに!!」
言葉とは裏腹に、楽しげな声。
手を離されまいと、千秋は憂の手首をぎゅっと掴む。
「……こんなに冷たい手で」
「う、うん。寒かったから」
「まったく……放っておけませんわ」
千秋はその小さな手を包み込み、そっと熱を宿すように握りしめた。
「わたくしが、温めて差し上げますわ」
「ちょっ……近い……!」
「これは罰です。反省なさって?」
憂も自然と握り返していた。
「ありがとう、千秋」
「礼には及びませんわ。……わたくしの手も、憂さんが温めてくださっていますもの」
ふたりの手は、もう離れなかった。
「……受験前って、考えること多くなるよね!」
「ええ。でも――」
千秋は視線をそっと上げる。
「雪乃さんの天才でもなく。葉月さんの支えでもなく。
あなた自身の音で、未来を切り開いてきた憂さんとなら……
わたくし、頑張れますわ」
「じゃあ責任とってもらおうかな」
「もちろんですわ。東野高校、わたくしたち二人で合格いたしましょう」
駅前が近づく。
千秋の送迎車が静かに待っている。
「また明日、一緒に帰る?」
「はい。明日も……その次もずっと」
別れ際、千秋は名残惜しそうに手を離し、
その指先を胸元に押さえる。
夜風が揺らすマフラーは、まだふたりを繋いだままだった。
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