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28話 清楚ギャル
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涙がようやく落ち着き、
二人は大きなガラス窓の前でゆっくりと肩の力を抜いた。
滑走路の向こうで、飛行機が朝日に光りながら動いていく。
胸の奥に残る痛みも、少しずつ空へ溶けていくようだった。
憂はそっと笑い、照れくさそうに口を開く。
「ねぇ千秋……わたしたち、ずっと友だち。“ずっ友”だよ」
一瞬の沈黙。
千秋は、きちんと背筋を伸ばしたまま、
その言葉を胸の中で反芻するように、ゆっくりと瞬きをした。
「……まあ」
小さく、息を吸う。
「“ずっ友”……たいへん、素敵な概念でございますわね」
「概念って言うと急に重くなるんだけど!?」
憂が思わず笑うと、千秋は少しだけ頬を染めながら、しかし凛とした口調で続けた。
「“ずっと”という継続性と、“友だち”という信頼関係。
両立が難しいからこそ、尊い――そういう意味合いでよろしいのかしら」
「分析しなくていいの!もっと軽いノリだから!」
「まあ……」
千秋は考え込むように視線を伏せ、そして、ふっと微笑んだ。
「では……わたくしなりに、軽やかに受け止めてみますわ」
そう言って、胸の前で、ほんの小さく拳を握る。
あくまで控えめ。
令嬢の範疇を一切はみ出さないガッツポーズ。
「……今のわたくし、正直に申し上げて――ガチで、あげ、でございます」
「“ガチであげですわ”は新しすぎるんだけど!?」
憂は吹き出しながらも、視線を逸らす。
(……でも……なんでそんな動き一つで、こんなに可愛いの……)
千秋はその反応を不思議そうに見つめ、首を小さく傾げた。
「何か……おかしな点がございました?」
「おかしいっていうか……千秋が言うと、全部上品なのに全部ギャルで……
脳が追いつかない」
「まあ」
千秋は上品に手を口元へ添え、くすりと笑った。
「それは恐らく……“ギャップ萌え”という現象かと存じますわ」
「自分で言う!?」
「最近、少々お耳にする機会がありましたので」
そして、改めて憂の方を向く。
まっすぐで、優しい眼差し。
「憂さん。わたくし……ずっ友になれましたこと、
本当に“それな”という気持ちでいっぱいですの」
「“それな”にそんな感情込められるの千秋だけだよ……」
憂は苦笑しながら、少しだけ距離を詰めた。
「でもさ……離れてても、忙しくなっても、変わらないでいよ」
「もちろんでございます」
千秋は即答した。
「連絡頻度が多少ラグりましても、
心の距離はノータイムでございますわ」
「言い方がもう優勝なんだけど……」
千秋は少し照れたように視線を逸らし、
それから、意を決したように小さく一礼する。
「では……ずっ友記念のご挨拶を、ひとつ」
「え、なにそれ……嫌な予感しかしない……」
千秋は深く息を整え、
茶会の席に立つかのような完璧な所作で顔を上げた。
そして、澄んだ声で、上品に。
「――ちょりーっす、うぇ~い、でございます」
「なんでそこ入れるの!?」
憂の叫びが、ラウンジに響く。
「今の雰囲気、絶対もっと感動系で締める流れだったでしょ!?」
「親しみを最大限に表現いたしました結果ですわ」
「最大限すぎる!!
清楚とギャルが真正面衝突してる!!」
千秋は少し慌てつつも、
どこか誇らしげに微笑んだ。
「ですが……
憂さんが笑顔になられましたので、
結果オーライ、ということで」
「……ほんと……」
憂は観念したように息をつき、小さく笑う。
「千秋って……ずるいくらい、可愛いよ」
千秋の頬が、ゆっくりと赤く染まった。
「まあ……そのように仰っていただけますと……
わたくし、内心では“それしか勝たん”でございます」
「最後までやる気だこの人!!」
二人の笑い声は、
朝の光と一緒に、空港の窓辺へ溶けていった。
……が。
少しして、千秋はふっと息を整えた。
背筋を正し、いつもの落ち着いた佇まいに戻る。
「――失礼いたしました」
先ほどまでの軽やかな調子は影を潜め、
声は静かで、やわらかく、まぎれもなく“いつもの千秋”だった。
「少々、はしゃぎすぎましたわね。
冗談が過ぎましたこと、お許しください」
「え?」
憂は一瞬きょとんとする。
「……やめるの?」
「ええ。今は、きちんとした言葉でお伝えしたくて」
千秋はそう言って、憂をまっすぐに見つめた。
飾りのない、真剣な眼差し。
「憂さん。先ほどのお言葉……とても嬉しく思っております」
ほんの少し、言葉を選ぶ間。
「友だちでいられること。
それも“ずっと”と仰っていただけたこと。
わたくしにとっては――とても大切な約束ですわ」
「千秋……」
「離れても、環境が変わっても、
関係が薄れることのないよう……
わたくしなりに、誠実でありたいと思っております」
憂は、思わず小さく息を吸った。
「……うん。そういうとこだよ、千秋」
「?」
「ふざけてても、戻ってくるときはちゃんと戻ってくる。
それが……好き」
千秋の頬が、また少しだけ赤くなる。
「……ありがとうございます」
それ以上は何も言わず、二人は並んで、再び窓の外を見た。
飛行機が、静かに動き出す。
――清楚で、
――少しだけお茶目で、
――そして、真っ直ぐな心を持つ千秋。
――照れ屋で、
――優しくて、
――ちゃんと受け止める憂。
旅立ちの空港で芽生えたのは、
冗談の奥にある本音を、互いに分かち合える関係。
“清楚ギャル千秋”は一旦お休み。
けれど――
“ずっと友だち”という絆だけは、
ここに確かに残っていた。
二人は大きなガラス窓の前でゆっくりと肩の力を抜いた。
滑走路の向こうで、飛行機が朝日に光りながら動いていく。
胸の奥に残る痛みも、少しずつ空へ溶けていくようだった。
憂はそっと笑い、照れくさそうに口を開く。
「ねぇ千秋……わたしたち、ずっと友だち。“ずっ友”だよ」
一瞬の沈黙。
千秋は、きちんと背筋を伸ばしたまま、
その言葉を胸の中で反芻するように、ゆっくりと瞬きをした。
「……まあ」
小さく、息を吸う。
「“ずっ友”……たいへん、素敵な概念でございますわね」
「概念って言うと急に重くなるんだけど!?」
憂が思わず笑うと、千秋は少しだけ頬を染めながら、しかし凛とした口調で続けた。
「“ずっと”という継続性と、“友だち”という信頼関係。
両立が難しいからこそ、尊い――そういう意味合いでよろしいのかしら」
「分析しなくていいの!もっと軽いノリだから!」
「まあ……」
千秋は考え込むように視線を伏せ、そして、ふっと微笑んだ。
「では……わたくしなりに、軽やかに受け止めてみますわ」
そう言って、胸の前で、ほんの小さく拳を握る。
あくまで控えめ。
令嬢の範疇を一切はみ出さないガッツポーズ。
「……今のわたくし、正直に申し上げて――ガチで、あげ、でございます」
「“ガチであげですわ”は新しすぎるんだけど!?」
憂は吹き出しながらも、視線を逸らす。
(……でも……なんでそんな動き一つで、こんなに可愛いの……)
千秋はその反応を不思議そうに見つめ、首を小さく傾げた。
「何か……おかしな点がございました?」
「おかしいっていうか……千秋が言うと、全部上品なのに全部ギャルで……
脳が追いつかない」
「まあ」
千秋は上品に手を口元へ添え、くすりと笑った。
「それは恐らく……“ギャップ萌え”という現象かと存じますわ」
「自分で言う!?」
「最近、少々お耳にする機会がありましたので」
そして、改めて憂の方を向く。
まっすぐで、優しい眼差し。
「憂さん。わたくし……ずっ友になれましたこと、
本当に“それな”という気持ちでいっぱいですの」
「“それな”にそんな感情込められるの千秋だけだよ……」
憂は苦笑しながら、少しだけ距離を詰めた。
「でもさ……離れてても、忙しくなっても、変わらないでいよ」
「もちろんでございます」
千秋は即答した。
「連絡頻度が多少ラグりましても、
心の距離はノータイムでございますわ」
「言い方がもう優勝なんだけど……」
千秋は少し照れたように視線を逸らし、
それから、意を決したように小さく一礼する。
「では……ずっ友記念のご挨拶を、ひとつ」
「え、なにそれ……嫌な予感しかしない……」
千秋は深く息を整え、
茶会の席に立つかのような完璧な所作で顔を上げた。
そして、澄んだ声で、上品に。
「――ちょりーっす、うぇ~い、でございます」
「なんでそこ入れるの!?」
憂の叫びが、ラウンジに響く。
「今の雰囲気、絶対もっと感動系で締める流れだったでしょ!?」
「親しみを最大限に表現いたしました結果ですわ」
「最大限すぎる!!
清楚とギャルが真正面衝突してる!!」
千秋は少し慌てつつも、
どこか誇らしげに微笑んだ。
「ですが……
憂さんが笑顔になられましたので、
結果オーライ、ということで」
「……ほんと……」
憂は観念したように息をつき、小さく笑う。
「千秋って……ずるいくらい、可愛いよ」
千秋の頬が、ゆっくりと赤く染まった。
「まあ……そのように仰っていただけますと……
わたくし、内心では“それしか勝たん”でございます」
「最後までやる気だこの人!!」
二人の笑い声は、
朝の光と一緒に、空港の窓辺へ溶けていった。
……が。
少しして、千秋はふっと息を整えた。
背筋を正し、いつもの落ち着いた佇まいに戻る。
「――失礼いたしました」
先ほどまでの軽やかな調子は影を潜め、
声は静かで、やわらかく、まぎれもなく“いつもの千秋”だった。
「少々、はしゃぎすぎましたわね。
冗談が過ぎましたこと、お許しください」
「え?」
憂は一瞬きょとんとする。
「……やめるの?」
「ええ。今は、きちんとした言葉でお伝えしたくて」
千秋はそう言って、憂をまっすぐに見つめた。
飾りのない、真剣な眼差し。
「憂さん。先ほどのお言葉……とても嬉しく思っております」
ほんの少し、言葉を選ぶ間。
「友だちでいられること。
それも“ずっと”と仰っていただけたこと。
わたくしにとっては――とても大切な約束ですわ」
「千秋……」
「離れても、環境が変わっても、
関係が薄れることのないよう……
わたくしなりに、誠実でありたいと思っております」
憂は、思わず小さく息を吸った。
「……うん。そういうとこだよ、千秋」
「?」
「ふざけてても、戻ってくるときはちゃんと戻ってくる。
それが……好き」
千秋の頬が、また少しだけ赤くなる。
「……ありがとうございます」
それ以上は何も言わず、二人は並んで、再び窓の外を見た。
飛行機が、静かに動き出す。
――清楚で、
――少しだけお茶目で、
――そして、真っ直ぐな心を持つ千秋。
――照れ屋で、
――優しくて、
――ちゃんと受け止める憂。
旅立ちの空港で芽生えたのは、
冗談の奥にある本音を、互いに分かち合える関係。
“清楚ギャル千秋”は一旦お休み。
けれど――
“ずっと友だち”という絆だけは、
ここに確かに残っていた。
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