沈黙のういザード 

豚さん

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29話 My Friend

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 空港の喧騒がゆるく遠のき、
 ガラス越しの光だけがふたりを包んでいた。

 泣き笑いの余韻の中で、
 憂の胸には、まるで 青春のポップソングみたいな鼓動 が響いていた。

 ――離れてしまうのは寂しい。
 ――でも、踏み出す背中を応援したい。

 そんな矛盾が胸の奥でリズムを刻む。

(千秋と過ごした時間……全部、宝物みたいだったな)

 誕生日、文化祭、クリスマス。
 一瞬一瞬が胸に残っていて、
 その全部が今の憂をそっと支えていた。

 まるで“あの頃の思い出を力にして未来へ走る”ポップソングの主人公みたいに。

 憂は決意を込めて、鞄から白い小箱を取り出した。

「千秋に……渡したいものがあるの」

 小箱を開くと――
 淡く光を宿した シルバーのイヤリングが二つ。

 高価ではない。宝石もない。
 でも、その銀色は
 青春の光をぎゅっと閉じ込めたみたいな温度を持っていた。

「家庭教師のバイトで貯めて……買ったんだ。
 千秋に、つけてほしくて」

 憂の告白は、飾り気がなくて、まっすぐで。
 その素直さが千秋の胸をじん、と刺す。

(……あぁ。
 やっぱり……憂さんの“そういうところ”が……大好き……)

 千秋はふるえる指で小箱を閉じ、首を横に振った。

「……受け取れませんわ」

 その言葉に、憂の心がひやりと強張る。

「ごめん……勝手に……」

「違いますの!」

 千秋は憂の手をとり、
 ひとつのイヤリングをそっと自分の耳に飾った。

「わたくしは……まだ半人前ですもの。
 半分だけ、いただきますわ」

 銀の光が千秋の白い頬で揺れ、
 まるで告白の余韻のようにきらめく。

「残りのひとつは……
 わたくしが“プロ”となり、胸を張って帰国したその日に。
 憂さんの手で……つけていただけますか?」

 その瞳は涙を含んで揺れているのに、
 芯は強くてまっすぐで――

 憂は息をのむ。

 名前を呼んだ瞬間、
 憂の胸の奥で、ひとつだけはっきりとした想いが灯った。

(“またね”じゃない……
 “いつか”でもない……
 千秋は――必ず、帰ってくるんだ)

 千秋の瞳に宿る光は、
 別れの不安なんてかき消してしまうほど確かな色をしていた。

 憂は、震える指先でそっと残りのイヤリングをつまむ。

 まるで、遠く離れても千秋と繋がる“証”を胸に抱くように――
 もう片方のイヤリングを 自分の耳へ静かに飾った。

「じゃあ……これは預かるね。
 千秋が帰ってきて、二人で――完成させよ」

 その言葉を聞いた瞬間、
 千秋の胸にあふれた感情が、涙になって溢れた。

「憂さん……っ……
 わたくし……本当に……あなたが……大好きですわ……!」

 ――恋とか友情とかでは割り切れない。
 ――分類できない、大切で、切なくて、強い想い。

 それは、まるで 青春のポップソングに隠された“本当のメロディ” のようだった。

 憂は千秋の手を包み、そっと微笑む。

「千秋のそういうところ……
 飾らないで素直に話してくれるところ……
 わたし、すっごく好きだよ」

 千秋の瞳が震え、息を呑む。

 “好き”――
 その一言が、胸の一番奥に響いてしまう。

(どうしましょう……
 涙が……またこぼれてしまいますわ……)

 でも、こぼれた涙は
 悲しみではなく、
 “未来へ進む力”みたいにあたたかかった。

 アナウンスが静かに流れる。

『――ご搭乗のお客様は、まもなくゲートへお進みください』

 旅立ちの時間が迫っていた。

 千秋は憂へ向き直り、小さく微笑む。

「憂さん……いってきますわ」

 憂は涙をこらえながら笑って言う。

「いってらっしゃい、千秋。
 帰ってくるの、待ってるから」

 二人はそっと抱きしめ合った。

 強く、でも優しく。
 離れてしまう前の最後の温度を、胸に刻み込むように。

 銀のイヤリングが、互いの耳で揺れた。

 ――ふたりで作る未来のハーモニー。
 ――離れても繋がっている、青春の証。

 そして千秋は、
 憂に見守られながら、ゆっくりゲートへ向かって歩き出した。

 その背中は、光の方へ進んでいた。

(飾らない素直なあなたが好き。
 離れても……絶対に忘れないよ、千秋)

 憂は胸に手を当て、そっと呟いた。

 ――青春のポップソングみたいに、
 切なくて、優しくて、強い物語が
 ここからまた続いていく。
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