沈黙のういザード 

豚さん

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10話 団子三本分の距離

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 リビングのテーブルに、
 憂は改めて包みを並べた。

「……じゃあ、改めて、今日のお土産」

 葉月が、すっと姿勢を正す。

「はいはい。
 発表どうぞ、憂ちゃん」

 包みを開いた瞬間、
 まず目に飛び込んできたのは、俵の形をしたみたらし団子だった。

 丸い団子とは違い、少し角ばった形。
 一本一本がきちんと揃えられ、
 表面には控えめな照りが浮かんでいる。

「もちっとした弾力があって、甘さもいつもより控えめなんだ」

 憂がそう説明する間にも、
 葉月はもう箸を取っていた。

「へえ……」

 俵形のみたらし団子をひとつつまみ、
 軽く持ち上げて確かめる。

 ――もぐ。

 次の瞬間、
 葉月のまぶたが、すっと下がった。

 噛みしめる動きが、自然とゆっくりになる。
 弾力のある餅が歯に沿って沈み、
 タレの甘みが、後からじわりと追いかけてくる。

 一口、もう一口。
 無言のまま噛み続けてから、
 小さく息を吐いた。

「……うん。これ、いい」

 声は低く、素直だった。

「みたらしって、
 甘さが前に出すぎるの多いけど……」

 団子を見つめながら、

「これは、焦げが少ない分、
 甘みがきれいだね」

 憂は、ほっと胸をなで下ろす。

「でしょ……?
 なんか、違う甘さだった」

 続いて、きんつばの包みを開く。

 少し大きめで、ずっしりとした重み。
 しっかりした皮の中に、
 小豆がぎっしりと詰まっているのが分かる。

 葉月は、今度はきんつばを手に取った。

「……これは、見ただけで分かるやつ」

 一口。

「……あ」

 思わず、声が漏れる。

 皮はほどよく香ばしく、
 中の餡は風味が濃いのに、甘すぎない。

「……これ、満足感すごい」

「うん。
 ちょっと大きめなんだって」

 そう言ったそばから、
 葉月は再びみたらし団子に手を伸ばす。

「……あ」

「……」

 憂は、じっと見てから言った。

「……葉月姉」

「なに?」

「……食べすぎじゃない?」

「え?
 まだ全然いけるけど?」

 みたらしをもぐもぐしながら、真顔。

 憂は一度ため息をつき、
 話題を変える。

「そういえば……
 このお土産、例の執事さんからなんだ」

「例の?」

「すごく背が高くて、
 顔も整ってて……」

 そこまで言ったところで、
 葉月がぴたりと手を止めた。

「ああ」

「……え?」

「あの人ね、
 小鈴ちゃんのお兄ちゃんだよ」

「……お兄さん!?」

「そうそう。本職は別にちゃんとしてるんだけどね、
 趣味で執事やってるんだって」

「……趣味……?」

 憂は、その単語の意味を頭の中で何度か転がし――
 理解を、諦めた。

「しかもね」

 葉月は、さらっと続ける。

「かなりのシスコンらしいよ。
 妹のことが心配すぎて、
 気づいたら背後に立ってるタイプ」

「背後……」

「“お嬢様に不穏な影は近づけません”って顔で、
 無言で紅茶差し出してくる感じ」

「こ、こわ……」

「でも本人はすごく真面目でさ、妹が無茶しないか、変な人に絡まれてないか、
 ずーっと気にしてるんだって」

 そこで葉月、にやっと笑う。

「……ほら、どこかで聞いたことあるでしょ?」

 憂は一拍置いてから、はっとして――
 勢いよく言い返した。

「それ、葉月姉と一緒だよ!!」

「えっ」

 一瞬、間が空く。

「……えっ?」

「距離感近くて、過保護で、
 “心配だから”って言いながら全部把握してて……!」

「ちょ、ちょっと待って!?
 お姉ちゃん、あそこまで不審者じゃないわよ!?」

「同類です!!」

「同類って言わないでぇぇぇ!!」

 憂の即答に、葉月は頭を抱え、
 遠くで事情を知らない誰かが、くすっと笑った。

(……血は争えないんだ……)

「あと、もう一人いるよ。お兄ちゃん」

「……すごい家……」

 葉月はにやっと笑う。

「ははーん。
 さては、好きになっちゃった?」

「ち、違う!」

 憂は慌てて首を振る。

「ただ……
 お兄さんがいたら、
 こんな感じなのかなって思っただけ」

 少し間を置いて、憂は続けた。

「それにね……お兄さん、妹のことでわたしにお礼を言ってくれて、
 すごく丁寧で、優しさがにじみ出てる人だったんだ」

「ふーん?」

 葉月は疑いの目を向けつつ、
 またみたらしを一口。

「小鈴ちゃん、
 すごくいい子だったでしょ?」

「……うん」

 憂は少し考えてから答える。

「最初は、正直ちょっと怖そうだったけど……」
 実際は、ひとなつっこいというか……」

「だよね~」

 葉月はうなずく。

「小鈴ちゃん、あんまり人と関わらないタイプだから。
 憂ちゃんのこと、相当気に入ったんだと思うよ」

「……そうかな」

「そうそう」

 葉月は笑って言った。

 葉月は、みたらし団子をもう一本手に取りながら、ふっと思い出したように言った。

「でもさ、小鈴ちゃんって……
 あたしが近づくと、すぐ逃げるのよね」

「……ちょっと待って」

 憂は即座に突っ込んだ。

「それ、原因わかってないでしょ」

「え? なんで?」

 葉月はきょとんとしている。

「葉月姉が近づくとさ、
 経験値高いモンスターにエンカウントしたみたいに、
 即・逃げる行動とるんだと思う」

「なにそれ!?」

「自覚ないのが一番こわいよ」

 憂はため息まじりに続ける。

「オーラが強すぎるの。
 陽キャすぎるし、距離詰めるの早すぎ」

「ひどい!」

「でも事実」

 葉月は少し考えてから、団子をくわえたまま首を傾げた。

「……じゃあさ、
 憂ちゃんは静かなオーラだから、波長が合うってこと?」

「……そういう言い方やめて」

 葉月は笑いながら、

「なるほどねえ」と勝手に納得している。

 憂は、もう一度ため息をついた。

「でも納得」

 葉月は勝手に結論づける。

「憂ちゃん、
 高校デビュー頑張ったんだよね?」

「……でも、
 友達はあんまりできなかった」

 憂は小さく笑う。

「だから……
 小鈴さんと友達になれたの、
 ちょっと嬉しい」

 その言葉に、
 葉月は優しく目を細める。

「よかったね」

 少し間を置いて。

「あ、そうだ。
 リナが、日本に来たんだよ」

 憂の声が、少し明るくなる。

「夏の……
 ツンデレなリナちゃん?」

「ツンデレって言わないで」

「同じ制服着てたからさ、
 後輩になるんじゃない?」

 葉月は、ぱっと表情を輝かせる。

「え、新しい妹できる?」

「できないから!」

「いいなあ」

「よくない!」

 憂は少しむっとしながら、
 葉月の皿を見る。

「……っていうか」

「みたらし、
 何本目?」

「……覚えてない」

「葉月姉!」

 憂は本気で怒った。

「それ、
 わたしのお土産なんだけど!」

「ごめんごめん!」

 そう言いながら、
 最後の一本に手を伸ばそうとする葉月。

「だーめ!」

 ぱしっと止める。

 葉月は笑い、
 憂も、つられて笑った。

 テーブルの上には、
 甘い香りと、
 姉妹の穏やかな時間が残っていた。
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