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16話 難波駅、待ち合わせ
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土曜日の難波駅前。
人の波は相変わらず多く、
改札を出たところは待ち合わせの人で溢れていた。
その中で――
憂は、少しだけ落ち着かない様子で立っていた。
今日は、いつもより少しだけお洒落をしている。
淡いミントグリーンのワンピースは、全体としては落ち着いた印象で、色味もやさしい。
派手さはないけれど、そのぶん、清潔感と上品さが際立っていた。
けれど――
それだけではない。
ワンピースの下には、白いフリルのワンピースを重ねている。
歩くたび、
ミントグリーンの裾の奥から、
白いフリルがほんの少しだけ覗く。
風に揺れたとき、
足を止めた拍子、
ふとした瞬間にだけ、やわらかな白が顔を出す。
きちんとした印象の中に、
隠すように仕込まれた可憐さ。
近くで見た人だけが、
「あ……」と気づく、控えめなお洒落だった。
足元は歩きやすさを選びながらも、
全体の雰囲気を崩さない、上品な靴。
鏡に映る自分を一度だけ確かめ、
憂は、胸の前でそっと手を組んだ。
(……これなら、大丈夫かな)
背伸びしすぎない。
でも、いつもより少しだけ特別。
そんな気持ちが、そのまま形になった装いだった。
髪も、いつもより丁寧に整えていて、
頬にかかる毛先を何度か指で直しては、
スマホの画面をちらりと確認する。
(……まだ、かな)
そわそわしながら人の流れを見ていると――
「……憂」
後ろから、落ち着いた声。
振り返った瞬間、
憂は思わず息をのんだ。
そこに立っていたのは、リナだった。
今日はサイドテールではない。
肩から背中にかけて流れる、きれいなロングヘア。
毛先は軽く整えられ、
光を受けて、金色が柔らかくきらめいている。
服装も、いつもとは違っていた。
身につけているのは、
落ち着いたグレージュのトップス。
胸元は控えめで、
鎖骨のラインが静かに浮かび上がる程度の開き。
生地はなめらかで、
身体の動きに合わせて、自然にしなやかさを描いていた。
ボトムスは、
深いネイビーのスカート。
膝が隠れる丈で、
歩くたび、裾がわずかに揺れる。
身体のラインをきれいに見せながらも、
決して主張しすぎない。
足元は、低めのヒール。
華奢なデザインが、
全体をきりりと引き締めていた。
派手ではない。
けれど、隙もない。
いつもの鋭さはそのままに、
落ち着きと余裕が加わった、
“大人の女性”の装いだった。
「……リナ?」
一瞬、名前を呼ぶのも忘れる。
「なに、その顔」
リナが、少し眉をひそめる。
「……すごく、きれい」
素直な言葉だった。
「え?」
「服も、髪も……
大人っぽくて、びっくりした」
一拍。
「……ばっかじゃないの」
リナはぷいっと顔を逸らす。
「そんなの……」
耳まで、ほんのり赤い。
「小鈴様が、
服もヘアメイクも、少し見てくださっただけよ」
ぶっきらぼうに言いながらも、
その声には、
きちんと“選ばれた”ことへの誇らしさが、
静かに滲んでいた。
「そ、そうなんだ……」
憂は改めてリナを見る。
「でも……やっぱり似合ってる。
すごく、リナらしい」
そう言ってから、
少し照れたように付け足す。
「……かわいい」
次の瞬間。
「……っ」
リナが、ぴたりと足を止めた。
一拍。
ゆっくり振り返り、
憂の顔をまっすぐ見る。
「……それは、こっちの台詞」
「え?」
「そんな格好で、
そんな顔で見てくるの……」
視線を逸らしながら、
小さく息を吐く。
「……憂のほうが、かわいいわよ」
言い切った瞬間、
自分でも驚いたのか、
リナはわずかに肩を強張らせた。
「……っ」
耳まで赤くなる。
「べ、別に……
深い意味はないから」
早口で付け足し、
くるりと背を向ける。
「ほら、行くわよ」
歩き出す背中は、
さっきより少しだけ早足だった。
「行きたい店、あるんだから。
すぐ行くの」
その背中は、少しだけ早足。
「待って、リナ!」
憂が慌てて追いかける。
並んで歩きながら、
ふと横顔を見ると――
リナの口元が、
ほんのわずかに緩んでいるのが見えた。
土曜日の難波。
人混みの中で、
二人の距離は、自然と近づいていった。
人の波は相変わらず多く、
改札を出たところは待ち合わせの人で溢れていた。
その中で――
憂は、少しだけ落ち着かない様子で立っていた。
今日は、いつもより少しだけお洒落をしている。
淡いミントグリーンのワンピースは、全体としては落ち着いた印象で、色味もやさしい。
派手さはないけれど、そのぶん、清潔感と上品さが際立っていた。
けれど――
それだけではない。
ワンピースの下には、白いフリルのワンピースを重ねている。
歩くたび、
ミントグリーンの裾の奥から、
白いフリルがほんの少しだけ覗く。
風に揺れたとき、
足を止めた拍子、
ふとした瞬間にだけ、やわらかな白が顔を出す。
きちんとした印象の中に、
隠すように仕込まれた可憐さ。
近くで見た人だけが、
「あ……」と気づく、控えめなお洒落だった。
足元は歩きやすさを選びながらも、
全体の雰囲気を崩さない、上品な靴。
鏡に映る自分を一度だけ確かめ、
憂は、胸の前でそっと手を組んだ。
(……これなら、大丈夫かな)
背伸びしすぎない。
でも、いつもより少しだけ特別。
そんな気持ちが、そのまま形になった装いだった。
髪も、いつもより丁寧に整えていて、
頬にかかる毛先を何度か指で直しては、
スマホの画面をちらりと確認する。
(……まだ、かな)
そわそわしながら人の流れを見ていると――
「……憂」
後ろから、落ち着いた声。
振り返った瞬間、
憂は思わず息をのんだ。
そこに立っていたのは、リナだった。
今日はサイドテールではない。
肩から背中にかけて流れる、きれいなロングヘア。
毛先は軽く整えられ、
光を受けて、金色が柔らかくきらめいている。
服装も、いつもとは違っていた。
身につけているのは、
落ち着いたグレージュのトップス。
胸元は控えめで、
鎖骨のラインが静かに浮かび上がる程度の開き。
生地はなめらかで、
身体の動きに合わせて、自然にしなやかさを描いていた。
ボトムスは、
深いネイビーのスカート。
膝が隠れる丈で、
歩くたび、裾がわずかに揺れる。
身体のラインをきれいに見せながらも、
決して主張しすぎない。
足元は、低めのヒール。
華奢なデザインが、
全体をきりりと引き締めていた。
派手ではない。
けれど、隙もない。
いつもの鋭さはそのままに、
落ち着きと余裕が加わった、
“大人の女性”の装いだった。
「……リナ?」
一瞬、名前を呼ぶのも忘れる。
「なに、その顔」
リナが、少し眉をひそめる。
「……すごく、きれい」
素直な言葉だった。
「え?」
「服も、髪も……
大人っぽくて、びっくりした」
一拍。
「……ばっかじゃないの」
リナはぷいっと顔を逸らす。
「そんなの……」
耳まで、ほんのり赤い。
「小鈴様が、
服もヘアメイクも、少し見てくださっただけよ」
ぶっきらぼうに言いながらも、
その声には、
きちんと“選ばれた”ことへの誇らしさが、
静かに滲んでいた。
「そ、そうなんだ……」
憂は改めてリナを見る。
「でも……やっぱり似合ってる。
すごく、リナらしい」
そう言ってから、
少し照れたように付け足す。
「……かわいい」
次の瞬間。
「……っ」
リナが、ぴたりと足を止めた。
一拍。
ゆっくり振り返り、
憂の顔をまっすぐ見る。
「……それは、こっちの台詞」
「え?」
「そんな格好で、
そんな顔で見てくるの……」
視線を逸らしながら、
小さく息を吐く。
「……憂のほうが、かわいいわよ」
言い切った瞬間、
自分でも驚いたのか、
リナはわずかに肩を強張らせた。
「……っ」
耳まで赤くなる。
「べ、別に……
深い意味はないから」
早口で付け足し、
くるりと背を向ける。
「ほら、行くわよ」
歩き出す背中は、
さっきより少しだけ早足だった。
「行きたい店、あるんだから。
すぐ行くの」
その背中は、少しだけ早足。
「待って、リナ!」
憂が慌てて追いかける。
並んで歩きながら、
ふと横顔を見ると――
リナの口元が、
ほんのわずかに緩んでいるのが見えた。
土曜日の難波。
人混みの中で、
二人の距離は、自然と近づいていった。
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