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18話 一万円の使い道
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人通りの多い地下街。
オタロードの喧騒から少し離れた場所に、
暖色の灯りが落ち着いた雰囲気の店があった。
「……ここ?」
憂が、店先のメニューを見上げる。
「牛カツ、専門店みたいだね」
「うん」
リナが頷く。
「葉月姉が、
“リナちゃんと美味しいもの食べてきなさい”って」
そう言って、
憂は財布の中から一枚のお札を出した。
「……一万円」
リナが、じっとそれを見る。
「……シスコンね」
やれやれ、と肩をすくめてから、
「でも――」
小さく息を吐き、視線を逸らす。
「ありがたく、いただくわ」
「えへへ」
二人は並んで店に入った。
◆
席に着くと、
ほどなくして運ばれてきた御膳。
目の前には、
衣がきめ細かく揚がった牛カツ。
中心は、ほんのり赤い。
そして――
小さな鉄板。
「……え?」
憂が目を瞬かせる。
「これ、自分で焼くの?」
「そう」
リナは説明書きを読みながら言う。
「レアで提供されて、
ここで好みの焼き加減に仕上げるの」
鉄板に火が入る。
じゅっ。
音とともに、
肉の香りがふわっと立ち上る。
「……すごい」
「焼かなくても、
そのまま食べてもいいみたい」
リナは箸で一切れ持ち上げる。
「レアなほど、
肉感が強いって書いてある」
まずは、
軽く両面を鉄板へ。
「……十秒ずつくらい」
色が、ほんの少し変わる程度。
「これが、
私の一番好きな焼き加減」
そう言って、
何も付けずに一口。
「……」
一瞬、目を伏せる。
「……おいしい」
「そんなに?」
憂も真似して、
同じくらい焼いて、口に運ぶ。
「……!」
思わず、目が見開く。
「やわらかい……!
噛んだ瞬間、
お肉がほどける……」
「でしょ」
次は、味付け。
小皿に並ぶのは、
わさび醤油。
牛カツソース。
山椒塩。
リナは牛カツソースを選び、
卓上の胡麻をすりすりと混ぜる。
「これが、おすすめの食べ方」
ソースに浸して、
一口。
「……最高」
憂も同じようにしてみる。
「……ほんとだ……コクが増える……」
「山椒塩も、意外と合うわよ」
「大人……」
「何それ」
二人で笑う。
◆
続いて運ばれてきたのは、
もう一品。
「……これ、魚?」
「鱧カツ」
リナの声が、
少しだけ弾む。
「旬みたい」
衣の中は、
ふっくら肉厚。
「全面、一分ずつ焼くのがいいらしい」
鉄板で、
じっくり火を入れる。
付け合わせは、
梅ポン酢。
中には、
大葉、生姜、玉ねぎ。
「さっぱり系だね」
一口。
「……!」
憂が、思わず前のめりになる。
「衣サクサクで、中、ほくほく……!」
「でしょ」
リナも頷く。
「脂が乗ってるのに、重くない」
「ご飯、止まらない……」
「わかる」
二人とも、
箸が止まらない。
「追い鱧カツ、頼めるみたい」
「……誘惑やばい」
◆
御膳には、
赤出汁とキャベツも付いていた。
「そういえば」
リナがふと気づく。
「ライス、おかわりできるらしいわ」
「えっ」
「お店の連絡先、登録したら」
「……葉月姉、
ここ知ってたのかな」
「確信犯ね」
二人で、
顔を見合わせる。
「……でも」
憂が、ぽつりと。
「一緒に来れて、よかった」
リナは、少しだけ箸を止める。
「……」
「……なに?」
「別に」
そっぽを向いて、
「悪くないわ」
小さく、そう言った。
地下街の一角。
鉄板の音と、
美味しい香りと、
静かな時間。
葉月の一万円は、
ただの食事代じゃなく――
二人の距離を、
もう一歩、近づけていた。
オタロードの喧騒から少し離れた場所に、
暖色の灯りが落ち着いた雰囲気の店があった。
「……ここ?」
憂が、店先のメニューを見上げる。
「牛カツ、専門店みたいだね」
「うん」
リナが頷く。
「葉月姉が、
“リナちゃんと美味しいもの食べてきなさい”って」
そう言って、
憂は財布の中から一枚のお札を出した。
「……一万円」
リナが、じっとそれを見る。
「……シスコンね」
やれやれ、と肩をすくめてから、
「でも――」
小さく息を吐き、視線を逸らす。
「ありがたく、いただくわ」
「えへへ」
二人は並んで店に入った。
◆
席に着くと、
ほどなくして運ばれてきた御膳。
目の前には、
衣がきめ細かく揚がった牛カツ。
中心は、ほんのり赤い。
そして――
小さな鉄板。
「……え?」
憂が目を瞬かせる。
「これ、自分で焼くの?」
「そう」
リナは説明書きを読みながら言う。
「レアで提供されて、
ここで好みの焼き加減に仕上げるの」
鉄板に火が入る。
じゅっ。
音とともに、
肉の香りがふわっと立ち上る。
「……すごい」
「焼かなくても、
そのまま食べてもいいみたい」
リナは箸で一切れ持ち上げる。
「レアなほど、
肉感が強いって書いてある」
まずは、
軽く両面を鉄板へ。
「……十秒ずつくらい」
色が、ほんの少し変わる程度。
「これが、
私の一番好きな焼き加減」
そう言って、
何も付けずに一口。
「……」
一瞬、目を伏せる。
「……おいしい」
「そんなに?」
憂も真似して、
同じくらい焼いて、口に運ぶ。
「……!」
思わず、目が見開く。
「やわらかい……!
噛んだ瞬間、
お肉がほどける……」
「でしょ」
次は、味付け。
小皿に並ぶのは、
わさび醤油。
牛カツソース。
山椒塩。
リナは牛カツソースを選び、
卓上の胡麻をすりすりと混ぜる。
「これが、おすすめの食べ方」
ソースに浸して、
一口。
「……最高」
憂も同じようにしてみる。
「……ほんとだ……コクが増える……」
「山椒塩も、意外と合うわよ」
「大人……」
「何それ」
二人で笑う。
◆
続いて運ばれてきたのは、
もう一品。
「……これ、魚?」
「鱧カツ」
リナの声が、
少しだけ弾む。
「旬みたい」
衣の中は、
ふっくら肉厚。
「全面、一分ずつ焼くのがいいらしい」
鉄板で、
じっくり火を入れる。
付け合わせは、
梅ポン酢。
中には、
大葉、生姜、玉ねぎ。
「さっぱり系だね」
一口。
「……!」
憂が、思わず前のめりになる。
「衣サクサクで、中、ほくほく……!」
「でしょ」
リナも頷く。
「脂が乗ってるのに、重くない」
「ご飯、止まらない……」
「わかる」
二人とも、
箸が止まらない。
「追い鱧カツ、頼めるみたい」
「……誘惑やばい」
◆
御膳には、
赤出汁とキャベツも付いていた。
「そういえば」
リナがふと気づく。
「ライス、おかわりできるらしいわ」
「えっ」
「お店の連絡先、登録したら」
「……葉月姉、
ここ知ってたのかな」
「確信犯ね」
二人で、
顔を見合わせる。
「……でも」
憂が、ぽつりと。
「一緒に来れて、よかった」
リナは、少しだけ箸を止める。
「……」
「……なに?」
「別に」
そっぽを向いて、
「悪くないわ」
小さく、そう言った。
地下街の一角。
鉄板の音と、
美味しい香りと、
静かな時間。
葉月の一万円は、
ただの食事代じゃなく――
二人の距離を、
もう一歩、近づけていた。
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