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23話 御陵鍋
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春の夜。
御陵家の庭には、まだ少し冷たい空気が残り、白い息がかすかに浮かんでは消えていく。
玄関の扉が開く。
「いらっしゃ~い! リナちゃんも初めての御陵鍋だね!」
葉月が満面の笑みで手を振る。
「……どうも」
リナは靴を脱ぎ、妙に慎重な動きで揃えた。
少し間を置いて、低く一言。
「……人んち、上がるの初めてなんだけど」
横で憂が、思わず吹き出しそうになる。
「え、そうなの?」
「悪い? 勝手がわかなんないのよ」
リナは視線を泳がせ、腕を組んだまま落ち着かない。
「立ってりゃいい? それとも、もう上がっていいの?」
「そこまで警戒しなくていいから!」
葉月が笑いながら言う。
◆
キッチンでは葉月がエプロン姿で奮闘していた。
テーブルいっぱいに具材が並ぶ。
霜降り和牛。
豆腐。
白菜。
春菊。
えのき。
しめじ。
そして太いうどん。
その中でも圧倒的な存在感を放つのは、
きれいなサシが入った——
“明らかに高級すぎる大量の肉”。
「わ、わ……これ全部鍋に入れるの?」
リナの目が大きく開く。
葉月は誇らしげに胸を張った。
「そうだよ~。今日は御陵家の“本気鍋”だからね!」
「このお肉ね……実は、小鈴ちゃんからの謝罪の品なの」
葉月が少し困ったように言った。
「謝罪?」
「うん。冷凍庫に入らないくらい届いちゃってさ。
正直、どうしようかと思った」
憂は視線を逸らし、気まずそうに小さく咳払いをする。
「……小鈴さん、わたしたちがたくさん食べるの知ってるから」
「知ってるどころじゃないでしょ」
リナが、鍋の中を覗き込みながら言った。
「これ全部、アンタならいけるって判断でしょ」
「失礼だよ」
憂がむっとして言い返す。
「三日以内には、ちゃんと食べきれるもん」
「三日以内!?」
リナが思わず声を上げる。
「いやいや、“三日以内”って言葉がもう普通じゃないから!」
葉月は吹き出しながら、肩をすくめた。
「まあ……だから鍋にしたんだけどね。リナちゃん、お肉好き?」
「……食べるわよ。わりと……いや、かなりね」
(かわいい……)
憂は心の中でそっと呟いた。
◆
ぐつぐつ……
土鍋から弾むような音が部屋に広がる。
「はい、リナちゃん、これ~」
葉月が和牛をどんどん投入する。
「ちょっ……! そんな大量に!?
これ本当に三人前!? いや四人前はあるでしょ!?」
「いいのいいの! 今日は“小鈴様スポンサーの鍋フェス”だから!」
憂がくすっと笑う。
「リナの驚く顔、すごい新鮮……」
「うっさい! 実況すんなってば!!」
リナの耳が少し赤い。
肉の甘い香りと春菊のほろ苦い匂いが混じり、春の冷たい空気を忘れさせるような温かさが満ちていく。
◆
「いただきます!」
憂の声で箸が伸びる。
「……おいしい……」
リナが呟いたその一言で、葉月の顔がぱっと輝いた。
「でしょ~!? 御陵家の鍋は全国ランク上位なのだ!」
「すき焼きじゃないのに、この甘さ……なんなの……?」
「御陵家直伝の“秘密のタレ”です!」
憂がうれしそうにリナの器に豆腐を入れる。
「リナ、これもどうぞ」
「ありがとう……。……ねぇ、なんかさ、こういうの……変な感じ」
「変?」
「うん……招待されて、こんないい肉つついて……
なんていうか……“ちゃんと歓迎されてる席”って感じで……くすぐったい」
憂はふわっと笑う。
「そういう場だよ」
「アンタのいつもの場所でしょ!?」
「リナちゃんも、もうこっち側だよ」
「はあぁぁ!?何その雑な囲い込み!?
心の準備もなく仲間扱いとか、意味わかんないんだけど!?」
リナは盛大にむせた。
葉月はお腹を押さえて笑う。
「かわいい~!!」
「笑いすぎ!!」
けれど、リナの頬はどこか緩んでいた。
御陵家の庭には、まだ少し冷たい空気が残り、白い息がかすかに浮かんでは消えていく。
玄関の扉が開く。
「いらっしゃ~い! リナちゃんも初めての御陵鍋だね!」
葉月が満面の笑みで手を振る。
「……どうも」
リナは靴を脱ぎ、妙に慎重な動きで揃えた。
少し間を置いて、低く一言。
「……人んち、上がるの初めてなんだけど」
横で憂が、思わず吹き出しそうになる。
「え、そうなの?」
「悪い? 勝手がわかなんないのよ」
リナは視線を泳がせ、腕を組んだまま落ち着かない。
「立ってりゃいい? それとも、もう上がっていいの?」
「そこまで警戒しなくていいから!」
葉月が笑いながら言う。
◆
キッチンでは葉月がエプロン姿で奮闘していた。
テーブルいっぱいに具材が並ぶ。
霜降り和牛。
豆腐。
白菜。
春菊。
えのき。
しめじ。
そして太いうどん。
その中でも圧倒的な存在感を放つのは、
きれいなサシが入った——
“明らかに高級すぎる大量の肉”。
「わ、わ……これ全部鍋に入れるの?」
リナの目が大きく開く。
葉月は誇らしげに胸を張った。
「そうだよ~。今日は御陵家の“本気鍋”だからね!」
「このお肉ね……実は、小鈴ちゃんからの謝罪の品なの」
葉月が少し困ったように言った。
「謝罪?」
「うん。冷凍庫に入らないくらい届いちゃってさ。
正直、どうしようかと思った」
憂は視線を逸らし、気まずそうに小さく咳払いをする。
「……小鈴さん、わたしたちがたくさん食べるの知ってるから」
「知ってるどころじゃないでしょ」
リナが、鍋の中を覗き込みながら言った。
「これ全部、アンタならいけるって判断でしょ」
「失礼だよ」
憂がむっとして言い返す。
「三日以内には、ちゃんと食べきれるもん」
「三日以内!?」
リナが思わず声を上げる。
「いやいや、“三日以内”って言葉がもう普通じゃないから!」
葉月は吹き出しながら、肩をすくめた。
「まあ……だから鍋にしたんだけどね。リナちゃん、お肉好き?」
「……食べるわよ。わりと……いや、かなりね」
(かわいい……)
憂は心の中でそっと呟いた。
◆
ぐつぐつ……
土鍋から弾むような音が部屋に広がる。
「はい、リナちゃん、これ~」
葉月が和牛をどんどん投入する。
「ちょっ……! そんな大量に!?
これ本当に三人前!? いや四人前はあるでしょ!?」
「いいのいいの! 今日は“小鈴様スポンサーの鍋フェス”だから!」
憂がくすっと笑う。
「リナの驚く顔、すごい新鮮……」
「うっさい! 実況すんなってば!!」
リナの耳が少し赤い。
肉の甘い香りと春菊のほろ苦い匂いが混じり、春の冷たい空気を忘れさせるような温かさが満ちていく。
◆
「いただきます!」
憂の声で箸が伸びる。
「……おいしい……」
リナが呟いたその一言で、葉月の顔がぱっと輝いた。
「でしょ~!? 御陵家の鍋は全国ランク上位なのだ!」
「すき焼きじゃないのに、この甘さ……なんなの……?」
「御陵家直伝の“秘密のタレ”です!」
憂がうれしそうにリナの器に豆腐を入れる。
「リナ、これもどうぞ」
「ありがとう……。……ねぇ、なんかさ、こういうの……変な感じ」
「変?」
「うん……招待されて、こんないい肉つついて……
なんていうか……“ちゃんと歓迎されてる席”って感じで……くすぐったい」
憂はふわっと笑う。
「そういう場だよ」
「アンタのいつもの場所でしょ!?」
「リナちゃんも、もうこっち側だよ」
「はあぁぁ!?何その雑な囲い込み!?
心の準備もなく仲間扱いとか、意味わかんないんだけど!?」
リナは盛大にむせた。
葉月はお腹を押さえて笑う。
「かわいい~!!」
「笑いすぎ!!」
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