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28話 その間だけは、わたくしを
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放課後。
校舎から流れ出る生徒たちの波が少し落ち着いたころ。
「秋香ちゃん、一緒に帰ろ」
葉月が、いつもの軽い調子で声をかけた。
「ええ」
秋香は微笑んで頷き、二人並んで校門を出る。
夕方の空はやわらかな橙色で、風はまだ春の名残を残していた。
しばらく歩いてから、葉月がぽつりと口を開く。
「……今日さ」
「はい?」
「結衣ちゃん、ちょっと元気なかったでしょ」
秋香は一瞬だけ目を瞬かせ、すぐに小さく笑った。
「……やはり、気づいていらしたのですね」
「うん。なんかさ、あたし、変なこと言ったかなーって」
肩をすくめる葉月。
「理恵姐さんの話、出したから……それで、なにか思い出させちゃったのかなって」
秋香は少しだけ歩幅を緩めた。
「その件は……」
ほんの一瞬、言葉を選ぶ沈黙。
「……あまり、深く触れないほうがよろしいかと」
声は穏やかだが、そこにははっきりとした線が引かれている。
「そうだよね」
葉月は、素直に頷いた。
「無理に聞くのも、違うし」
秋香は空を見上げる。
「ただ……」
静かに続けた。
「憂さんとの出会いで、結衣さんの何かが、少しでも変わってくれたら……そう、期待はしております」
「……うん」
葉月は微笑んだ。
「憂ちゃんもさ、新しい刺激があったほうがいいしね」
その言葉に――
秋香が、ぴたりと足を止める。
「……葉月さん」
「ん?」
秋香は、少しだけ唇を尖らせた。
「たまには……わたくしのことも、心配してくださらないのですか?」
「え?」
一瞬、きょとんとする葉月。
「だって……」
秋香は、視線を逸らしながら、しかし距離を詰めてくる。
「いつも憂さん、憂さん、と……わたくしは、後回しですわ」
「ちょ、ちょっと待って」
葉月は慌てて笑う。
「秋香ちゃん、拗ねてる?」
「拗ねておりませんわ」
きっぱり否定。
しかし、腕に絡める指先は正直だった。
「……ただ、少しだけ」
夕暮れの道で、秋香は葉月の腕に身体を預ける。
距離、ゼロ。
「キャンプ……楽しみですの」
低く、甘えるような声。
「葉月さんと、二人きりで……夜の火を見て、星を見て……」
「……秋香ちゃん」
葉月は苦笑しつつも、その身体を受け止める。
「可愛いこと言うじゃん」
「事実ですわ」
秋香は顔を上げ、近い距離で囁く。
「その間だけは……憂さんも、結衣さんも、小鈴さんも、忘れてくださいな」
挑発的で、独占欲を隠さない視線。
葉月は一瞬、言葉を失い――
そして、ぽん、と秋香の頭に額を寄せた。
「……ほんと、甘えん坊」
「葉月さんが、甘やかすからです」
二人は視線を絡めたまま、小さく笑う。
夕焼けの道で、肩を寄せ合いながら。
その空気は、友情ではなく、
姉妹でもなく――
確かに、恋に近い温度を帯びていた。
校舎から流れ出る生徒たちの波が少し落ち着いたころ。
「秋香ちゃん、一緒に帰ろ」
葉月が、いつもの軽い調子で声をかけた。
「ええ」
秋香は微笑んで頷き、二人並んで校門を出る。
夕方の空はやわらかな橙色で、風はまだ春の名残を残していた。
しばらく歩いてから、葉月がぽつりと口を開く。
「……今日さ」
「はい?」
「結衣ちゃん、ちょっと元気なかったでしょ」
秋香は一瞬だけ目を瞬かせ、すぐに小さく笑った。
「……やはり、気づいていらしたのですね」
「うん。なんかさ、あたし、変なこと言ったかなーって」
肩をすくめる葉月。
「理恵姐さんの話、出したから……それで、なにか思い出させちゃったのかなって」
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「その件は……」
ほんの一瞬、言葉を選ぶ沈黙。
「……あまり、深く触れないほうがよろしいかと」
声は穏やかだが、そこにははっきりとした線が引かれている。
「そうだよね」
葉月は、素直に頷いた。
「無理に聞くのも、違うし」
秋香は空を見上げる。
「ただ……」
静かに続けた。
「憂さんとの出会いで、結衣さんの何かが、少しでも変わってくれたら……そう、期待はしております」
「……うん」
葉月は微笑んだ。
「憂ちゃんもさ、新しい刺激があったほうがいいしね」
その言葉に――
秋香が、ぴたりと足を止める。
「……葉月さん」
「ん?」
秋香は、少しだけ唇を尖らせた。
「たまには……わたくしのことも、心配してくださらないのですか?」
「え?」
一瞬、きょとんとする葉月。
「だって……」
秋香は、視線を逸らしながら、しかし距離を詰めてくる。
「いつも憂さん、憂さん、と……わたくしは、後回しですわ」
「ちょ、ちょっと待って」
葉月は慌てて笑う。
「秋香ちゃん、拗ねてる?」
「拗ねておりませんわ」
きっぱり否定。
しかし、腕に絡める指先は正直だった。
「……ただ、少しだけ」
夕暮れの道で、秋香は葉月の腕に身体を預ける。
距離、ゼロ。
「キャンプ……楽しみですの」
低く、甘えるような声。
「葉月さんと、二人きりで……夜の火を見て、星を見て……」
「……秋香ちゃん」
葉月は苦笑しつつも、その身体を受け止める。
「可愛いこと言うじゃん」
「事実ですわ」
秋香は顔を上げ、近い距離で囁く。
「その間だけは……憂さんも、結衣さんも、小鈴さんも、忘れてくださいな」
挑発的で、独占欲を隠さない視線。
葉月は一瞬、言葉を失い――
そして、ぽん、と秋香の頭に額を寄せた。
「……ほんと、甘えん坊」
「葉月さんが、甘やかすからです」
二人は視線を絡めたまま、小さく笑う。
夕焼けの道で、肩を寄せ合いながら。
その空気は、友情ではなく、
姉妹でもなく――
確かに、恋に近い温度を帯びていた。
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