沈黙のういザード 

豚さん

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24話 本音が鳴る場所

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 長い練習のあとだった。

 床には汗の跡が残り、空気は少し重たい。
 憂は膝に手をついて息を整え、小鈴と結衣もそれぞれタオルで首元を拭いている。

「……よし」

 理恵が、ぱん、と手を叩いた。

「次。音出すわよ」

 三人が顔を上げる。

 理恵は部屋の隅に置いてあった機材ケースを次々に開けていく。
 ドラムセット、ギター、ベース。

「え、ここでですか……?」

 憂が思わず声を上げる。

「当たり前でしょ」

 理恵は淡々と言う。

「身体動かして、呼吸乱して、集中力削った状態。そのあとに音合わせるのが一番本音出るのよ」

 ベースを手に取りながら、ちらりと小鈴を見る。

「ベースは本来、秋香の担当だったけど」

「……小鈴、いけるよね?」

「……秋香さんほどではありませんが」

 小鈴は一拍置いて、静かに答える。

「それなりには、弾けますわ」

「十分」

 即答だった。

「ドラム」

 理恵の視線が、結衣に向く。

「結衣。座りなさい」

「え、僕?」

 結衣は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに肩をすくめる。

「まあ、叩くのは得意だし」

「余計なことしなくていいから。リズム、正確に刻むだけ」

「はーい、鬼教官」

 軽口を叩きながらも、結衣は素直にドラムの前に座る。

 そして最後に。

 理恵はギターを肩にかけ、憂を見る。

「ギターは、あたし」

 弦を軽く鳴らす。
 乾いた、芯のある音。

「で――」

 一歩、憂に近づく。

「ボーカル」

 憂の心臓が、どくんと鳴った。

「……わ、たし、ですか?」

「他に誰がいるのよ」

 理恵は、当然のように言う。

「今日は逃がさないから。遠慮も加減もなし」

 アンプのスイッチを入れる。

「じゃ」

 結衣を見る。

「カウント」

「了解」

 スティックが、軽く鳴る。

「ワン、ツー――」

 音が、走り出す。

 ドラムのリズム。
 ベースがそれを支え、ギターが空間を切り裂く。

 理恵は振り向きもせず、言った。

「――憂。思いっきり歌ってみな」

 逃げ場はない。
 でも――

 憂は、深く息を吸った。

 そして、声を出した。

 まだ粗い。
 まだ震えている。

 それでも。

 音に、真正面からぶつかるような歌声だった。

 理恵の口元が、ほんの一瞬だけ――
 満足そうに、歪んだ。
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