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3話 お斎
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葉月は紙袋を抱えながら、玄関の段差を慎重に上がった。
「おばあちゃん、お供え持ってきたよ」
紙袋から丁寧に取り出すと、中には色とりどりのお菓子や季節の果物が並び、
のしには「御霊前」と書かれ、黄白の結び切りがきちんと結ばれていた。
紙の手触りや和紙の香りが、静かな空気の中に漂う。
「お父ちゃんのお供えにと思って……」
葉月は祖母に一言添え、仏壇にすぐ供えてもらえるよう紙袋から丁寧に取り出して手渡した。
祖母は少し申し訳なさそうに手を振り、柔らかく微笑む。
「わざわざありがとうね。でも息子の三回忌も、雪乃ちゃんの七回忌も、私が行けなくて……本当にごめんなさいね」
憂は祖母の手を取り、優しい声でフォローした。
「おばあちゃん、無理しないで。体の負担が一番心配です」
葉月は隣で少し甘えたように膝に手を置き、ぼそりと呟く。
「あたしも、あの階段上るの大変で……足が痛くなっちゃった」
祖母は立ち上がり、台所の方を向いた。
「さて、そろそろお斎の用意をしましょうか」
葉月は慌てて手を伸ばし、明るく言った。
「無理しないで、おばあちゃん。あたしが作るから!」
祖母はにこりと笑みを浮かべつつも、少し手を伸ばして台所の用意を始める。
「でも、動かないと体の調子が悪くなるから、少し手伝わせてもらうわよ」
そう言って、祖母は穏やかに笑った。
葉月は胸を張り、少し得意げに言う。
「ほら、メイド修行の成果、見せてあげる! この筑前煮、鶏肉も野菜も柔らかく炊けてるし、味もしっかり染みてるの。それに、雪姉ちゃんの好きだった里芋の煮っころがしと、芋づるやひじきの煮物も作ったから!」
憂は横で葉月の動きを見守りながら、祖母のそばに寄って、そっと手を添えた。
「おばあちゃん、ほうれん草のおひたしも準備できてるよ。無理しないでね」
祖母は感心したようにうなずき、目を細める。
「ふふ……ほんとに二人とも、頼もしくなったわね。憂ちゃんなんて、大人っぽくなったし、頭のいい高校に入学したって聞いたわよ」
憂は少し頬を赤らめ、照れた声で答える。
「え、えへへ……ありがとうございます」
葉月は悔しそうに鼻を鳴らし、唇を尖らせた。
「ずるい……あたしだって、さっきまでお寺ではちゃんとしてたのに!」
憂は微笑んで、少しだけ大人びた口調になる。
「そうだよ、おばあちゃん。お姉ちゃんは、やるときはやる人だから」
葉月はふん、と鼻を鳴らしながらも、さらに張り切る。
「じゃあ、鶏の照り焼きも小さく切って、おばあちゃんも食べやすくしておくね。お寿司も、少し盛り付け直して……」
食卓に並んでいくのは、父の好きだった筑前煮と鶏の照り焼き。
雪乃が好んだ里芋の煮っころがし、芋づるとひじきの煮物。
ほうれん草のおひたしに、温かいお吸い物。
ちらし寿司と巻き寿司も彩りよく盛り付けられ、最後に果物と和菓子が添えられた。
祖母のために整えた優しい味付けは、どれも柔らかく、温かさが心に染みる。
煮物の甘い香り、焼き魚の香ばしさ、お吸い物の湯気が、静かに台所に広がっていた。
葉月と憂が台所で小さな手を動かしながら、父の思い出話を交えて食卓を整える時間は、家族の絆を確かめ直すような、穏やかなひとときだった。
葉月はときどき祖母の顔を見てにっこり笑い、憂はそっと目配せして、三人の距離を確かめる。
「おばあちゃん、無理しないで。あたしが作ったから、ゆっくり座ってて」
「ふふ……でも、手を動かすのも体にはいいのよ」
笑い声と小さなやり取り、包丁の音、鍋から立ち上る湯気。
香ばしい匂いと柔らかな光が混ざり合い、祖母と姉妹を包み込んでいく。
台所の窓から差し込む午後の光は、昭和レトロな木枠にやさしく反射し、
その笑顔と温かな時間を、いっそう際立たせていた。
「おばあちゃん、お供え持ってきたよ」
紙袋から丁寧に取り出すと、中には色とりどりのお菓子や季節の果物が並び、
のしには「御霊前」と書かれ、黄白の結び切りがきちんと結ばれていた。
紙の手触りや和紙の香りが、静かな空気の中に漂う。
「お父ちゃんのお供えにと思って……」
葉月は祖母に一言添え、仏壇にすぐ供えてもらえるよう紙袋から丁寧に取り出して手渡した。
祖母は少し申し訳なさそうに手を振り、柔らかく微笑む。
「わざわざありがとうね。でも息子の三回忌も、雪乃ちゃんの七回忌も、私が行けなくて……本当にごめんなさいね」
憂は祖母の手を取り、優しい声でフォローした。
「おばあちゃん、無理しないで。体の負担が一番心配です」
葉月は隣で少し甘えたように膝に手を置き、ぼそりと呟く。
「あたしも、あの階段上るの大変で……足が痛くなっちゃった」
祖母は立ち上がり、台所の方を向いた。
「さて、そろそろお斎の用意をしましょうか」
葉月は慌てて手を伸ばし、明るく言った。
「無理しないで、おばあちゃん。あたしが作るから!」
祖母はにこりと笑みを浮かべつつも、少し手を伸ばして台所の用意を始める。
「でも、動かないと体の調子が悪くなるから、少し手伝わせてもらうわよ」
そう言って、祖母は穏やかに笑った。
葉月は胸を張り、少し得意げに言う。
「ほら、メイド修行の成果、見せてあげる! この筑前煮、鶏肉も野菜も柔らかく炊けてるし、味もしっかり染みてるの。それに、雪姉ちゃんの好きだった里芋の煮っころがしと、芋づるやひじきの煮物も作ったから!」
憂は横で葉月の動きを見守りながら、祖母のそばに寄って、そっと手を添えた。
「おばあちゃん、ほうれん草のおひたしも準備できてるよ。無理しないでね」
祖母は感心したようにうなずき、目を細める。
「ふふ……ほんとに二人とも、頼もしくなったわね。憂ちゃんなんて、大人っぽくなったし、頭のいい高校に入学したって聞いたわよ」
憂は少し頬を赤らめ、照れた声で答える。
「え、えへへ……ありがとうございます」
葉月は悔しそうに鼻を鳴らし、唇を尖らせた。
「ずるい……あたしだって、さっきまでお寺ではちゃんとしてたのに!」
憂は微笑んで、少しだけ大人びた口調になる。
「そうだよ、おばあちゃん。お姉ちゃんは、やるときはやる人だから」
葉月はふん、と鼻を鳴らしながらも、さらに張り切る。
「じゃあ、鶏の照り焼きも小さく切って、おばあちゃんも食べやすくしておくね。お寿司も、少し盛り付け直して……」
食卓に並んでいくのは、父の好きだった筑前煮と鶏の照り焼き。
雪乃が好んだ里芋の煮っころがし、芋づるとひじきの煮物。
ほうれん草のおひたしに、温かいお吸い物。
ちらし寿司と巻き寿司も彩りよく盛り付けられ、最後に果物と和菓子が添えられた。
祖母のために整えた優しい味付けは、どれも柔らかく、温かさが心に染みる。
煮物の甘い香り、焼き魚の香ばしさ、お吸い物の湯気が、静かに台所に広がっていた。
葉月と憂が台所で小さな手を動かしながら、父の思い出話を交えて食卓を整える時間は、家族の絆を確かめ直すような、穏やかなひとときだった。
葉月はときどき祖母の顔を見てにっこり笑い、憂はそっと目配せして、三人の距離を確かめる。
「おばあちゃん、無理しないで。あたしが作ったから、ゆっくり座ってて」
「ふふ……でも、手を動かすのも体にはいいのよ」
笑い声と小さなやり取り、包丁の音、鍋から立ち上る湯気。
香ばしい匂いと柔らかな光が混ざり合い、祖母と姉妹を包み込んでいく。
台所の窓から差し込む午後の光は、昭和レトロな木枠にやさしく反射し、
その笑顔と温かな時間を、いっそう際立たせていた。
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