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21話 近寄りがたい首席の、秋の一歩
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9月末、秋の風が校舎の窓をかすかに揺らす頃。
東野高校1年生にとって、第2回考査――中間考査――が終わった。
文理系科目を網羅したこのテストは、国語、数学、英語、理科、社会に加え、副教科として保健体育、芸術、音楽などを含めた合計8科目。期末試験級の科目数で、1年生にとってはなかなかのボリュームだ。
テスト結果が掲示板に貼り出されると、教室には静かな緊張が漂った。
学年の頂点、首席の点数は、平均で780点前後。つまり、常人にはほとんど到達不可能な領域だ。
一位 御陵 憂 796点
数字は確かに努力と能力の証だが、同時に、周囲との距離を作るものでもあった。
教室のざわめきの中、数人がちらりと憂のほうを見る。
でも、誰も声をかけようとはしない。
(やっぱり、わたしって……近寄りがたい存在なのかな)
ふと、葉月姉のことを思い出す。
姉は誰にでもにこにこと話しかけ、すぐに友達になれる。
ひとなつっこい性格で、周囲を自然と笑顔にする。
(あんなふうになれたらいいのに……)
憂はそっと隣の席の女子、佐々木さやかに目を向けた。
机に顔を伏せ、小さくため息をついている。
(どうしたんだろう。さやかさん、こんなに落ち込んで……)
憂はそっと近づき、肩越しに掲示板を覗く。
さやかの点数はいつもより低く、特に英語が目立った。
「英語……ちょっと、やばかったかも……」
小さな声でつぶやくさやかは、肩を落とし、机にうずくまるようにしている。
その姿は、憂にとってはいつも見慣れたものとは違い、何ともいえない弱さを感じさせた。
憂の胸に、自然と何とかしてあげたいという思いが湧く。
(そっか……彼女も悩んでいるんだ)
憂はしばらく考え、そっと声をかけた。
「さやかさん、英語、ちょっと見てあげようか?」
「え……えっ、いいの? 憂さんが?」
さやかの目が一瞬で輝きを取り戻す。憂はにこりと微笑み、ノートを開いた。
「もちろん。少しでも役に立つなら教えるよ」
さやかは顔を上げ、まだ少し不安そうにしながらも、憂の言葉に救われたような表情を見せた。
「まず、文法は毎日少しずつ復習すること。単語も一度に覚えようとせず、何度も繰り返す。読解は、設問を先に読んでから文章を読むと、頭が整理しやすい」
「そ、そんな……憂さん、全部やってるんだ……」
「もちろん。無理せず、自分のペースでいいよ」
少しずつ、さやかの表情が柔らいでいく。
肩の力が抜け、顔に少しだけ安堵の色が浮かんだ。
「……憂さん、夏休みの後、なんだか変わったみたい。前はもっと、近寄りがたい雰囲気だったのに」
憂は少し照れくさそうに笑った。
「……そう? 別に変わってないと思うけど」
「ううん、でも……今日、英語のことでこんなに優しく教えてくれるなんて。前は、話しかけるのも怖かったんだよ」
さやかのノートを覗き込みながら、憂はゆっくりと問題を一つずつ説明する。
言葉を選び、例を挙げ、つまずきやすいポイントを丁寧に補足する。
さやかはときどき頷き、ときどき「あ……なるほど」と声を漏らす。
「じゃあ、次は数学も一緒にやろうか」
「わ、わかった……憂さん、ありがとう!」
その声を聞いた周りのクラスメイトも、少しずつ憂のまわりに集まってきた。
「ねえ、憂さん、理科も教えてほしいんだけど」
「私も英語、ちょっと見てもらっていい?」
「みんなで問題集やろうよ!」
憂はにっこり笑い、軽くうなずいた。
「いいよ。みんなで一緒にやろう」
教室の雰囲気が少しずつ柔らかくなっていく。
難しい点数のせいで近寄れなかった空気が、笑顔と会話で満たされていく。
憂は(わたしも、こうしてみんなと一緒に笑えるんだ)と心の中で思った。
周囲の子たちの表情も変わっていく。
目を輝かせてノートを開く子、そっとペンを握りしめる子、興味津々で憂の解説を聞く子。
教室全体が、徐々にあたたかい空気で満たされていく。
憂はふと、葉月姉を思い出した。
(姉みたいにひとなつっこくはないけれど……こうして少しずつでも、自分なりに前に出ていけるんだ)
そう考えると、胸が少しだけ強くなる。
(今年、たくさんの友達と出会い、大人たちに背中を教えてもらった経験が、こういうときに生きているんだ)
「じゃあ、次は歴史も一緒にやろうか」
「わ、わかった……憂さん、ありがとう!」
笑い声が教室に広がる。憂の顔は自然に赤く、でも穏やかで晴れやかだった。
肩の力が抜け、気持ちが軽くなる。
窓の外を見ると、校庭の木々が黄金色に色づき始めている。
秋の風が髪をかすかに揺らし、教室のカーテンもゆったりと揺れた。
(今日は、本当に、いい一日だった)
教室には、ほのかな笑い声と温かい空気が広がっていた。
憂は静かに深呼吸をし、自然に笑みを浮かべた。
東野高校1年生にとって、第2回考査――中間考査――が終わった。
文理系科目を網羅したこのテストは、国語、数学、英語、理科、社会に加え、副教科として保健体育、芸術、音楽などを含めた合計8科目。期末試験級の科目数で、1年生にとってはなかなかのボリュームだ。
テスト結果が掲示板に貼り出されると、教室には静かな緊張が漂った。
学年の頂点、首席の点数は、平均で780点前後。つまり、常人にはほとんど到達不可能な領域だ。
一位 御陵 憂 796点
数字は確かに努力と能力の証だが、同時に、周囲との距離を作るものでもあった。
教室のざわめきの中、数人がちらりと憂のほうを見る。
でも、誰も声をかけようとはしない。
(やっぱり、わたしって……近寄りがたい存在なのかな)
ふと、葉月姉のことを思い出す。
姉は誰にでもにこにこと話しかけ、すぐに友達になれる。
ひとなつっこい性格で、周囲を自然と笑顔にする。
(あんなふうになれたらいいのに……)
憂はそっと隣の席の女子、佐々木さやかに目を向けた。
机に顔を伏せ、小さくため息をついている。
(どうしたんだろう。さやかさん、こんなに落ち込んで……)
憂はそっと近づき、肩越しに掲示板を覗く。
さやかの点数はいつもより低く、特に英語が目立った。
「英語……ちょっと、やばかったかも……」
小さな声でつぶやくさやかは、肩を落とし、机にうずくまるようにしている。
その姿は、憂にとってはいつも見慣れたものとは違い、何ともいえない弱さを感じさせた。
憂の胸に、自然と何とかしてあげたいという思いが湧く。
(そっか……彼女も悩んでいるんだ)
憂はしばらく考え、そっと声をかけた。
「さやかさん、英語、ちょっと見てあげようか?」
「え……えっ、いいの? 憂さんが?」
さやかの目が一瞬で輝きを取り戻す。憂はにこりと微笑み、ノートを開いた。
「もちろん。少しでも役に立つなら教えるよ」
さやかは顔を上げ、まだ少し不安そうにしながらも、憂の言葉に救われたような表情を見せた。
「まず、文法は毎日少しずつ復習すること。単語も一度に覚えようとせず、何度も繰り返す。読解は、設問を先に読んでから文章を読むと、頭が整理しやすい」
「そ、そんな……憂さん、全部やってるんだ……」
「もちろん。無理せず、自分のペースでいいよ」
少しずつ、さやかの表情が柔らいでいく。
肩の力が抜け、顔に少しだけ安堵の色が浮かんだ。
「……憂さん、夏休みの後、なんだか変わったみたい。前はもっと、近寄りがたい雰囲気だったのに」
憂は少し照れくさそうに笑った。
「……そう? 別に変わってないと思うけど」
「ううん、でも……今日、英語のことでこんなに優しく教えてくれるなんて。前は、話しかけるのも怖かったんだよ」
さやかのノートを覗き込みながら、憂はゆっくりと問題を一つずつ説明する。
言葉を選び、例を挙げ、つまずきやすいポイントを丁寧に補足する。
さやかはときどき頷き、ときどき「あ……なるほど」と声を漏らす。
「じゃあ、次は数学も一緒にやろうか」
「わ、わかった……憂さん、ありがとう!」
その声を聞いた周りのクラスメイトも、少しずつ憂のまわりに集まってきた。
「ねえ、憂さん、理科も教えてほしいんだけど」
「私も英語、ちょっと見てもらっていい?」
「みんなで問題集やろうよ!」
憂はにっこり笑い、軽くうなずいた。
「いいよ。みんなで一緒にやろう」
教室の雰囲気が少しずつ柔らかくなっていく。
難しい点数のせいで近寄れなかった空気が、笑顔と会話で満たされていく。
憂は(わたしも、こうしてみんなと一緒に笑えるんだ)と心の中で思った。
周囲の子たちの表情も変わっていく。
目を輝かせてノートを開く子、そっとペンを握りしめる子、興味津々で憂の解説を聞く子。
教室全体が、徐々にあたたかい空気で満たされていく。
憂はふと、葉月姉を思い出した。
(姉みたいにひとなつっこくはないけれど……こうして少しずつでも、自分なりに前に出ていけるんだ)
そう考えると、胸が少しだけ強くなる。
(今年、たくさんの友達と出会い、大人たちに背中を教えてもらった経験が、こういうときに生きているんだ)
「じゃあ、次は歴史も一緒にやろうか」
「わ、わかった……憂さん、ありがとう!」
笑い声が教室に広がる。憂の顔は自然に赤く、でも穏やかで晴れやかだった。
肩の力が抜け、気持ちが軽くなる。
窓の外を見ると、校庭の木々が黄金色に色づき始めている。
秋の風が髪をかすかに揺らし、教室のカーテンもゆったりと揺れた。
(今日は、本当に、いい一日だった)
教室には、ほのかな笑い声と温かい空気が広がっていた。
憂は静かに深呼吸をし、自然に笑みを浮かべた。
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