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だんだん深い霧
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久しぶりにぐっすり寝たせいか、約束の時間に目が覚めた。妹からは先に行くとメールがあった。着信音にも気が付かなかった様だ。
慌ててベッドから出て、着替え等の身支度を済ませマンションを飛び出す。今日は曇り空だ。
施設へ到着して受け付けを終え、おばあちゃんの部屋に向かう。
扉をゆっくりスライドさせる。
「おばあちゃんこんにちは」
「······」
なんだか昨日とは別人の様に眉間にしわを寄せ、私を睨んでいた。何か気に触る様な事をしただろうか。
妹の姿が見当たらない。お土産でも買いに行ってまだ来ていないのだろうか。
「あー、こんにちは。」
「······」
「え~と、昨日も来たんだけど私、あかりだよ。分かる?おばあちゃんの娘の美沙子の娘で、孫なんだけど······」
話しかければかけるほど、おばあちゃんの頬は膨らむばかりで全く話してくれなくなった。手を替え品を替えしてみるが全く状況は変わらず、面会時間の刻限が迫る。
そんな時だった。扉がスライドする音が聞こえた。
「あ!おばあちゃん久しぶり。中々来れなくてごめんね」
と、笑顔で入って来たのは妹だった。彼氏を連れて来ていたが、遠慮してついて来てくれなかったと残念そうに言った。妹は結婚を考えているが、彼氏の方はまだイマイチの様だ。
妹が色々な話しを一方的に、楽しそうに笑いながらおばあちゃんに話す。段々と表情が和らぎ、笑顔が戻った。
私はどうしても相手の顔色を伺う癖があり、話しを盛り上げたりするのが苦手だ。妹はお喋りで気遣いができとてもうらやましい。が、こういう時はとても頼りになる。
「あ!もうこんな時間!おばあちゃんごめんね、また来るね」
「おばあちゃんさよなら。またね」
「もう帰るのかい?早いねぇ···」
すぐ来るよと言って退室した。帰ろうと玄関に行くと、あの背の高い男に呼び止められた。
「すいません!夜子さんの検査結果だったんですが」
「あ!ごめんなさい!忘れてました!お願いします」
「あまり数値が良くなくて、認知症も進んでいますね」
「······そうですか」
何か心に暗い霧がかかる様だった。妹も言葉を失っている。
「分かりました。ありがとうございます。母にも伝えます。また明日来ますので、よろしくお願いします」
分かりました、お待ちしています、を横目に聞いて施設を後にした。
また、あの背の高い男の名前を聞くのを忘れてしまった。妹が私の暗い顔を見て心配そうに背中をさする。大丈夫と言ってその妹の手を握って微笑む。
その時だった。
「天谷さん!すいません!戻って来て下さい!」
施設からあの背の高い男が、血相を変えて飛び出して来た。
「夜子さんの容態が急に悪くなって、熱もあるので今救急車を呼びました!付き添いお願いします!」
「分かりました!今行きます!」
妹には連絡をするので、彼氏の車で病院に来る様に説得し、急いでおばあちゃんの部屋に向かう。
「おばあちゃん!」
介護職員と看護師がおばあちゃんのベッドを囲んでいる。介護職員の女性が駆け寄って来て、口早にこう言った。
「今熱が39℃台に急に上がって、血圧も低くなっているので、病院に連絡しました。腹部を痛がっている様子もあって、救急車を呼びましたので付き添いお願いします!」
「わ、分かりました!」
突然の事に戸惑い、言い知れぬ不安が心を支配していく。これからおばあちゃんはどうなってしまうのか。看護師や介護職員らが懸命におばあちゃんの名前を呼んでいた。
救急車が到着するまでの10分間は今までで1番長い10分間だった。
救急車が到着し、救急隊員達が手際良く容態を確認し、ストレッチャーから救急車へとおばあちゃんを運ぶ。その後ろに乗り病院へ向かう。
妹にいつ連絡しようかと考えていたら、後ろから着いてくる車があった。多分妹の彼氏の車だろう。
救急隊員達が慌ただしくやり取りをしている中、受け入れ先の病院が決まった様だ。妹にメールを送る。
病院に着き、おばあちゃんが運ばれて行く。映画やドラマの様な光景に、現実感がわかない。何か夢でも見ている様だった。
病院の廊下のベンチに座って待つ様に言われた。妹から病院に到着したとメールが届く。自分の居場所をメールし、生唾を飲み込んだ。不安で緊張してきた様だ。
「お姉ちゃん!おばあちゃんは?」
「まだ分からない···」
どうする事も出来ず、ただ待つ事しか出来ない事に歯がゆさが増した。
どれだけ時間が経ったのか分からないが、やっと看護師がやって来た。こちらにどうぞと診察室に案内され、医者と対面する。
「とりあえず、今の所は熱も下がり落ち着きました。この熱は風邪かなと。ただ、お腹を痛がっていたと聞いたので、調べてみたら、胃に腫瘍が見つかりました。」
「え?」
「···!?」
「かなり広い範囲に広がっているので、もしかしたら悪性かもしれないので、もう少し詳しく検査してみます。」
返事をしたかどうかも分からなくなるくらい、衝撃を受けた。妹を気に掛けるのも忘れていた。
検査の結果が出るまで、入院となった。その準備の為、施設と家と病院を行き来する。気が動転していたのか、その時の事はあまり思い出せない。
高級マンションに妹と帰宅し母を待つ。
「そう言えば、彼氏は?」
「ああ、病院着いてから帰ってもらった。凄く心配してくれたけど、彼に悪いから」
「そう···」
妹は凄いな。こんな時でも相手を思いやれるなんて。私も少しはこんな気持ちがあれば、元彼に嫌われなかったのかも知れない。そんな事を考えていると、物凄く慌てた足音が近づいて来た。大きな音と共に母の声が聞こえる。
「あんた達大丈夫?!」
息を切らしながら駆け寄って来た母は、私達を抱きしめた。目頭が熱くなる。
落ち着き、晩ご飯を食べながら妹がおばあちゃんの事を話す。検査の結果は1週間後だと聞いた。
何年ぶりだろうか。家族で食卓を囲むのは。以前、母が言っていた言葉が思い出される。自分にも他人を思いやる気持ちがまだあるのだと気付いた。
もう一度頑張ろう。今度こそ諦めず、精一杯人の為になる事を。そう、おばあちゃんの事で悔しい思いをしない為に。
なんだか結局自分の為かも知れないが、やる気が出てきた。今はやれる事をやろう。妹や母に頼ってばかりはいられない。
久しぶりに親子3人川の字で眠りについた。
慌ててベッドから出て、着替え等の身支度を済ませマンションを飛び出す。今日は曇り空だ。
施設へ到着して受け付けを終え、おばあちゃんの部屋に向かう。
扉をゆっくりスライドさせる。
「おばあちゃんこんにちは」
「······」
なんだか昨日とは別人の様に眉間にしわを寄せ、私を睨んでいた。何か気に触る様な事をしただろうか。
妹の姿が見当たらない。お土産でも買いに行ってまだ来ていないのだろうか。
「あー、こんにちは。」
「······」
「え~と、昨日も来たんだけど私、あかりだよ。分かる?おばあちゃんの娘の美沙子の娘で、孫なんだけど······」
話しかければかけるほど、おばあちゃんの頬は膨らむばかりで全く話してくれなくなった。手を替え品を替えしてみるが全く状況は変わらず、面会時間の刻限が迫る。
そんな時だった。扉がスライドする音が聞こえた。
「あ!おばあちゃん久しぶり。中々来れなくてごめんね」
と、笑顔で入って来たのは妹だった。彼氏を連れて来ていたが、遠慮してついて来てくれなかったと残念そうに言った。妹は結婚を考えているが、彼氏の方はまだイマイチの様だ。
妹が色々な話しを一方的に、楽しそうに笑いながらおばあちゃんに話す。段々と表情が和らぎ、笑顔が戻った。
私はどうしても相手の顔色を伺う癖があり、話しを盛り上げたりするのが苦手だ。妹はお喋りで気遣いができとてもうらやましい。が、こういう時はとても頼りになる。
「あ!もうこんな時間!おばあちゃんごめんね、また来るね」
「おばあちゃんさよなら。またね」
「もう帰るのかい?早いねぇ···」
すぐ来るよと言って退室した。帰ろうと玄関に行くと、あの背の高い男に呼び止められた。
「すいません!夜子さんの検査結果だったんですが」
「あ!ごめんなさい!忘れてました!お願いします」
「あまり数値が良くなくて、認知症も進んでいますね」
「······そうですか」
何か心に暗い霧がかかる様だった。妹も言葉を失っている。
「分かりました。ありがとうございます。母にも伝えます。また明日来ますので、よろしくお願いします」
分かりました、お待ちしています、を横目に聞いて施設を後にした。
また、あの背の高い男の名前を聞くのを忘れてしまった。妹が私の暗い顔を見て心配そうに背中をさする。大丈夫と言ってその妹の手を握って微笑む。
その時だった。
「天谷さん!すいません!戻って来て下さい!」
施設からあの背の高い男が、血相を変えて飛び出して来た。
「夜子さんの容態が急に悪くなって、熱もあるので今救急車を呼びました!付き添いお願いします!」
「分かりました!今行きます!」
妹には連絡をするので、彼氏の車で病院に来る様に説得し、急いでおばあちゃんの部屋に向かう。
「おばあちゃん!」
介護職員と看護師がおばあちゃんのベッドを囲んでいる。介護職員の女性が駆け寄って来て、口早にこう言った。
「今熱が39℃台に急に上がって、血圧も低くなっているので、病院に連絡しました。腹部を痛がっている様子もあって、救急車を呼びましたので付き添いお願いします!」
「わ、分かりました!」
突然の事に戸惑い、言い知れぬ不安が心を支配していく。これからおばあちゃんはどうなってしまうのか。看護師や介護職員らが懸命におばあちゃんの名前を呼んでいた。
救急車が到着するまでの10分間は今までで1番長い10分間だった。
救急車が到着し、救急隊員達が手際良く容態を確認し、ストレッチャーから救急車へとおばあちゃんを運ぶ。その後ろに乗り病院へ向かう。
妹にいつ連絡しようかと考えていたら、後ろから着いてくる車があった。多分妹の彼氏の車だろう。
救急隊員達が慌ただしくやり取りをしている中、受け入れ先の病院が決まった様だ。妹にメールを送る。
病院に着き、おばあちゃんが運ばれて行く。映画やドラマの様な光景に、現実感がわかない。何か夢でも見ている様だった。
病院の廊下のベンチに座って待つ様に言われた。妹から病院に到着したとメールが届く。自分の居場所をメールし、生唾を飲み込んだ。不安で緊張してきた様だ。
「お姉ちゃん!おばあちゃんは?」
「まだ分からない···」
どうする事も出来ず、ただ待つ事しか出来ない事に歯がゆさが増した。
どれだけ時間が経ったのか分からないが、やっと看護師がやって来た。こちらにどうぞと診察室に案内され、医者と対面する。
「とりあえず、今の所は熱も下がり落ち着きました。この熱は風邪かなと。ただ、お腹を痛がっていたと聞いたので、調べてみたら、胃に腫瘍が見つかりました。」
「え?」
「···!?」
「かなり広い範囲に広がっているので、もしかしたら悪性かもしれないので、もう少し詳しく検査してみます。」
返事をしたかどうかも分からなくなるくらい、衝撃を受けた。妹を気に掛けるのも忘れていた。
検査の結果が出るまで、入院となった。その準備の為、施設と家と病院を行き来する。気が動転していたのか、その時の事はあまり思い出せない。
高級マンションに妹と帰宅し母を待つ。
「そう言えば、彼氏は?」
「ああ、病院着いてから帰ってもらった。凄く心配してくれたけど、彼に悪いから」
「そう···」
妹は凄いな。こんな時でも相手を思いやれるなんて。私も少しはこんな気持ちがあれば、元彼に嫌われなかったのかも知れない。そんな事を考えていると、物凄く慌てた足音が近づいて来た。大きな音と共に母の声が聞こえる。
「あんた達大丈夫?!」
息を切らしながら駆け寄って来た母は、私達を抱きしめた。目頭が熱くなる。
落ち着き、晩ご飯を食べながら妹がおばあちゃんの事を話す。検査の結果は1週間後だと聞いた。
何年ぶりだろうか。家族で食卓を囲むのは。以前、母が言っていた言葉が思い出される。自分にも他人を思いやる気持ちがまだあるのだと気付いた。
もう一度頑張ろう。今度こそ諦めず、精一杯人の為になる事を。そう、おばあちゃんの事で悔しい思いをしない為に。
なんだか結局自分の為かも知れないが、やる気が出てきた。今はやれる事をやろう。妹や母に頼ってばかりはいられない。
久しぶりに親子3人川の字で眠りについた。
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