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手探りの今
しおりを挟む検査結果を待つ1週間、私はひたすらおばあちゃんのお見舞いに毎日病院へ通った。
おばあちゃんは施設に居た時より怒りっぽくなり、声を荒らげる事もあった。施設と違い、話しかけてくれる人も限られ、軽い体操や色々な催し事も無い。そうなるとより一層、認知症が進んでいる気がした。
1週間が過ぎる頃には私の事も忘れていた。
検査結果を聞きに、母と病院に向かう。その途中、妹からメールが届いた。彼氏を説得し、婚約したと。
「え!凄い!」
「ん?どうした?」
あまりの急展開に驚いて声を上げてしまった。不思議そうな母に告げる。
「ゆかりが彼氏と婚約したんだって。これからおばあちゃんに紹介するから、連れて来るって」
「えー!?それは凄い!けど、そんなに焦らなくてもいいのに···」
妹が焦る気持ちも何となく分かる。おばあちゃんが元気なうちに、花嫁姿を見てもらいたいのではないだろうか。おばあちゃんもそんな事を言っていた気がする。
指定された廊下の椅子で呼ばれるのを待つ。緊張で話す言葉も見つからない。
間も無く名前を呼ばれ、医者と対面する。
「え~と、単刀直入に言いますね。検査の結果、天谷夜子さんはステージ4の悪性腫瘍でした。俗に言う胃癌です」
あまりにあっさりとした告知に唖然とする。母も目が泳いでいる。
「びっくりしますよね。症状もあまり無かった様で、認知症もありますし。かなり広い範囲に及んでいて、浸潤もしています。手術で取り切るのは難しいですね。」
「···と、言うと?」
「手術して癌に侵されている胃を切除しても、全て取り切れず、再発の可能性が高いです。夜子さんの年齢もありますし、手術に耐えられるか、胃を切除した後の回復力も考えると、根治は難しいですね」
「治らない、と言う事ですか?」
「そうなりますね」
重い空気がのしかかる。心が空っぽになった様だ。
「手術はせず、痛み止め等の緩和療法もあります。急な事でしょうから、家族の方でゆっくり考えてみて下さい」
そう言われ、診察室を後にする。頭の中がぐちゃぐちゃだ。しかし、心の奥底から力強い感情が湧き上がって来た。
「お母さん!おばあちゃんに聞いてみよう!」
「え!?」
今までに無いぐらいに目を真ん丸にしている母。認知症だから何も分からない訳では無いし、おばあちゃんだって家族だ。困ったら皆で考えれば1つくらい名案が浮かぶかも知れない。
おばあちゃんの病室に入る。丁度お昼ご飯の時間だった。だが、おばあちゃんは一向に食べようとはしなかった。
「おばあちゃん。お腹痛いの?」
そう聞いてみるが、怒った表情でいらないと言うばかりだった。こんな様子ではやっぱり病気の告知など、無理かも知れない。そう思った時だった。
「おばあちゃん!こんにちは」
明るい声で病室に入って来たのは妹だった。その後ろからもう1人、背の高い細身の男性が入って来た。
「こんにちは、はじめまして」
と言う事は、妹の彼氏だ。本当に連れて来たのだ。
「おばあちゃん、こっちは私の婚約者の数間太陽。よろしくね」
「よろしくお願いします」
おばあちゃんが妹の彼氏を見た途端、目がキラキラと輝き顔色も紅をさしたように見る間に明るくなった。まるで恋人にでも出会ったかの様に。
その光景はスローモーションで蕾から花が咲く様に似ていた。
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