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1話
桜の見るセカイ
しおりを挟む「変な奴がいる?」
次の日の午前中、樹にぶら下がる蜘蛛を司はじっと見つめている。蜘蛛が手足をばたつかせ、
「そうなんじゃよ。なーんも喋らんとムスッとしとるのじゃ。面白そうじゃからからかってやったら、最後に外に出たいと言うもんじゃから、不憫に思っての~」
「どこにいるの。」
「あそこじゃ!」
蜘蛛が示す先には、この町で唯一大きいスーパーだった。蜘蛛に案内されるままスーパーの中の果物コーナーにつく。沢山の果物の中から、キウイを差して騒ぐ蜘蛛。お構い無しに目を輝かせて言う司。
「黄色いキウイだ!美味しそー!」
「ほらそこ!上じゃ、上!」
「え?あ!居た!!」
沢山のキウイの山の上に1人ぐったりとしている黄色いキウイの精が居た。司の元気な声に気づき、目を向ける。
「···こんにちは···」
「こ、こんにちは!髪も黄色なんだね~!綺麗だね!」
「···ありがとう」
「このボウズがお前さんを外に出してやりたいそうだ。感謝せいよ!連れて来てやったワシをな!!」
ハッハッハーっと高笑いをする蜘蛛。苦笑いを浮かべる司。しかし、キウイの精はパッと顔を明るくして言う。
「本当か!?ありがとう。もう他の奴らも消えてしまって、寂しかったんだ」
「そっか、でももう大丈夫だよ。外にはたくさん友達がいるから!」
「本当かい!?楽しみだ!」
「さあ、今なら誰も見てないぞ!」
それーっと、キウイを手にスーパーの外へ走り出す司。勿論、万引きは悪い事だと分かっていたが、司にはお金は無かったし、母がくれるはずも無い。それに時間が無い様だったので、ほぼやけくそだ。しかし、楽しかった。
「ありがとう!外はとても綺麗だ」
「でもどうするの?腐っちゃったら死んじゃうんでしょ?」
「その前に力尽きて消えてしまうかもしれないな···」
落ち込むキウイを見て、慌てて励ます蜘蛛。
「まあ、しばらくは大丈夫じゃろう。見る限りじゃ鮮度さえ保っていれば、お前さんの心の強さでなんとかなるやもしれんのう」
「本当ですか?」
「せんど?冷蔵庫に入れれば良いのかな?」
「まあ、保証は出来んがの」
「でも、可能性があるだけでも嬉しいよ。司!せっかくだからこの町をもっと見てみたい。案内してくれないか?」
「うん!良いよ!じゃあまず、畑と田んぼ行ってから林に行こう!そこにたくさん友達がいるんだ!」
そうして、町の中を案内して林の仲間たちと楽しい時間を過ごす。
そんな時間はあっという間に過ぎ、日没。家に帰った司は、キウイの精に冷蔵庫に入ってもらい、おやすみを言い扉を閉めた。
しかし次の日の朝、キウイの精は冷蔵庫で丸くなったまま元気が無かった。心配になり、そのまま冷蔵庫にキウイを置いて出掛ける。あの稲荷神社のどんぐりや木々は物知りが多かったので、急いで向かう。
「ん~もう仕方ないよ。寿命だもん」
どんぐりの精が腕を組んで言う。
「···もしかしたら、向こうの桜が何か知っとるかも知れんな」
長生きの松の木が言う。
「あ、あの桜···ありがとう!行ってみる」
「気をつけてな~」
手を振りながら桜の木に向かって走って行く司。山の中腹の開けた斜面の真ん中に立つ大きな桜の木。もう花が咲いていた。
「こ···こんにちは···さ···桜さん!」
他の精とは違い、人間の大人の女性程の背丈の白い着物を着た白く長い髪の桜の精は司を見て驚いた。
「どうしたの?そんなに息切らして?」
「あ、あの、キウイの妖精の元気が無くて、どうしたら元気になりますか?」
必死に息を整えながら泣きそうな顔で問う司に、桜の精は困った顔をしてため息をつく。
「仕方が無いねェ。どれ、連れてきてみなさい。寿命は伸ばせないが、元気にはなれると思うよ」
「本当!!ありがとう!今すぐ連れてくるね!」
そう言って、目に涙をいっぱい溜めながら駆けて行く。途中、色々な精に声をかけられるが、脇目も振らず家に向かって走る。
家に着き、冷蔵庫を開け、涙目の笑顔を見せながら、キウイを両手で大事に持ち上げる。優しく、しかし急いでいたので、早足でまた桜の木に引き返す。
「おや、早かったねェ」
斜面の下から司が息を切らせて登って来る。
「はぁはぁ···この、キウイさんなんだけど、元気にして下さい!」
丸まっていたキウイの精がふと起き上がり、司と桜の精を見た。
「司···、この綺麗な方は誰だい?」
「あ、あのね、桜の妖精さんだよ!元気にしてくれるって言うから、もう大丈夫だよ」
腕を組み、右手を顎の下にやりながら、まじまじとキウイの精を眺める桜の精。
「···やはり寿命だねェ。よくここまで持ったよ」
「?桜さん、キウイ君は元気になるんだよね?また一緒に遊んだり出来るんだよね?」
「ありがとう司。僕はもう十分楽しんだよ」
「え?どういう事?」
眉毛を八の字にしている司に、桜の精はキウイを指さして言う。
「もう消えてしまうと言う事さ。ほらごらん。端っこが傷んできてるだろう?」
「死んじゃうの?」
今にも溢れんばかりの涙を溜めて、桜の精を見つめる。それを見た桜の精は、肩を竦めやれやれと言った表情で司に伝える。
「でも大丈夫。私の下に埋めてごらん。風になれるから。そうすれば、司やみんなといつでも一緒にいられるよ」
「本当?」
司の震え声を聞いて、フフっと笑いながら桜の精が木の根元を指さしていった。
「さぁ、やってごらん」
キウイの精が微笑んで頷くのを見て、とうとう溢れた涙を流しながら桜の木の根元に埋めた。お別れと、感謝の言葉を悲しみで声に出来ないままでいると、桜が淡く光り出した。
風が、落ちた花びらを上空へと巻き上げる。
そこには、ぼんやりとキウイの精の笑顔があった。司に手を振りながら、風と共にその中に溶けていった。
「···さよなら、ありがとう···」
司は何だか、胸の奥のもやもやとしたモノがチクッと傷んだ。
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