上 下
18 / 32
階段をとにかく上へと上がろうよ!

君が悪いんじゃないよ

しおりを挟む
 ヴォラクは確かにまだまだ子供だ。
 いや、身体も年齢も十八歳の青年で間違いは無いのだが、中身が普通の王族のお姫様以上に無垢であどけないのである。

 いや、俺が出会って来たお姫様なんて、裕福なドラグーン王国の王女になりたいからと、俺こそ逃げ出したくなる勢いで俺に襲いかかってこなかったか?

 じゃあ、ヴォラクの純情可憐さは一体何なのだ?

 世間知らずでもあるが自分本意ではなく、自分以外の人間の気持ちを常に考えようとする振る舞いは、物凄いよい子で片付けられない王子か何か、なのだ。

 滅んだ国の王子?
 いや、国が滅んでいれば、荒んだところがあるはずだ。
 ましてや、あんな攻撃力がある王子がいたとしたら、そんな国が簡単に滅ぶはずはない。

 あ、ヴォラクの蹴りでゴブリンオークが三匹いっぺんに胸に大穴を開けた。

「すごいな。惚れ惚れする。宙に浮く可愛いお尻だ。」

 空飛ぶお尻は俺の声が聞こえたのか、首から上を真っ赤に染めた。

「バカユージン!お前もやれよ!」

「君もそう言うんだね。」

 あ、ヴォラクがゴブリンオークに入れるはずの蹴りを外した。
 彼はぽろっと床に落ち、可愛い彼に襲いかかるゴブリンオークに関して、俺はMPが殆どなくても放てるソーラレイという一般人魔法を撃っていた。

「お前さ!ソーラレイだけでいいだろ?どうして、あんな危険な魔法ばっかり繰り出すんだよ!」

「助けてもらってそんな言い方!真っ赤なルビーそのもののような君と戦うならば、俺は冬のダイヤモンドに拘りたい。」

「ハハハ。面白い奴!」

 俺のお尻は再びオークを蹴り飛ばす旅に飛び出し、俺は無邪気で真っ新な彼が小気味よいと眺めてしまった。

「初体験はいつだったの?」

「――覚えてもいない遠い昔だよ。思い出したくもない遠い昔だ。」

 ついさっきのヴァクラの質問に、本人ではなく俺の記憶の中のヴォラクに答えていた。
 俺は何をしたいのか。
 どうしてあんなにも彼を求めてしまうのか。
 彼が望むように時間をかけて彼を口説けば、彼は俺の手に簡単に堕ちて来るであろうに、どうして俺は彼に無理矢理ばかりを押し付けるのであろうか。

「それを知るには、まず、彼の望む上階に彼を誘わねば、か。」

 俺は右手を水平に掲げた。

「ヴォラク!一旦俺のところに戻ってこい!全ての仕掛けは終了だ。」

「聞いてねぇよ!プロキオンかよ!どうして雑魚敵にそんな危険な技ばっかり使うのよ!」

 俺を罵倒はしたが、ヴォラクは一番近場のゴブリンオークに大きな蹴りを入れるや、その反動を使って俺の元へと言葉通りに飛んで帰って来た。
 俺は彼を左腕で受けるや、伸ばしていた右手首をグイっと捩じった。
 そして、術が完全に発動したからと右腕も大事なヴォラクの背中に回した。

 俺達の周囲では花火が弾けている。
 敵には視認できない光の小さな爆弾。
 ゴブリンオークが次々に掛かるようにと、俺達は、いや、俺はヴォラクの戦い方を知っているから彼の動きを考慮して、罠にかかりやすい位置にゴブリンオーク達を誘導しながら爆弾を仕掛けていたのだ。

 爆弾は弾けながら次の爆弾の爆発を誘導し、抱き合う俺達にはまるで祝いの大砲か花火のようである。
 俺は自分にしがみ付くヴォラクを見下ろした。
 大きな目は俺に怒っていたが、俺はこの顔こそ可愛いと、左目の目尻を犬のようにしてベロンと舐めた。

「さあ、ヴォラク様。働き者の犬にご褒美をくれ。」

 彼は唇を尖らせた。
 俺はその唇を喜んで貰った。

「え、ちが!」
「違わない。」

 すごいな。
 ヴォラクは俺の口づけを、これこそ普通で当たり前のモノのようにして、受け取るようになったぞ。


※こいぬ座プロキオン:伴星があるが、伴星は暗すぎて視認できない
 よって、仕掛けが見えないという、クラスター爆弾的な攻撃魔法
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

獅子の王子は幼なじみと番いたい

BL / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:385

君と僕の妊娠計画

BL / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:213

召喚勇者の餌として転生させられました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,378pt お気に入り:2,226

聖女の仕事なめんな~聖女の仕事に顔は関係ないんで~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:241pt お気に入り:2,293

裏切りの転生騎士は宰相閣下に求愛される

BL / 連載中 24h.ポイント:901pt お気に入り:272

処理中です...