灰色の王子様こそ泥棒娘を守りたいと願っている!

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ことはじめ

君は僕の婚約者

 俺は学園の庭の一角にあるオープンカフェ、白くて丸いテーブルに白い椅子という組み合わせの一つに腰を掛け、目の前の美少女の仕草を見つめていた。
 彼女は俺に意識を向けているが俺に意識など向けていないというそぶりで、いつものように読んでもいない詩集を開いている。

 読書をしている女性に話しかけてはいけない。

 その通りだな、と俺は思った。
 彼女が読書をしていて話しかけられないのであれば、俺は好きなだけ彼女の美しい白い肌や長いまつ毛などを堪能できるのである。

 その視線には俺が彼女にキスをして辿ったら、という邪なものが含まれているが、そんなものを含むせいでいつも俺は声も出せないぐらいにむっつりと黙り込むしかないことになる。
 自分を押さえねばどこかが猛ってしまうからだ。

 さて、そんなくだらない俺の視線に蹂躙されている彼女は、茶色の髪に茶色の瞳のどこにでもいる組み合わせでしかない。
 しかし、中身はどこにでもいないものが詰まっているという子爵令嬢だ。
 違うと言った奴は殴ってやるからそう思え。
 いや、外見をすっ飛ばして内面を語り始めた俺こそ殴ってくれ。
 茶色尽くしの彼女かもしれないが、彼女の輪郭は美しい卵型で、そこに猫の目みたいな大きな目が輝き、綺麗な三角形の鼻やキスしたくなる下唇だけ少しぽってした唇という素晴らしいものなのだ。

 ああ、キスしたい。
 そんな風にもんもん思い詰めてしまう程に、俺の目の前の彼女は、めったにいないだろう美少女でもあるのだ

  それなのに、そんなに素晴らしい彼女であるのに、俺には分不相応だって言ってくる失礼で浅はかな連中は多くいる。
 俺個人は婚約できて素晴らしい事だと大喜びなのに、王子である自分と子爵令嬢でしかない彼女では身分差というものがあるとの指摘だ。

 これについては、俺が王位につく気持ちなどこれっぽっちも無いと逆に考えてくれるものと思ったが、自分の考えが浅かったようだと俺は認める。
 けれど言い訳させてもらえれば、十三歳の子供にどこまで期待するのか、だ。

 クリストファー王子かニコライ王子かと二派にわかれている上級貴族達よりもはるかに数の多い下級貴族、そして民衆の支持。
 それらを手に入れるために婚約って十三歳の子供が考えますか?
 俺はそんなに頭が良くないですよ!だ。

 さらに残念なことに、将来父親になる彼女の父こそそのように考えるらしく、未来の王となる俺に絶対的な忠誠と、余計なお世話の采配をしてきたのである。

 つまり、イルヴァに護衛官並みの鍛錬を施した、という事だ。

 俺は婚約をしたその日から、俺が守るべき美しき婚約者から、見守り守られる立場になってしまったのである。

 悲しいぐらいに不甲斐無いわ!

 確かに、子供時代に賢い彼女に俺は救われたさ。
 そして、彼女に一目ぼれしてた俺が、十三になった年に婚約を差し出しただけなのに、一体どうしてこんなことになったのやら!

「ねえ、ノア?わたくしはいつまで婚約者でいればいいの?」

 突然の言葉、いや、これは彼女の新しき挨拶言葉に違いないと俺は思い込もうとしているが、彼女の茶色の瞳、琥珀か高級なブランデーのようにとろんとした美味しそうな輝きを見せる美しい瞳は、俺に愛の一片も無いという事を見せつけるぐらいにいつものように明瞭だった。

「わたくし、この関係にうんざりですのよ。」
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