灰色の王子様こそ泥棒娘を守りたいと願っている!

蔵前

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悪の華として燦然と輝け

何を言いたかったの?

 私は反対側のドアから馬車を降りようと動いたが、対面に座っていたカナンが従者らしくノアの味方をした。
 私がドアに向かえないように、彼の長い足が私の行き先を封じたのである。
 わあ、カナンめ。
 私を最初からノアに差し出すつもり、ぷらす、時間つぶしに私を揶揄っていた、という事かとカナンを睨んだが、私の行く手を阻んでいる男のはずのカナンはノアにお道化た表情を向けていた。

「殿下、あなたが許さないのは俺のどっちの野望ですか?出世?イルヴァちゃん?俺は欲しいものは貪欲に手に入れてきた男ですよ。」

「イルヴァに決まっているだろう!渡せ。」

 私は有無を言わさずにノアに引っ張られた。

「もう!」

「さあ、降りて。カナン少佐は忙しいんだ。」

 この声や話し方は私の知らないノアだ。
 私はすごすごと馬車を降り、そして、私には本当の顔を一つも見せてくれなかった婚約者を見あげた。
 彼はまた初めての顔を私に見せつけていた。
 情けない程に目尻を下げ、恥ずかしいぐらいにだらしなく口角を上げたニヤニヤ顔で、なんと、頬は酔っぱらったかのように赤い。
 どこが灰色と聞きたくなるぐらいに、ノアは色めいているのである。

「ノア?」

 彼は何も答えるどころか、グイっと私を引き寄せて抱き締めた。

「ノア?」

「よかった。君が婚約破棄を言い出したのは俺を心配しての事だったんだね!君を手放さなくていいんだ。このまま君を俺に縛り付けていてもいいんだ。ああ、俺は君をずっと抱きしめていていいんだね!」

「な、なにをおっしゃいますの!わたくし達は互い自由になって、それぞれ別の恋をしようって話じゃないですか!」

 今は恋をしていなくとも、この先あなたが別の人を恋したら、私こそあなたを恨んでしまいます事よ!

「君はクリストファーが良かったのか!」

「そんな訳無いでしょう!あなたこそエディット嬢はどうなさるの?ほっぺをつねられてとっても喜んでいらっしゃったじゃないですか!」

「いやだから、俺はエディット嬢なんて愛してもなんかいないって。それこそ君に、ええと、君に、君は俺をって、ああ、俺は聞いていなかった!」

 そこでノアはいつものノアに戻った。
 それから、まだ発車していないカナンの馬車に私を乗せ上げたのである。

「ノア?」

「とりあえずアンジェラ大叔母様の所に行って。」

「え?」

 カナンは両手で顔を覆って笑い出し、ついでに馬車の床を大きく蹴った。
 それを合図に馬車は走り出し、私は小さくなっていくノアを見つめるしかなく、盗んだはずの書類を奪い返されていた事を知っても悔しいとは思わなかった。

 だって、脳みそがそれどころじゃ無いのだもの。
 君は俺をって、何を言いかけたの?
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