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革命は如月にこそ起きやすい

りまという俺の妻

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 利秋と自宅に戻ると、藤吾が黒五を引き連れて物凄い勢いで廊下を走って俺達に突進してきた。
 そして、藤吾は父親の俺では無くて利秋に抱きついた。

「お帰りなさい!良かった!おじさんが帰って来た!」

 利秋は俺に優越感溢れた目線を寄こすと、父親のようにして藤吾を抱き返し、藤吾を抱いたまま玄関を上がって行った。
 靴を脱ぎ散らかして。
 俺は黒五に期待などしていない。
 奴の目は藤吾にしか向いていないのである。
 俺はふうと溜息をつくと、利秋の靴を揃え、そして自分も靴を脱ごうと上がり框に腰を下ろした。

「あなた、お帰りなさい。それで、ええと、まあ、着替えたら、あの、一緒にほんの少しでもいいからお出掛けしてくれないかしら。」

 俺の真後ろにりまが座り込み、しどろもどろに俺との外出を強請り始めた。
 りまは数日前から様子がおかしい。
 俺の周りをうろちょろしては、真っ赤になってどこぞに消える、言いたい事があったら言ってくれ、そんな行動を繰り返しているのである。

 俺は数日前からそんな不思議な行動をしていたりまを気になっていたが、早く帰って来た今日に限ってその悩み事を告白したいとはと頭を抱えた。
 俺は早く帰って来た今、藤吾が一時間は利秋に纏わりついてくれるだろう今こそ、りまと夫婦らしいひと時を得たいと思っていたのにと臍を噛んだ。

 しかし、俺が大事なのはりまだ。
 彼女の悩みを聞いてあげることこそ夫である俺の仕事ではないか?
 ヨキや藤吾のように、俺と和郎の存在を忘れたりはしていないのだし。

「あ、あの。さ、ああ、上がって下さいな。それで、少しだけしか時間が無いから、ああ、早く支度をなさってください。」

「わかった。そう急かすな。せっかく藤吾が利秋に纏わりついているのだ。ほんの少しぐらい君とゆっくりしたいではないか。」

 俺はりまにキスしようと体をりまに向けたら、あ、りまの顔は真っ赤なゆでだこのようになっているではないか。
 その上、彼女は俺との外出の為に、道行まで羽織った訪問着姿ではないか。
 髪なども美しくいつもと違う結い方で、彼女の美しさに俺こそ顔が真っ赤になってしまった。

「りま?」

「あの、ヨキさんが、あの、別に夜を待たなくても良いのではって。でも、ここでは出来ないから。」

「待ってろ!すぐに着替える。」

 俺は自室へと走っていた。
 廊下を走るなんてい生まれて初めてじゃないかと笑いながら走り、自室に飛び込むや軍服を放り投げるようにして脱ぎ散らかした。
 訪問着に合わせて着物と思ったが、俺は時間が惜しい。
 軍服の下には白いシャツだ。
 スーツの方が早く済む。
 ネクタイ?それは良いだろう!

 俺は再び玄関へと取って返した。
 さて、しけこむ場所をどこにしようかと頭を悩ませながら。
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