妖精管理官という見習いドルイドは今日も貧乏くじを引かされる

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妖精事件「だるまさんがころんだ」案件について

助ける方法があるならば!

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 班目は追いかけろと夜久に命じられたまま駆け出していたが、彼自身は悲鳴を上げて逃げ出した少女を保護せねばならないという責任感に溢れていた。
 そして、決して足を止めない少女の後姿を追いながら、班目は今までを思い返していた。

 妖精捕獲作戦が実行される前に、高校の必須科目である「妖精学」にて、人間と妖精の違いとして、夜久が作成したプリントが生徒達に配られている。

 その一、妖精には痛覚が無い。
 その二、停止できない妖精にはだるまさん転んだができない。
 その三、人間は動作を停止する時に心臓を止める事が出来る。

 その一以外は冗談でしかない文章であるが、夜久の仕掛けた放送で妖精がものの見事に動きを止め、さらに、人間の振りを続けるために心臓を止めたのである。
 妖精に肉体を奪われていた生徒はそこで死体に戻り、人間に寄生していた妖精は無理矢理に死んだ肉体から追い出され、妖精の体を維持できずに霧散したのだ。

 班目は夜久が叫んだだけで発現したその状況に驚くばかりだが、夜久はそのために予習させたのだと笑った。

「あいつらじゃない。あいつらに喰われた人間の一部が必死なのさ。自分は自分であるはずだってね。我考えるゆえに我ありって奴さ。」


「きぃやあああああああああああああああああ。」

「待って!君はまだ死んでいないはずだ!」

「だるまさんが転んだ!」

 野太い夜久の大声が班目の後ろから轟き、その言葉を耳にした女生徒は、ぴたっと動きを止め、その次には体を弾けさせて廊下に転がった。
 班目は足から力を失って、へんへなと廊下に座り込むしかなかった。
 自分は彼女を助けたかったのに、と。

 まず、グラウンドから生徒達が校外と校内の二派に別れて逃げ出した。
 校外に逃げた生徒は人間そのものだと夜久は言い、班目に校内に逃げた生徒を狩りに行くぞと声をかけた。
 その言葉通り夜久は生徒を見つけるや狩っていき、班目はその姿を見るにつけ自分こそ狩られているような恐怖心を抱いていた。

 それで彼は夜久から離れたのだ。

 離れて入った視聴覚室で、彼はパイプ椅子を盾にして隠れていた二人の女子学生を見つけた。
 彼女達は班目の姿にびくりと体を震わせ、班目はそんな彼女達の姿が、脅えでジャングルジムの中で外に出られなくなった小学生にしか見えなかった。

 だからか、二人の少女が妖精なのか人間なのか区別つかない班目であったが、妖精という異質への恐怖よりも、大人として脅える子供を保護しなければならない義務感が身のうちから湧き出ていたのである。
 そこで彼は彼女達に手を差し伸べたのだ。

「大丈夫かな?」

 少女達は同じ動作で班目を見上げ、同じタイミングで口を開いた。

「たすけてください。私はにんげんです。」
「たすけてください。わたしはにんげんです。」

 癖のある髪を肩まで伸ばした子と、顎のラインで切り揃えたボブの子。
 髪型も顔形も違うのに、彼女達の瞳は同じ形に大きく見え、表情も二人とも同じくらいにあどけなくて、班目には二人の少女が二卵性双生児のように見えた。

「あ、あの、えっと。」

 班目の後ろで扉が開き、廊下の灯りが暗い視聴覚室に差し込み、少女達の瞳が同時にきらりと緑がかった光でに光った。
 瞳の光に班目はぞくっと背筋が凍えたが、それでも、互いに抱き合っている少女達をどうにかすることなど班目には考え付かなかった。

「何をやってんだよ、ザビーノ。見つけたらとっとと処分をしろ。」

「しょ、処分て!」

 班目の真後ろに立っていた夜久は、振り向いた班目と目が合うと、ニヤリと悪辣そうに口元を歪めさせた。

「夜久さん?」

「こうするんだよ。」

 夜久は少女達の盾であるパイプ椅子を、思いっきり蹴り込んだのだ。
 少女達は悲鳴を上げる間もなく夜久の蹴りを受けたパイプ椅子によって体を叩きつけられ、パイプ椅子ごと大きく吹っ飛んで転がった。

「死んじゃうでしょう!こんな乱暴を受けたら死んじゃいますよ!」

「人間だったらな。痛みで心臓が止まるな。」

 ぽふん。

 少女の一人が体を爆発させた。
 班目はそのキノコが胞子を飛ばしたような音に見返した。
 ミイラに戻ったのはセミロングヘアの方だった。
 ボブの子は床に横たわったまま、自分の仲間だった少女の姿を茫然としたように見つめ、その数秒後に、人間らしい行動を取った。

「きぃやあああああああああああああああああ。」

 悲鳴を上げたのだ。

「この子は人間ですよ!君!大丈夫か?」

 班目は少女の介抱へと一歩踏み出したが、少女の方が早かった。
 自分の手近にあるパイプ椅子を引き寄せ班目へと押し出し、班目がパイプ椅子に足を取られたその隙に立ち上がると、視聴覚室の隣にある資料室への扉へと駆け出して行ったのだ。

「すごいな。妖精とは思えない判断力と行動だ。」

「単にまだ人間なんじゃないんですか!まだ助けられるはずですよ!」

 班目は夜久に大声で返すと、少女の後を追いかけた。

 そして、この結果なのである。

 悲鳴を上げながら逃げた少女は、夜久の妖精殺しの掛け声で動きを止め、夜久が教えた人間の情報を元にして心臓を止めたのだ。
 人間の振りをするために。

「どうして!」

「妖精に憑りつかれた人間はな、自分の命が終わっているからこそ、自分であろうと人間であることにしがみ付くのさ。」

「助ける方法は無いんですか?」

「あるけどさ。助けない方が人道的だと思うよ?」

 班目は立ち上がり、自分の指導教官に向き直った。
 自分は事務方を目指していた人間であり、現場の警察官になどなりたくはなかった人間であるが、不要な人死にを見逃せるほど人間は腐っていない。
 そう自分に言い聞かせながら夜久に立ち向かい、方法は?と尋ねていた。
 夜久はにやっと笑みを作ると、片手に持ち続けていた電気按摩を班目の手に押し付けた。

「あの!」

「俺は処分方法しか知らねえよ。お前だったら見つけられるかもな。助けてやれる方法とやらが。まあ、俺は早く家に帰りてえからよ、見つけたら処分していくがな。」

「じゃ、じゃあ!俺はあなたとは一緒にいられません!」

 班目は電気按摩を夜久に投げつけると、踵を返して駆け出した。
 どこに向かうつもりも彼にはないが、とにかく、簡単に生き物、それが妖精だろうと殺してしまえる人間から離れてしまいたかった。
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