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妖精事件「だるまさんがころんだ」案件について
逃げ遅れた少女達
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私は何が起きたのか理解できなかった。
緊急避難訓練で校庭に集められたと思ったら、大きな声でだるまさんが転んだと掛け声がグラウンドに響き、気が付いた時には友人達に引っ張られて家庭科準備室に逃げ込んでいたのである。
「やばいよ。やばい。校内に殺人者が入りこんじゃったよ。」
私の手を引いて逃げてくれたゆみかは、スマートフォンで何度も両親に連絡を入れようとしているが、電波が届かない状態であるらしい。
彼女はやばいやばいと言いながら頭を掻きむしり、ポニーテールに結った長い髪が掻きむしるたびにあちらこちらに飛び出して、ハンガーで巣作りする烏の巣のようになっている。
「あ、あたしたち死んじゃうのかな?」
膝を抱えて卵みたいに丸まっていたりなが、涙目で私を見上げた。
その姿から小学生にも見えるが、私達三人の中で一番胸が大きい子である。
あれ、どうして胸なんか考えたのかな?
急に体型について考え出した自分を訝りながらも、私は自分の体を見下ろした。
半袖の体操着は小学校時代に着ていたものと大差ない造りで、自分の体がそのころとあまり変わっていないと思い知らされただけだった。
そしてすぐに何も見なかった事にした。
そうよ、女性の価値は胸の大きさで変わったりしないのだもの!
「まりか?」
「あ、何でも無い。私はもう訳が分かんなくて。一体何があったの?」
「だ~るまさんが、こ~お~ろんだ!」
校庭で聞いた通りの良い男性の声が再び校内で響き、私はその低い声の恐ろしさにびくりと体が凍ったように固まった。
「いやあ!怖い。」
「ああ、何なんだよ、これは!」
りなは膝に顔を埋め、ゆみかは耳を塞いで頭を振った。
そうだ、こんなにこの声が怖いのは、この放送の後、クラスメイトが爆発したからなのだ。
違う、爆発じゃない。
彼はピタリと動きを止めただけだったが、動きが止まった途端に彼の体の周りで埃のようなものがばふっと飛び散り、あとにはミイラ化した彼の死体が転がっていたのである。
周囲のみんなは大声で叫んだ。
逃げられる人達は校庭から学校敷地外へと逃げていき、逃げ遅れた人達、私達を含めて動けなくなった人達は、敷地外に逃げた人達が校門まで閉めてしまった事を絶望を持って見つめなければいけなかった。
どうして?
脅えて動けない生徒や生徒の為に逃げ遅れた教師がまだいるのに、外へと逃げた生徒や教師は、どうして門を閉め切ってしまったの?
どうしてマイクロバスみたいな大きな警察車両が、閉まった門にさらに壁のようにして停車してしまったのだろうか。
「警察が来ているって事は、これって妖精案件かな。」
ゆみかが脅え声で呟いた。
私はゆみかの言葉によって疑問が全てわかったようになり、そのおかげか私は再び大きく息を吐く事が出来ていた。
「そっか。妖精だ。妖精を学校に閉じ込めたんだ。あんな、ああ、あんな人殺しみたいなことが起きたんだもの。げ、厳戒態勢って奴よね。」
ゆみかは私の言葉にほうっと、息を吐き、混乱と脅えだけだった顔を希望に綻びさせた。
「そっか。じゃ、じゃあ、あたしらが妖精じゃないってわかれば、あたしらは助けてもらえるって事か!逆に助け出して貰えるって事か。」
「そうよ!ゆみか。ねえ、りま。私達が妖精じゃないってわかって貰えれば外に出られるはずよ。それに、私達だけじゃ妖精に襲われてしまう。ドルイドを探しましょう。ドルイドに守ってもらいましょうよ!」
ところがりなは横に首を振った。
だめだよ、と脅えのある囁き声だって絞り出した。
「りな?」
私達はりなに注目すると、彼女は思い切ったようにして呟いた。
「だって、かんちゃんが!」
かんちゃん、とは、りなと同じ名前だが漢字で表記される名前をもつ鈴木莉奈の事である。
二人が同じ名前だからと、私達は彼女達を漢字の名前と平仮名の名前ということで、「かんちゃん」「ひらちゃん」と呼んでいる。
呼んでいた。
いつから「りな」の方を私達は「りな」としか呼ばなくなったのだろう。
「りな。かんちゃんの事はこんな時なんだから忘れろよ。」
「だって。かんちゃんはあれから戻って来ないじゃないの!」
ああ、思い出した。
かんちゃんは二週間前に学校帰りに警察に補導された。
それから彼女の姿を見なくなって、それで、私達は「りな」をひらちゃんと呼ばなくなったのだった。
え、そうだったっけ?
「だ~るまさんが、こ~お~ろんだ!」
私達は一斉にきゃあと言って耳を塞いだ。
この声で動けなくなった人だけが校舎内に閉じ込められた。
これはきっと妖精の呪文なのだ。
「きぃやあああああああああああああああああ。」
私達は恐怖で動けなくなったその時、私達を凍らせた術を破るような大きな悲鳴が校内に響き渡った、のである。
「やだ、この声はあこちゃんだ!」
「うそ!あこちゃん?た、助けに行ってあげないと!」
「仲間だもの!」
私達は震えながらも立ち上がり、準備室をそろそろと出ると、悲鳴の起きた方角へと恐る恐ると歩いて行った。
緊急避難訓練で校庭に集められたと思ったら、大きな声でだるまさんが転んだと掛け声がグラウンドに響き、気が付いた時には友人達に引っ張られて家庭科準備室に逃げ込んでいたのである。
「やばいよ。やばい。校内に殺人者が入りこんじゃったよ。」
私の手を引いて逃げてくれたゆみかは、スマートフォンで何度も両親に連絡を入れようとしているが、電波が届かない状態であるらしい。
彼女はやばいやばいと言いながら頭を掻きむしり、ポニーテールに結った長い髪が掻きむしるたびにあちらこちらに飛び出して、ハンガーで巣作りする烏の巣のようになっている。
「あ、あたしたち死んじゃうのかな?」
膝を抱えて卵みたいに丸まっていたりなが、涙目で私を見上げた。
その姿から小学生にも見えるが、私達三人の中で一番胸が大きい子である。
あれ、どうして胸なんか考えたのかな?
急に体型について考え出した自分を訝りながらも、私は自分の体を見下ろした。
半袖の体操着は小学校時代に着ていたものと大差ない造りで、自分の体がそのころとあまり変わっていないと思い知らされただけだった。
そしてすぐに何も見なかった事にした。
そうよ、女性の価値は胸の大きさで変わったりしないのだもの!
「まりか?」
「あ、何でも無い。私はもう訳が分かんなくて。一体何があったの?」
「だ~るまさんが、こ~お~ろんだ!」
校庭で聞いた通りの良い男性の声が再び校内で響き、私はその低い声の恐ろしさにびくりと体が凍ったように固まった。
「いやあ!怖い。」
「ああ、何なんだよ、これは!」
りなは膝に顔を埋め、ゆみかは耳を塞いで頭を振った。
そうだ、こんなにこの声が怖いのは、この放送の後、クラスメイトが爆発したからなのだ。
違う、爆発じゃない。
彼はピタリと動きを止めただけだったが、動きが止まった途端に彼の体の周りで埃のようなものがばふっと飛び散り、あとにはミイラ化した彼の死体が転がっていたのである。
周囲のみんなは大声で叫んだ。
逃げられる人達は校庭から学校敷地外へと逃げていき、逃げ遅れた人達、私達を含めて動けなくなった人達は、敷地外に逃げた人達が校門まで閉めてしまった事を絶望を持って見つめなければいけなかった。
どうして?
脅えて動けない生徒や生徒の為に逃げ遅れた教師がまだいるのに、外へと逃げた生徒や教師は、どうして門を閉め切ってしまったの?
どうしてマイクロバスみたいな大きな警察車両が、閉まった門にさらに壁のようにして停車してしまったのだろうか。
「警察が来ているって事は、これって妖精案件かな。」
ゆみかが脅え声で呟いた。
私はゆみかの言葉によって疑問が全てわかったようになり、そのおかげか私は再び大きく息を吐く事が出来ていた。
「そっか。妖精だ。妖精を学校に閉じ込めたんだ。あんな、ああ、あんな人殺しみたいなことが起きたんだもの。げ、厳戒態勢って奴よね。」
ゆみかは私の言葉にほうっと、息を吐き、混乱と脅えだけだった顔を希望に綻びさせた。
「そっか。じゃ、じゃあ、あたしらが妖精じゃないってわかれば、あたしらは助けてもらえるって事か!逆に助け出して貰えるって事か。」
「そうよ!ゆみか。ねえ、りま。私達が妖精じゃないってわかって貰えれば外に出られるはずよ。それに、私達だけじゃ妖精に襲われてしまう。ドルイドを探しましょう。ドルイドに守ってもらいましょうよ!」
ところがりなは横に首を振った。
だめだよ、と脅えのある囁き声だって絞り出した。
「りな?」
私達はりなに注目すると、彼女は思い切ったようにして呟いた。
「だって、かんちゃんが!」
かんちゃん、とは、りなと同じ名前だが漢字で表記される名前をもつ鈴木莉奈の事である。
二人が同じ名前だからと、私達は彼女達を漢字の名前と平仮名の名前ということで、「かんちゃん」「ひらちゃん」と呼んでいる。
呼んでいた。
いつから「りな」の方を私達は「りな」としか呼ばなくなったのだろう。
「りな。かんちゃんの事はこんな時なんだから忘れろよ。」
「だって。かんちゃんはあれから戻って来ないじゃないの!」
ああ、思い出した。
かんちゃんは二週間前に学校帰りに警察に補導された。
それから彼女の姿を見なくなって、それで、私達は「りな」をひらちゃんと呼ばなくなったのだった。
え、そうだったっけ?
「だ~るまさんが、こ~お~ろんだ!」
私達は一斉にきゃあと言って耳を塞いだ。
この声で動けなくなった人だけが校舎内に閉じ込められた。
これはきっと妖精の呪文なのだ。
「きぃやあああああああああああああああああ。」
私達は恐怖で動けなくなったその時、私達を凍らせた術を破るような大きな悲鳴が校内に響き渡った、のである。
「やだ、この声はあこちゃんだ!」
「うそ!あこちゃん?た、助けに行ってあげないと!」
「仲間だもの!」
私達は震えながらも立ち上がり、準備室をそろそろと出ると、悲鳴の起きた方角へと恐る恐ると歩いて行った。
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