やるかやられるか三日以内に決めてくれ

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新生活な二人の章

ここは思い出を呼ぶところ

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 理生人はすぐに桜井と桃園に慣れた。
 彼らは面倒見が良く優しい男達である。
 だから理生人が彼らを知ることで彼らを慕う事は想像に難くなく当たり前のことだと自分は思っていたが、俺が自分の友人だと紹介するや理生人が敵意も脅えも一瞬で消した事には驚きばかりだ。

 それだけ俺は理生人に信用されている?
 弟がいたらこんな感じで慕われるのかな。

 末っ子の蝶子が俺に姉貴ぶる気持を初めて理解したような、そんなこそばゆさもある良い気分に俺は浸っていた。
 理生人に奢らせた肉まんは美味しいし。

「桜井さんも桃園さんも自衛官なのですね。空さんは警察志望ですし、お父さんの部下の人達のようなカッコよさでしたから、桜井さん達も警察志望なんだと思っていました。」

 俺への信用じゃなく、桜井達の筋肉への信用か!

 俺は自分の細い体を爪先から指先まで見回して、しかし、むかっ腹が立つよりも自分に沸いた自信で笑みばかりが零れた。

 俺は桜井達クラスの肉体自慢だって倒して来た。

「理生人。警察官は一般人に紛れてこそ、だろ?お前も警察目指してんだったらさ、俺が喧嘩の仕方を教えてやるよ。」

「それは止めな、空。」
「止めてくれ。空。」

 桜井と桃園が同時に俺の言葉を制するとは思わなかった。
 それも、二人とも右手の手のひらを俺に向けて、だ。

「なんだよ。」

「お前は喧嘩が強いかもしれないが、単なる 特攻ぶっこみ野郎だろ。」

 桜井が、この問題の答えが違っていないか、そんな風な口調で俺を否定するような事を言って来た。

「そうそう。桜井の言う通りだって。柔道のルールも覚えない直情バカが喧嘩の仕方なんか人に教えるものじゃないよ。」

 忘れものぐらい誰だってするよ、そんな口調で桃園が俺をディスるとは!

 俺は不満いっぱいになりながら両腕を組んで親友を睨みつけ……、そんな事をするんじゃなかったと一瞬で反省した。
 どうして視界に映った余計なものに視線をフォーカスしてしまったのか。
 俺の動きが止まった事に俺よりも気が付くのが早い親友達は、俺の視線の先へと振り返り、同時に、げえ、と呟き声をあげた。

 俺のストーカーを自称する蝶子さんと理生人の親父が、俺達の五十メートル後ろで仲良く腕を組んで俺達を見守っていたのである。

「桜井。桃園。それから理生人。俺が合図したら走るぞ。いいな。」

 桜井と桃園は声を押し殺して笑い、理生人は期待一杯に瞳を輝かせて頭を何度も上下させた。

「それ!」

 俺達は走りだした。
 成人した男性三人と高校生男子一人。
 それらが笑い声をあげながら混雑の中を走り込むのだ。

「情けねえ。」
「くだらねえ。」
「どこの中坊だよ。」

 俺達は小学生の頃に気持ちは返り、理生人などは楽しくて仕方が無いという風に大声で笑いながら俺達について来た。
 それから数分後、息が切れている俺と理生人と違い、呼吸一つ乱れていない桜井達が俺達を抱えるようにしてとある場所に連れ込んだ。

 懐かしき高校時代を思い出すカラオケボックスだ。

 ただし、こっちの子のように学校帰りに寄っていたわけではない。
 田舎だからさ、車が無きゃいけない場所にしか無かったのよ。
 だから、夏休みなどの時間がある時に自転車をぶっ飛ばしてだな、俺達はカラオケに突撃していたのだ。
 そんな楽しかったばかりの思い出に俺は襲われた。

「わあ!僕はカラオケ初めてです。」

 俺は無言で桃園と手を打ち合わせた。
 よくやった、という感じだ。
 桜井は扉に近い席に腰をさっさと下ろしていた。
 自分が店員と全部やり取りをするつもりなのだろう。
 さすが元柔道部部長であり、俺を試合に出さ無いという戦法で我らが弱小柔道部を県大会予選通過に導いた策士だ。

「空、今日はメタルは禁止だ。」

 桜井の向かいの席に移動した俺に、桜井がメニュー表を差し出した。
 曲よりも飯を選べと言う事か?

「お前だってメタルは好きだろ?」

「今日はお前のシャウトは聞きたくない気持ちなんだ。何か、生々しいものを想像しそうでさ。」

 俺は桜井が想像するだろう事に気が付くと、桜井の手からメニューを奪い取って乱暴にソファに腰を落とした。
 お前のせいで、昨夜の怒り狂った九曜の攻めを思い出したじゃないか。
 俺の隣が大きくしなり、俺の隣に座った桃園が俺の手にあるメニューを抜き取ると、そのまま桜井の横に座った理生人に差し出した。

「好きに頼みな。」

「あ、ありがとうございます。えと、空さんが見ていた、あの。」

「大丈夫。こいつはポテトを与えておけば静かな男だ。」

「で、あの、皆さんは歌は歌わないんですか?」

 俺達の会話の意味を純な子供に説明など出来やしない。
 俺と桜井は、お前がやれよ、と目線を交わしたが、ここには素晴らしき男がもう一人いた。

「歌うけどさ、今日はゆっくりお喋りがしたいなって奴だよ。あ、でも理生人は好きに歌いな。好きな歌が思い浮かばないんだったらさ、俺が仕込んでやるよ。防大仕込みの盛り上げメドレーになっちまうけどな。」

「うふふ。それ覚えたいです。」

 肩を竦めて笑った理生人は高校生と言うよりも中学生にしか見えない幼さで、桃園の動きが少しだけ止まった。
 俺は肘を桃園に打ち付けた。

「って。乱暴だな。空。」

「うっせえよ。飯選びは桜井に任せて、まずはお前のその凶悪メドレー、俺と理生人に教えてくれ。なあ、理生人。せっかくのカラオケだ。まずは歌わねえとな。」

「はい。」

 幼稚園児みたいな理生人の嬉しそうな笑顔が眩しい。
 あの親父が可愛らしくて仕方が無いとデレる訳だ。

「げ。」

 俺は変な声を上げた後に固まってしまった桜井の視線の先を見返し、つまり入り口ドアでしか無いが、そこで同じような声が出てしまった。

 蝶子とおっさんがガラスに貼り付いている。
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