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新生活な二人の章
父と子と、あとは
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久しぶりなんだ。
息子と思いっ切りはしゃげたのは。
弦の言葉は俺の胸に刺さった。
俺と母は笑顔を見せあっていたが、その笑顔は相手を元気づけたり心配を掛けまいとするための笑顔で、親父が生きていた時の無邪気なものでは無かったのだ。
俺の頬にそっと誰かの指先が当たった。
俺の涙を拭ったそれは、弦の指先だった。
「君は優しいね。」
「いいえ。俺は自分ばかりです。」
「いいや。君は優しいよ。私を追い出さなかった。」
「俺の弟分が腹の底から笑えるならね、兄貴分の俺は何でもするってだけですよ。いいや、俺だけじゃない。俺の親友達だってね、理生人の兄貴分の気持ですって、って、わあ!」
俺に勢いよく理生人が抱きついて来たのだ。
俺より五センチ低いだけの青年だが、俺へのしがみ付き方は小学生みたいで、俺は本気で兄のような気持ちで彼を抱き返した。
「ありがとうございます。僕はあなたが大好きです。だから、ええと、だから、」
「ハハハ。兄貴にはもっと砕けていいんだぞ。」
理生人は俺の肩に押し付けていた顔を上げ、ウルウルした瞳で俺を見返した。
何かを告げようと覚悟を決めた顔つきで、俺は彼がどんな我儘か、あるいは、抱負のようなものを言ってくるのかと期待しながら見つめ返した。
「空さん。」
「何だい?」
「僕はいい男になりますから、それまで僕を待っていてください!」
「え?」
「でも、でも、お父さんの方がいいなら、ええ、家族になれるんなら我慢します。僕はあなたが大好きです!」
俺は何が起きたのかと自分の脳内を検索したが、俺の脳は俺のものなので俺に何の答えも渡さなかった。
そこで、俺の親友達を見返したが、彼らは俺が大失敗した時に必ず作る顔と素振りをしていた。
俺が先鋒として出場した試合にて、俺が敵の先鋒を畳に沈めた時の彼らの顔だ。
先鋒の勝利はこれからの自軍を奮発させる大事な勝利だ。
それを俺は華々しく掴んだはずが、俺に与えられたのは反則負けだった。
あの時のがっかりした桜井と桃園の顔は忘れられない。
肘関節以外に技を掛けちゃいけないなんて、そんなの戦っている最中に覚えていられっかよ、て奴だが、俺は彼らの表情によって取り返しのつかないことをしたと学んだのだ。
そして今彼らが俺に向ける表情は、俺のせいで反則負けしたあの日の表情と同じものだった。
「俺のせいかよ!」
あの日と同じ、俺は大声を上げていた。
「そうだ。君のせいじゃない。私が君に恋をしてしまったのがいけないんだ。」
「僕が恋した人にお父さんまでも恋に落ちてしまうなんて!」
俺の大声に呼応するように水無瀬親子も声を上げたが、俺はなんだかデシャブを感じるセリフだと思いながら蝶子を見返した。
あれ、蝶子は俺を見ていない?
俺はゆっくりと後ろを振り返った。
心臓が一回転した。
同期との研修会だからと、九曜は少し抑え気味の格好をして出て行った。
が、今の彼の服装は、誰かを堕とそうと企んだかのような艶やかな格好だった。
ピンストライプのスーツにヤクザに見えるような派手なネクタイ、そして、法廷の時とは違うアップバングした髪型は野性味に溢れている。
研修会を抜け出して美容院に行っていたの?
だとしても罵れねえよ。
今のお前は格好良すぎるよ。
「九曜。」
九曜は俺が出した声が情欲が混じった溜息交じりのものと知ったからか、人を堕落させる悪魔が浮かべるような笑みを作った。
俺に止めを刺してきやがったよ。
「水無瀬さん。初めまして。私は天野九曜と申します。日向空(ひなたそら)君のパートナーです。」
いや、水無瀬親子に喧嘩を売りに来ただけだ。
俺に手を出すんじゃねえ、と。
息子と思いっ切りはしゃげたのは。
弦の言葉は俺の胸に刺さった。
俺と母は笑顔を見せあっていたが、その笑顔は相手を元気づけたり心配を掛けまいとするための笑顔で、親父が生きていた時の無邪気なものでは無かったのだ。
俺の頬にそっと誰かの指先が当たった。
俺の涙を拭ったそれは、弦の指先だった。
「君は優しいね。」
「いいえ。俺は自分ばかりです。」
「いいや。君は優しいよ。私を追い出さなかった。」
「俺の弟分が腹の底から笑えるならね、兄貴分の俺は何でもするってだけですよ。いいや、俺だけじゃない。俺の親友達だってね、理生人の兄貴分の気持ですって、って、わあ!」
俺に勢いよく理生人が抱きついて来たのだ。
俺より五センチ低いだけの青年だが、俺へのしがみ付き方は小学生みたいで、俺は本気で兄のような気持ちで彼を抱き返した。
「ありがとうございます。僕はあなたが大好きです。だから、ええと、だから、」
「ハハハ。兄貴にはもっと砕けていいんだぞ。」
理生人は俺の肩に押し付けていた顔を上げ、ウルウルした瞳で俺を見返した。
何かを告げようと覚悟を決めた顔つきで、俺は彼がどんな我儘か、あるいは、抱負のようなものを言ってくるのかと期待しながら見つめ返した。
「空さん。」
「何だい?」
「僕はいい男になりますから、それまで僕を待っていてください!」
「え?」
「でも、でも、お父さんの方がいいなら、ええ、家族になれるんなら我慢します。僕はあなたが大好きです!」
俺は何が起きたのかと自分の脳内を検索したが、俺の脳は俺のものなので俺に何の答えも渡さなかった。
そこで、俺の親友達を見返したが、彼らは俺が大失敗した時に必ず作る顔と素振りをしていた。
俺が先鋒として出場した試合にて、俺が敵の先鋒を畳に沈めた時の彼らの顔だ。
先鋒の勝利はこれからの自軍を奮発させる大事な勝利だ。
それを俺は華々しく掴んだはずが、俺に与えられたのは反則負けだった。
あの時のがっかりした桜井と桃園の顔は忘れられない。
肘関節以外に技を掛けちゃいけないなんて、そんなの戦っている最中に覚えていられっかよ、て奴だが、俺は彼らの表情によって取り返しのつかないことをしたと学んだのだ。
そして今彼らが俺に向ける表情は、俺のせいで反則負けしたあの日の表情と同じものだった。
「俺のせいかよ!」
あの日と同じ、俺は大声を上げていた。
「そうだ。君のせいじゃない。私が君に恋をしてしまったのがいけないんだ。」
「僕が恋した人にお父さんまでも恋に落ちてしまうなんて!」
俺の大声に呼応するように水無瀬親子も声を上げたが、俺はなんだかデシャブを感じるセリフだと思いながら蝶子を見返した。
あれ、蝶子は俺を見ていない?
俺はゆっくりと後ろを振り返った。
心臓が一回転した。
同期との研修会だからと、九曜は少し抑え気味の格好をして出て行った。
が、今の彼の服装は、誰かを堕とそうと企んだかのような艶やかな格好だった。
ピンストライプのスーツにヤクザに見えるような派手なネクタイ、そして、法廷の時とは違うアップバングした髪型は野性味に溢れている。
研修会を抜け出して美容院に行っていたの?
だとしても罵れねえよ。
今のお前は格好良すぎるよ。
「九曜。」
九曜は俺が出した声が情欲が混じった溜息交じりのものと知ったからか、人を堕落させる悪魔が浮かべるような笑みを作った。
俺に止めを刺してきやがったよ。
「水無瀬さん。初めまして。私は天野九曜と申します。日向空(ひなたそら)君のパートナーです。」
いや、水無瀬親子に喧嘩を売りに来ただけだ。
俺に手を出すんじゃねえ、と。
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