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■フェーズ:012『インソムニアが終わるころ』
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Title:『インソムニアが終わるころ』
重度の睡眠障害と診断されて、早一年。
長期の休職や周囲の環境変化が新たなストレスを生み、
中途覚醒という名の病魔が俺の心を蝕んでゆく。
だが――俺にできることは極々限られている。
「睡眠障害を克服するには、
規則正しい生活を送ることが、
何よりの治療薬になるんだよな……。」
担当医が言うには、
適度な運動が自然な眠りを生み出すそうだ。
だから最近、自分で決めた距離を
無理のないペースで歩くようにしている。
「ふぅ……歩いてるだけなのに、
けっこう疲れるよな……。」
額に汗を浮かべ、河川敷や緑地公園を歩く。
すると、建て替え間近の
古びた団地のベランダに人影を見つけた。
「なんだ……あの子?」
いたるところがはねた黒髪のおかっぱと、
落ちくぼんだ生気のない瞳。
遠目からでも分かる、汚れた赤いワンピース。
小学校2年生ぐらいのその女の子は、
俺のことを無感情な様子で見つめていた。
「今日って平日だよな?
風邪で学校……休んでるとか?」
自分と同じように何か事情があって、
本来いるべき場所から遠ざかっているのかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は再び歩き始めた。
だが――翌日も、その翌日も女の子はそこにいた。
もちろん、汚れた赤いワンピースのままでだ。
「さすがにおかしくないか?
もしかして……虐待とか監禁じゃないよな?」
養父が3歳の男児をたばこやライターであぶった。
パチンコに行くのに1歳の長男が邪魔だった為、7時間監禁。
泣き止まない1歳の長女を、宙吊りにして首を締め付けた。
凄惨な事件を思い返し、俺は身震いをした。
「ちょっと……様子を見にいってみるか。」
俺は埃臭い階段を駆け上がり、
女の子が住んでいると思われる部屋へと急いだ。
「でも、女の子と会ってどうするんだ?
そもそも、この状況をどう説明すれば……。」
住人の気配を一切感じさせない、
ガランとした廊下でひとりごちる。
すると、風に揺れてキィキィと
金属の鳴き声を発する扉が視界に入った。
「ん? ドアが開いてる……。」
女の子の部屋だ。
確かめる前になぜか確信する。
俺は緊張と不安を唾と共に飲み込み、
扉をそっと開いた。
瞬間、強烈な腐敗と汚物の臭いが鼻をつく。
「な、なんだよこれ……。」
家具のないコンクリートむき出しの室内。
そこには首輪や鎖で繋がれた子供サイズのマネキンや、
犬猫の死骸が幾つも転がっていた。
「ここで何があったんだ……?」
心臓が跳ねる。嫌な汗がジワリと背中に広がる。
俺はサイコパスの心中に
飛び込んだような気分になりながら、
ベランダに目を向けた。
「あの子も……マネキンだったのか。」
無感情な様子や汚れた服の正体が分かり安心するが、
新たな違和感が俺を襲う。
「手に何か持ってるぞ……。」
女の子のマネキンの手に、
テープで貼り付けられたノートの切れ端。
俺はそれを掴み取り、震える指で開いた。
そこには、こう書かれていた。
『ようやく気づいてくれたんだね。
ずっと、ずっとサインを出していたんだ。
良かった、これで何事もなく終わる。
僕の名はインソムニア。
そうそう、ここはリハーサルスタジオだよ……。』
「なんだよこの手紙……。
悪戯にしちゃ、性質が悪すぎるぞ……。
はははっ、ほんと……なんて悪戯なんだ。」
日付はちょうど一年前。
俺は唇を戦慄かせながら、視線を彷徨わせた。
と――その時、真向かいの棟のベランダに
赤いワンピースの女の子が立っているのが見えた。
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Title:『インソムニアが終わるころ』
重度の睡眠障害と診断されて、早一年。
長期の休職や周囲の環境変化が新たなストレスを生み、
中途覚醒という名の病魔が俺の心を蝕んでゆく。
だが――俺にできることは極々限られている。
「睡眠障害を克服するには、
規則正しい生活を送ることが、
何よりの治療薬になるんだよな……。」
担当医が言うには、
適度な運動が自然な眠りを生み出すそうだ。
だから最近、自分で決めた距離を
無理のないペースで歩くようにしている。
「ふぅ……歩いてるだけなのに、
けっこう疲れるよな……。」
額に汗を浮かべ、河川敷や緑地公園を歩く。
すると、建て替え間近の
古びた団地のベランダに人影を見つけた。
「なんだ……あの子?」
いたるところがはねた黒髪のおかっぱと、
落ちくぼんだ生気のない瞳。
遠目からでも分かる、汚れた赤いワンピース。
小学校2年生ぐらいのその女の子は、
俺のことを無感情な様子で見つめていた。
「今日って平日だよな?
風邪で学校……休んでるとか?」
自分と同じように何か事情があって、
本来いるべき場所から遠ざかっているのかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は再び歩き始めた。
だが――翌日も、その翌日も女の子はそこにいた。
もちろん、汚れた赤いワンピースのままでだ。
「さすがにおかしくないか?
もしかして……虐待とか監禁じゃないよな?」
養父が3歳の男児をたばこやライターであぶった。
パチンコに行くのに1歳の長男が邪魔だった為、7時間監禁。
泣き止まない1歳の長女を、宙吊りにして首を締め付けた。
凄惨な事件を思い返し、俺は身震いをした。
「ちょっと……様子を見にいってみるか。」
俺は埃臭い階段を駆け上がり、
女の子が住んでいると思われる部屋へと急いだ。
「でも、女の子と会ってどうするんだ?
そもそも、この状況をどう説明すれば……。」
住人の気配を一切感じさせない、
ガランとした廊下でひとりごちる。
すると、風に揺れてキィキィと
金属の鳴き声を発する扉が視界に入った。
「ん? ドアが開いてる……。」
女の子の部屋だ。
確かめる前になぜか確信する。
俺は緊張と不安を唾と共に飲み込み、
扉をそっと開いた。
瞬間、強烈な腐敗と汚物の臭いが鼻をつく。
「な、なんだよこれ……。」
家具のないコンクリートむき出しの室内。
そこには首輪や鎖で繋がれた子供サイズのマネキンや、
犬猫の死骸が幾つも転がっていた。
「ここで何があったんだ……?」
心臓が跳ねる。嫌な汗がジワリと背中に広がる。
俺はサイコパスの心中に
飛び込んだような気分になりながら、
ベランダに目を向けた。
「あの子も……マネキンだったのか。」
無感情な様子や汚れた服の正体が分かり安心するが、
新たな違和感が俺を襲う。
「手に何か持ってるぞ……。」
女の子のマネキンの手に、
テープで貼り付けられたノートの切れ端。
俺はそれを掴み取り、震える指で開いた。
そこには、こう書かれていた。
『ようやく気づいてくれたんだね。
ずっと、ずっとサインを出していたんだ。
良かった、これで何事もなく終わる。
僕の名はインソムニア。
そうそう、ここはリハーサルスタジオだよ……。』
「なんだよこの手紙……。
悪戯にしちゃ、性質が悪すぎるぞ……。
はははっ、ほんと……なんて悪戯なんだ。」
日付はちょうど一年前。
俺は唇を戦慄かせながら、視線を彷徨わせた。
と――その時、真向かいの棟のベランダに
赤いワンピースの女の子が立っているのが見えた。
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