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第一章・墓標を立てる者
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「そのまま押さえてろ!」
リーダー格のヤクザが額に汗を浮かべて叫ぶ。残りは彼と、少女を捕らえたグロッキー気味の男、それに事態を把握できないまま呆然と立ち尽くしていた若いヤクザの三人だけだった。
ようやく我に返った若いヤクザが、羽交い絞めにされた少女に向かって歩いていく。その手には鈍い光を放つ刃物が握られていた。
無意識のうちに、勇三は駆け出していた。
突然の乱入者の存在に驚きの声をあげるリーダー格の男を素通りし、刃物を持った男に突進していく。気配に気付いた男が振り返ったときには、勇三は助走をつけて宙に浮いていた。
そのまま持ち上げた両足を男の顔面に叩き込む……ドロップキックだ。
思いがけない援軍に拘束がゆるむ。少女はそのチャンスを逃さなかった。両腕を押さえられたまま宙吊りにされていた少女は男の膝を踏み台に、身体を真っ直ぐに勢いよく飛び上がる。はたして、少女の頭突きがあごをとらえ、今度こそ男の意識を根こそぎ奪っていった。
「やれやれ、慣れないことはするもんじゃないな」
着地した少女は頭をさすりながら呟いた。
若いヤクザを吹き飛ばした勇三も地面から起き上がろうとする。
直後、裏路地から飲み屋街まで届く乾いた音があたりを響かせた。
爆竹でも破裂したのか。そんな勇三の考えは、リーダー格のヤクザが握りしめた拳銃を見て消え去った。
「あんまり調子に乗るなよ、ガキども」
銃が勇三と少女に交互に向けられる。怒りからくる興奮だろう、銃口がかすかに震えていたが、それでも狙いがまったくはずれているというわけではなかった。
「あーあ、みんなのしちまいやがって……どうしてくれんだ!」
ヤクザが恫喝するなか、勇三は膝立ちのまま相手の銃を見据えていた。
「なに、殺しはしねえよ。膝でも砕いて、痛い目見てもらうぐらいさ」
震えのおさまりはじめた銃口が狙いすますようにふたつの的を行き来する。
勇三はまばたきひとつせず、銃を見つめ続けた。引き金がしぼられるタイミングでなんとか身をかわすことができれば……
「あれ、久しぶり! どうしたのこんなところで?」
銃声でもヤクザの殺気でもなく、勇三の集中力はその声で霧散した。
隣を見ると、少女が快活な様子でヤクザの向こう側に視線を送っている。
勇三も飲み屋街の方角に目をやったが、そこには誰もいなかった。
「猿芝居はやめようぜ、嬢ちゃん」ヤクザがふん、と鼻を鳴らす。「そんなことしたってだまされねえよ」
勇三は背中を冷たい汗が流れるのを感じながら、ふたたび隣を見た。状況はあきらかに不利だったが、少女は相変わらず不敵な笑みを浮かべていた。
「そうか……そいつは残念だ!」
短い動作で右足を振り上げると、少女は地面に転がっていたなにかをヤクザにむかって蹴り飛ばした。
きらりと輝く鈍い光……あの若いヤクザが持っていた刃物だ。それがヤクザの脇をかすめ、その拍子に銃口の狙いがそれる。
勇三はふたたび駆け出した。
距離はおよそ五、六メートル。その道のりを絶望的なほど長く感じる。だが走り出した以上、もう途中でやめることはできない。彼は気の迷いを追い払った。
リーダー格のヤクザが額に汗を浮かべて叫ぶ。残りは彼と、少女を捕らえたグロッキー気味の男、それに事態を把握できないまま呆然と立ち尽くしていた若いヤクザの三人だけだった。
ようやく我に返った若いヤクザが、羽交い絞めにされた少女に向かって歩いていく。その手には鈍い光を放つ刃物が握られていた。
無意識のうちに、勇三は駆け出していた。
突然の乱入者の存在に驚きの声をあげるリーダー格の男を素通りし、刃物を持った男に突進していく。気配に気付いた男が振り返ったときには、勇三は助走をつけて宙に浮いていた。
そのまま持ち上げた両足を男の顔面に叩き込む……ドロップキックだ。
思いがけない援軍に拘束がゆるむ。少女はそのチャンスを逃さなかった。両腕を押さえられたまま宙吊りにされていた少女は男の膝を踏み台に、身体を真っ直ぐに勢いよく飛び上がる。はたして、少女の頭突きがあごをとらえ、今度こそ男の意識を根こそぎ奪っていった。
「やれやれ、慣れないことはするもんじゃないな」
着地した少女は頭をさすりながら呟いた。
若いヤクザを吹き飛ばした勇三も地面から起き上がろうとする。
直後、裏路地から飲み屋街まで届く乾いた音があたりを響かせた。
爆竹でも破裂したのか。そんな勇三の考えは、リーダー格のヤクザが握りしめた拳銃を見て消え去った。
「あんまり調子に乗るなよ、ガキども」
銃が勇三と少女に交互に向けられる。怒りからくる興奮だろう、銃口がかすかに震えていたが、それでも狙いがまったくはずれているというわけではなかった。
「あーあ、みんなのしちまいやがって……どうしてくれんだ!」
ヤクザが恫喝するなか、勇三は膝立ちのまま相手の銃を見据えていた。
「なに、殺しはしねえよ。膝でも砕いて、痛い目見てもらうぐらいさ」
震えのおさまりはじめた銃口が狙いすますようにふたつの的を行き来する。
勇三はまばたきひとつせず、銃を見つめ続けた。引き金がしぼられるタイミングでなんとか身をかわすことができれば……
「あれ、久しぶり! どうしたのこんなところで?」
銃声でもヤクザの殺気でもなく、勇三の集中力はその声で霧散した。
隣を見ると、少女が快活な様子でヤクザの向こう側に視線を送っている。
勇三も飲み屋街の方角に目をやったが、そこには誰もいなかった。
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勇三は背中を冷たい汗が流れるのを感じながら、ふたたび隣を見た。状況はあきらかに不利だったが、少女は相変わらず不敵な笑みを浮かべていた。
「そうか……そいつは残念だ!」
短い動作で右足を振り上げると、少女は地面に転がっていたなにかをヤクザにむかって蹴り飛ばした。
きらりと輝く鈍い光……あの若いヤクザが持っていた刃物だ。それがヤクザの脇をかすめ、その拍子に銃口の狙いがそれる。
勇三はふたたび駆け出した。
距離はおよそ五、六メートル。その道のりを絶望的なほど長く感じる。だが走り出した以上、もう途中でやめることはできない。彼は気の迷いを追い払った。
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