ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第一章・墓標を立てる者

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 景色が変わったのは、体力にそれなりの自信があった勇三がいよいよ息もあがりペースが落ちかけたときだった。

 ナトリウム灯から浮き上がるように、十数メートルほど先の壁が呼吸するように赤く明滅している。

 肩を上下させ、緩めた歩調でその光に近づきながら、ふとはるか地上のゲームセンターにカバンを置いてきてしまったのを思い出した。

 もっとも中身は教科書と筆記用具ぐらいだったし、ひょっとしたら広基あたりが気づいて預かってくれているかもしれない。それに少女と会いさえできれば、すぐにでも地上に出られるかもしれないのだ。

 そんな算段をしているうちに、勇三は壁までたどりついていた。
 頭上で強弱をつけて光る赤いランプがを見て警察や消防署を連想させる……事件や事故現場に急行するときのような、危なげな光を。

 ランプの下には巨大なトンネルに見合った、これまた巨大なゲートが口を開けていた。高さは八メートルほど、幅は十五メートルはあるだろうか。中にはドラム缶や木箱、それに中身の詰まった土嚢袋までが整然と積まれている。

 まだ道が続くのか。途方にくれそうになった勇三の予想に反して、ゲートの先には十メートルほどの奥行きがあっただけで行き止まりになっていた。

 そして少女はそこにいた。
 傍らに背負っていたバックパックを置き、こちらに背を向けてしゃがみこんでいる。

「ああ、位置についた。定刻通り」

 だしぬけに少女が喋りだし、歩み寄ろうとした勇三は思わず足を止めた。
 誰かと電話でもしているのだろうか。相槌を続ける少女の様子に気を取り直した彼は、ふたたびゆっくりと進みだした。

「待ってくれ……よし、送信頼む」

 少女の大人びた口調は昨夜出会ったときの印象そのままで、むしろこの怪しげな施設の雰囲気と妙に馴染んでいる。

 ふと足元を見下ろすと、ゲートの内外を仕切るように幅の広い溝が真横に走っていた。思った以上に扉が分厚いのか、あるいはゲートが何重にもなっているのだろうか。
 勇三は大股で溝をまたぎ、中へと入っていく。

「よし、閉めてくれ」

 そう言う少女は、イヤホンとマイクが一体となったいわゆるヘッドセットを身に着けていた。彼女はそれを指先で操作すると、ふたたび話しはじめた。

「トリガー、聞こえるか? 位置についた……ああ、わかってるよ」

 勇三は少女の真後ろでその様子を見守った。ふたりの距離は数メートルしか離れていなかった。
 少女が通信を終えるなり、背後のゲートが轟音を立てた。
 慌てて振り返る勇三の目の前で、テニスコートはあろう巨大なゲートが閉じていく。

「なんだ、これ?」

 その声に反応し、少女が振り返った。その目にはぎらつくような敵意と、警戒心がにじんでいた。
 無言が包むなか、勇三が彼女と対峙する。

「よ、よお……」

 沈黙に堪えかねて片手を挙げた直後、少女の姿がかすむ。あの獣のような敏捷性を発揮したのだと理解したときには、勇三はすでに彼女によって片手を背中にねじあげられ、あっという間に組み伏せられていた。
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