ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第二章・墓標に刻む者

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   Ⅰ


 速水勇三が飛び起きたのは、直前まで見ていた悪夢がいつもと違った奇妙な現実感を帯びていたからだ。それは新鮮な経験と記憶に裏打ちされた現実感だった。

 身体を起こした拍子にあちこちで激痛が走った。骨が軋み、筋肉が震え、あらゆる関節が締め上げられる。

 完全には目覚めていない頭のまま周囲を見渡す。
 カーテンの隙間から差し込む朝日を浴びながら一分ほど経った頃、勇三はようやくここが自宅アパートであることを理解した。

 全身からあがる抗議の声を無視しながら身体を覆っていた毛布を取り去ったところで、初めて自分が裸であることに気づく。

 自分がなぜこんな有様なのかを思い出そうとするが、いっこうに記憶がよみがえらない。
 勇三は立ち上がって洗面所に向かうと、鏡に映った自分の姿をまじまじと見つめた。

 赤い髪の向こうから、同色の瞳がこちらを見つめ返してくる。
 髪を染めたわけでもカラーコンタクトを入れたわけでもなく、勇三の身体は生まれつきこうだった。身体が頑丈なのも、傷の治りが異常なほど早いのもそうだ。おまけに人並外れた怪力の持ち主でもある。

 これらの体質は、物心ついた頃から勇三についてまわっていた。
 実の母親は、勇三の知るかぎりでは普通の人間だったと記憶している。というのも彼が幼い頃に事故で死別しており、曖昧な思い出しか持ち合わせていなかったからだ。

 父親との思い出に至ってはそれ以上に無かった。母との死別に先立ち、蒸発して息子の前から姿を消していたからだ。きっと家族に無関心なろくでなしだったのだろうと、彼は勝手に納得していた。
 ただ「勇三」という名前は父親がつけた名前だということを、いまは離れて暮らしている養父母から聞いたことはあった。この国にロックンロールを持ち込んだ偉大な人物にちなんだらしい。だからといって、父親に対して特別な感情を持つこともなかったが。

 自分と同じ遺伝子を半分だけ持っている男。勇三の父親に対する評価はそれ以上でも以下でもなかった。
 あるいはその父親も勇三に似た特異体質の持ち主だったのかもしれないが、いまとなっては知る由もない。

 勇三自身、自分のこの体質を便利だなどと思ったことは一度もなく、むしろ薄気味悪さすらおぼえていた。
 そのためこの体質は、友人である啓二たちや養父母らにも打ち明けることのできない、勇三だけの秘密だった。

 服を着ようと部屋に引き返したとき、勇三は居間兼寝室のテーブルの上に手紙が乗っているのを見つけた。
 訝しみながらも、取り上げた手紙に目を通す。

 それまで曖昧だった彼の記憶は、文面を追うにつれて瞬く間に形を取り戻していった。
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