ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第二章・墓標に刻む者

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   Ⅱ


 目は覚めたか? お前をここまで運ぶのにはなかなか骨が折れた。
 もし昨夜の事が気になったのなら……ああ違うな、たとえ気にならなかったとしても一度会って話がしたい。
 もう一枚のメモに書いた住所まで来てくれ。時間は特に指定しない。大概はそこにいるから。

 それじゃあ、待ってる。

   N    

 追伸・この家の住所を知るのに預かっていた学生証を見せてもらった。ついでに返しておく



 テーブルに視線に戻すと、勇三の顔写真が貼られた学生証と住所が書かれたもう一枚のメモ、それから手紙と住所を書くのに使ったのであろうペンが転がっていた。

 署名の「N」は通り名となっている「ニンフズ」の頭文字か。差出人はあの少女、入江霧子におそらく間違いないだろう。
 勇三が体験した悪夢が決定的な現実味を帯びてきた。



 男子高校生はつねに腹が減るもんだ、啓二がそう豪語していたのがもう何年も前のように感じたが、実際その通りだった。

 頭の混乱以上に、いまの勇三にとっては空腹であることのほうが重大だった。そこで彼はまず服を身に着けると、胃袋をぐうぐう鳴らしながらトースト三枚と玉子たっぷりのベーコンを焼き始めた。

 全身のだるさと筋肉痛は相変わらず続いており、身体も妙に血なまぐさい。
 なにより勇三をうんざりさせたのは、部屋の壁にハンガーで吊るされた学生服と、そばの床に丸めて置かれた肌着やワイシャツからも同じ臭いが放たれていることだった。
 駄目押しとばかりに時刻は十時をとうにまわっており、遅刻が確定していた。

 勇三は自らが放つ悪臭に辟易しながらトーストをかじりつつ、部屋じゅうをうろうろと歩きまわった。
 はたして目的のものは玄関の脇、台所のシンクの上で見つかった。勇三は普段ほとんど使うことのない携帯電話を取り上げると、三人の友人宛に学校を休むのと、昨日突然いなくなってしまったことを詫びるメッセージを送った。
 いまは授業の時間帯だし、すぐに返事がくるとは思わなかった。

 学校にも遅ればせながら欠席の連絡をいれたあと、勇三は二枚目のトーストにとりかかりながら気晴らしのためにテレビをつけた。鼻が麻痺してしまったのか、窓を閉め切った部屋を満たす金臭さもさして気にならなくなり、彼は画面を追いながら食事をがつがつと平らげていった。

 合わせたチャンネルでは午前の情報バラエティ番組が放送されており、新進気鋭の外国人経営者を話題に取り上げていた。

 済ませた食事の片付けを終えると、勇三は適当に身支度を整えた。
 紙幣を数枚直接ポケットにねじ込み、サンダル履きに洗面用具とタオルを抱え、血に汚れた衣類を入れたゴミ袋を持ってアパートを出る。
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