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第二章・墓標に刻む者
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Ⅴ
奇妙な感覚だった。
あの曲がり角の先に霧子がいる……彼女の姿がどこにも見えないというのに、勇三はそのことを直感できていたのだ。
床下の梯子を降りた先にあったのは、保存食や日用品を収めた貯蔵庫だった。その奥にある扉をくぐって勇三が出てきたのは、昨日と同じあの白一色の無機質な廊下だった。
きっとこの通路は町中の地下の至る所に張り巡らされているのだろう。まるでモグラが掘った穴のように、あるいはその白さも相まって、クモが張った巣のように。
教えられた道順どおりに進んで、最後に角を曲がる。はたして、その先の壁に霧子はもたれかかっていた。
先ほどの服装から、昨日と同じ膝下丈の白いワンピースもハイカットのブーツ姿へと着替えていた。どうやらこれが<アウターガイア>へ降りるときの正装らしい。
じっと見つめてくる霧子に、勇三もなにも言わないまま立っていることしかできなかった。
やがて霧子は深いため息をつくと、「どうしてもついてくるつもりなんだな?」
「ああ」
それ以上なにも言わず、霧子は廊下を進んでいった。勇三も黙って後に着いていく。
暗証番号を入力するドアをあけ、十分後にはあの巨大なトンネルまで降り立っていた。
「このトンネルは……」天井のナトリウム灯を眺めながら発した声が、地下を反響する。「<アウターガイア>と同じでやっぱり三十年前からあるのか? 相当古いけど」
「もっと以前からだ。<アウターガイア>の着工前に資材や道具を運ぶために大型のトラックを出入りさせる必要があったからな」前を進む霧子は振り返らないまま言った。
「だからこんなに大きいのか」
「いまでも兵器やら物資やらの運搬で役に立ってるがな。むしろそっちのほうがおあつらえむきだ」
「そういや、ヘリなんかも飛んたな」
「戦闘ヘリだ。爆撃や機銃掃射なんかで使うんだ。ほかには戦車とか……わたしたちに馴染み深いのは装甲車だな」
「へえ」
「あとは稀に戦闘機も飛ぶぞ。滑走路に使えるほど長くで舗装された直線道路はあまりないし、こんなところを飛びたがる酔狂者も多くはないが、ゼロじゃない。即席のカタパルトで飛ばしたり払い下げのハリアーを調達したりと、結構無茶なこともやってるな」
懐かしい思い出でも語るかのように、霧子はかすかに笑みを浮かんでいた。話の内容こそわからないものの、その横顔に勇三もつられて口元が緩む。
しかし大型の昇降機に乗り込み、こちらを向く霧子の顔はふたたび真剣なものに残っていた。
「本当にいいんだな?」
念を押すような霧子に勇三はゆっくりと頷き返すと、「おまえこそ責任感じたりするなよ、おれが勝手についてきたんだから。それにあの犬……トリガーにも散々謝られたし、こっちも店のもの壊したりしたんだ。お互い様だろ」
「店の備品のことならもう話はついてる。それよりいいか、わたしの後ろを離れるなよ」
「わたった」
やがて昇降機があの暗がりにさしかかると、風鳴りとも機械の駆動音ともわからないけたたましさがあたりを包んだ。
ふたりは闇を見つめながら、黙って佇んでいた。
轟音が止み、ふたたびあの世界が目の前に広がる。
奇妙な感覚だった。
あの曲がり角の先に霧子がいる……彼女の姿がどこにも見えないというのに、勇三はそのことを直感できていたのだ。
床下の梯子を降りた先にあったのは、保存食や日用品を収めた貯蔵庫だった。その奥にある扉をくぐって勇三が出てきたのは、昨日と同じあの白一色の無機質な廊下だった。
きっとこの通路は町中の地下の至る所に張り巡らされているのだろう。まるでモグラが掘った穴のように、あるいはその白さも相まって、クモが張った巣のように。
教えられた道順どおりに進んで、最後に角を曲がる。はたして、その先の壁に霧子はもたれかかっていた。
先ほどの服装から、昨日と同じ膝下丈の白いワンピースもハイカットのブーツ姿へと着替えていた。どうやらこれが<アウターガイア>へ降りるときの正装らしい。
じっと見つめてくる霧子に、勇三もなにも言わないまま立っていることしかできなかった。
やがて霧子は深いため息をつくと、「どうしてもついてくるつもりなんだな?」
「ああ」
それ以上なにも言わず、霧子は廊下を進んでいった。勇三も黙って後に着いていく。
暗証番号を入力するドアをあけ、十分後にはあの巨大なトンネルまで降り立っていた。
「このトンネルは……」天井のナトリウム灯を眺めながら発した声が、地下を反響する。「<アウターガイア>と同じでやっぱり三十年前からあるのか? 相当古いけど」
「もっと以前からだ。<アウターガイア>の着工前に資材や道具を運ぶために大型のトラックを出入りさせる必要があったからな」前を進む霧子は振り返らないまま言った。
「だからこんなに大きいのか」
「いまでも兵器やら物資やらの運搬で役に立ってるがな。むしろそっちのほうがおあつらえむきだ」
「そういや、ヘリなんかも飛んたな」
「戦闘ヘリだ。爆撃や機銃掃射なんかで使うんだ。ほかには戦車とか……わたしたちに馴染み深いのは装甲車だな」
「へえ」
「あとは稀に戦闘機も飛ぶぞ。滑走路に使えるほど長くで舗装された直線道路はあまりないし、こんなところを飛びたがる酔狂者も多くはないが、ゼロじゃない。即席のカタパルトで飛ばしたり払い下げのハリアーを調達したりと、結構無茶なこともやってるな」
懐かしい思い出でも語るかのように、霧子はかすかに笑みを浮かんでいた。話の内容こそわからないものの、その横顔に勇三もつられて口元が緩む。
しかし大型の昇降機に乗り込み、こちらを向く霧子の顔はふたたび真剣なものに残っていた。
「本当にいいんだな?」
念を押すような霧子に勇三はゆっくりと頷き返すと、「おまえこそ責任感じたりするなよ、おれが勝手についてきたんだから。それにあの犬……トリガーにも散々謝られたし、こっちも店のもの壊したりしたんだ。お互い様だろ」
「店の備品のことならもう話はついてる。それよりいいか、わたしの後ろを離れるなよ」
「わたった」
やがて昇降機があの暗がりにさしかかると、風鳴りとも機械の駆動音ともわからないけたたましさがあたりを包んだ。
ふたりは闇を見つめながら、黙って佇んでいた。
轟音が止み、ふたたびあの世界が目の前に広がる。
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