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第三章・血斗
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Ⅲ
<グレイヴァー>になってから一週間が経とうとしていた。
そのあいだ勇三は、ただトリガーに基本的な戦闘技術を叩きこまるだけでなく、この仕事について自分なりに色々と調べてみた。とはいえ、せいぜいハロルドくんが見守るなか<サムソン&デリラ>の端末から情報を漁ることぐらいしかできなかったが。
おまけに見習い同然の立場ではデータベースのアクセス権も限られているうえに高校生の彼にとっては難解な言葉が並んでおり、トリガーや霧子から聞いてきた語句の意味を確認するぐらいしかできなかった。
それによると、<グレイヴァー>はアルファベットで『Graver』と表記し、霧子が言うところの『墓掘り人足』ではなく直接は『彫刻刀』を指す言葉だった。
もっとも『Grave』はそのまま『墓』を意味するので、あながち無関係というわけでもなさそうである。
次に<エンド・オブ・ストレンジャーズ>のような<グレイヴァー>の集団を<コープス>と呼ぶこともわかった。これは『共同体』を意味する『cooperative』と『作戦』をしめす『operation』を合わせた造語で、『コープス』の発音は同時に『corpse』、つまり『死体』を意味する。
〝墓守連中が墓場でする事といえば、
死体の勘定ぐらいだ〟
折にふれて、そんな冗談をこぼしたのはトリガーだった。そのあと霧子がこのジョークの笑いどころを教えてくれたが、説明を聞いても勇三は釈然としないまま眉根を寄せた。
「こんないい加減な名前ばかりなのはな」トリガーは言った。「うちの会社の経営者がいい加減な人間だからなんだ」
意味があるのかないのかわからない用語はこれだけではない。
<アウターガイア>を跳梁跋扈するレギオンたちの等級にも、そのいい加減さは反映されていた。
五段階の等級にはギリシア神話から二十世紀初頭に生まれた若い神話まで、それぞれの由来からきた無節操な名前がつけられていた。
勇三が<グレイヴァー>として、初めて戦った半魚人のような怪物の等級は最下位の<ピクシー級>だった。
ピクシーがイングランド南西部の民間伝承に登場する妖精のことであるのに対して、そもそも『レギオン』というのが『マルコによる福音書』に登場する悪霊を意味するのだから、いよいよその統一感は薄れてくる。
勇三は情報収集に初日で見切りをつけてしまった。けっきょくのところ、語源を知っていたからといってあの地下世界で直接役立つわけでもない。
生き残るつもりであれば、トリガーに師事してもらったほうがよっぽど有益だった。
<グレイヴァー>になってから一週間が経とうとしていた。
そのあいだ勇三は、ただトリガーに基本的な戦闘技術を叩きこまるだけでなく、この仕事について自分なりに色々と調べてみた。とはいえ、せいぜいハロルドくんが見守るなか<サムソン&デリラ>の端末から情報を漁ることぐらいしかできなかったが。
おまけに見習い同然の立場ではデータベースのアクセス権も限られているうえに高校生の彼にとっては難解な言葉が並んでおり、トリガーや霧子から聞いてきた語句の意味を確認するぐらいしかできなかった。
それによると、<グレイヴァー>はアルファベットで『Graver』と表記し、霧子が言うところの『墓掘り人足』ではなく直接は『彫刻刀』を指す言葉だった。
もっとも『Grave』はそのまま『墓』を意味するので、あながち無関係というわけでもなさそうである。
次に<エンド・オブ・ストレンジャーズ>のような<グレイヴァー>の集団を<コープス>と呼ぶこともわかった。これは『共同体』を意味する『cooperative』と『作戦』をしめす『operation』を合わせた造語で、『コープス』の発音は同時に『corpse』、つまり『死体』を意味する。
〝墓守連中が墓場でする事といえば、
死体の勘定ぐらいだ〟
折にふれて、そんな冗談をこぼしたのはトリガーだった。そのあと霧子がこのジョークの笑いどころを教えてくれたが、説明を聞いても勇三は釈然としないまま眉根を寄せた。
「こんないい加減な名前ばかりなのはな」トリガーは言った。「うちの会社の経営者がいい加減な人間だからなんだ」
意味があるのかないのかわからない用語はこれだけではない。
<アウターガイア>を跳梁跋扈するレギオンたちの等級にも、そのいい加減さは反映されていた。
五段階の等級にはギリシア神話から二十世紀初頭に生まれた若い神話まで、それぞれの由来からきた無節操な名前がつけられていた。
勇三が<グレイヴァー>として、初めて戦った半魚人のような怪物の等級は最下位の<ピクシー級>だった。
ピクシーがイングランド南西部の民間伝承に登場する妖精のことであるのに対して、そもそも『レギオン』というのが『マルコによる福音書』に登場する悪霊を意味するのだから、いよいよその統一感は薄れてくる。
勇三は情報収集に初日で見切りをつけてしまった。けっきょくのところ、語源を知っていたからといってあの地下世界で直接役立つわけでもない。
生き残るつもりであれば、トリガーに師事してもらったほうがよっぽど有益だった。
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