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第三章・血斗
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気づけば男や勇三の周囲に数人の男たちが集まりはじめていた。皆一様に同じ方向を歩き、押し殺せない野獣めいた気配を漂わせている。そして、まるでその特性とは切り離せないとでも言うかのように、全員が武器が入っていると思しきケースを手にしていた。
(まるでヤクザの音楽隊だな)勇三は思った。(そんなにいかつい指じゃ音を鳴らすことはできないのに……いや、『鳴らす』っていうのはあながち間違いじゃないか)
いつしか頭の中ではそんな皮肉が浮かんでいた。
戦闘に関する技術や知識だけではなく、訓練教官であるあの喋る犬の影響は勇三のそんな思考にまで及んでいた。
目的地はアーケードの途中に建ったとある雑居ビルで、入り口の前にはすでに数人の男達がたむろしていた。誰もが先ほどの男と同様に屈強で、どう工夫をこらしても寂れた昼間の街並みには溶け込めそうになかった。
躊躇した勇三は、しばらくその場に立ち尽くした。数人の男達が追い抜きざまに怪訝そうな一瞥をくれながら、雑居ビルの前にできた輪へと加わっていく。
「なあ、あんた」
背後から声をかけられた勇三が振り向くと、ひとりの男性が立っていた。浅黒い肌と長い髪をした背の高い優男風で、武器を持って戦うというよりも南国リゾート地の観光案内でもしているほうが似合いそうな風貌をしている。
「あんた、速水勇三か?」男性が訊ねる。「おれはヤマモトという者だ……ああ、本名かどうかは訊くなよ。トリガーさんから連絡を受けてな。赤い髪だからすぐに目立つとは言われたが、まさかこんなに若いとはな」
「トリガーに?」
ヤマモトは頷くと、「あんたの仕事に手を貸すよう言われたんだ。まあちょうどこっちも暇してたからな」
ヤマモトが差し出した手を握ると、見た目からは想像もつかないほどの強さで握り返された。
「トリガーと知り合いなのか?」握手を終えた勇三が訊ねる。
「おれにとっちゃ恩人みたいなもんだな。こうやってときどき仕事をまわしてくれるから、フリーの身でも食いっぱぐれなくて済んでるんだ」
(恩人……犬なのに?)
「来いよ。仲間を紹介する」
疑問を浮かべながらヤマモトについていくと、ふたりの外国人が地べたに腰をおろしていた。
「こっちがリチャード・ドーズ」
紹介されたひとりは目方だけでも勇三の倍はありそうな大男だった。五分刈りの髪の下に覗く眉の無い眼に睨まれるようにしながら、勇三はドーズと形ばかりの握手をした。
「で、こっちがヘドウィグ・リンドバーグ」萎縮する勇三をよそにヤマモトがもうひとりを紹介する。「おれたちはヘザーって呼んでる」
ヘザーは勇三が見上げるほどの長身だった。きちんとセットされた金髪の巻き毛を持つ肌は透き通るように白く、隣にほくろを添えた唇ばかりがいやに赤い。その中性的な見た目と、ドーズに劣らぬの巨体というアンバランスさに勇三は思わず尻込みした。
だがそれ以上に彼を辟易させたのは、挨拶を終えたドーズとヘザーが口にした流暢な英語だった。
「どうした?」ヤマモトが眉をあげる。
「いや……話せないんだよ、おれ。英語が……」
「なに、心配するな」ヤマモトが肩をすくめる。「こいつらは英語しか話せない」
期待から落胆へと表情を変える勇三を見て、ヤマモトは笑い出した。このやり取りに目を向けたドーズとヘザーも、同調するように笑みを浮かべる。
「いや、すまん。いまは話せなくても、こいつらと何日か一緒に過ごしてればいやでも身につくさ」
ヤマモトがそう言って肩を叩いてくるが、勇三は釈然としない気分だった。
(まるでヤクザの音楽隊だな)勇三は思った。(そんなにいかつい指じゃ音を鳴らすことはできないのに……いや、『鳴らす』っていうのはあながち間違いじゃないか)
いつしか頭の中ではそんな皮肉が浮かんでいた。
戦闘に関する技術や知識だけではなく、訓練教官であるあの喋る犬の影響は勇三のそんな思考にまで及んでいた。
目的地はアーケードの途中に建ったとある雑居ビルで、入り口の前にはすでに数人の男達がたむろしていた。誰もが先ほどの男と同様に屈強で、どう工夫をこらしても寂れた昼間の街並みには溶け込めそうになかった。
躊躇した勇三は、しばらくその場に立ち尽くした。数人の男達が追い抜きざまに怪訝そうな一瞥をくれながら、雑居ビルの前にできた輪へと加わっていく。
「なあ、あんた」
背後から声をかけられた勇三が振り向くと、ひとりの男性が立っていた。浅黒い肌と長い髪をした背の高い優男風で、武器を持って戦うというよりも南国リゾート地の観光案内でもしているほうが似合いそうな風貌をしている。
「あんた、速水勇三か?」男性が訊ねる。「おれはヤマモトという者だ……ああ、本名かどうかは訊くなよ。トリガーさんから連絡を受けてな。赤い髪だからすぐに目立つとは言われたが、まさかこんなに若いとはな」
「トリガーに?」
ヤマモトは頷くと、「あんたの仕事に手を貸すよう言われたんだ。まあちょうどこっちも暇してたからな」
ヤマモトが差し出した手を握ると、見た目からは想像もつかないほどの強さで握り返された。
「トリガーと知り合いなのか?」握手を終えた勇三が訊ねる。
「おれにとっちゃ恩人みたいなもんだな。こうやってときどき仕事をまわしてくれるから、フリーの身でも食いっぱぐれなくて済んでるんだ」
(恩人……犬なのに?)
「来いよ。仲間を紹介する」
疑問を浮かべながらヤマモトについていくと、ふたりの外国人が地べたに腰をおろしていた。
「こっちがリチャード・ドーズ」
紹介されたひとりは目方だけでも勇三の倍はありそうな大男だった。五分刈りの髪の下に覗く眉の無い眼に睨まれるようにしながら、勇三はドーズと形ばかりの握手をした。
「で、こっちがヘドウィグ・リンドバーグ」萎縮する勇三をよそにヤマモトがもうひとりを紹介する。「おれたちはヘザーって呼んでる」
ヘザーは勇三が見上げるほどの長身だった。きちんとセットされた金髪の巻き毛を持つ肌は透き通るように白く、隣にほくろを添えた唇ばかりがいやに赤い。その中性的な見た目と、ドーズに劣らぬの巨体というアンバランスさに勇三は思わず尻込みした。
だがそれ以上に彼を辟易させたのは、挨拶を終えたドーズとヘザーが口にした流暢な英語だった。
「どうした?」ヤマモトが眉をあげる。
「いや……話せないんだよ、おれ。英語が……」
「なに、心配するな」ヤマモトが肩をすくめる。「こいつらは英語しか話せない」
期待から落胆へと表情を変える勇三を見て、ヤマモトは笑い出した。このやり取りに目を向けたドーズとヘザーも、同調するように笑みを浮かべる。
「いや、すまん。いまは話せなくても、こいつらと何日か一緒に過ごしてればいやでも身につくさ」
ヤマモトがそう言って肩を叩いてくるが、勇三は釈然としない気分だった。
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