ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第三章・血斗

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   Ⅳ


 平日の昼間、電車に乗客はほとんどいなかった。
 勇三は八人掛けの長椅子にひとりで座りながら、窓の外を流れる風景を眺めていた。

 これから危険を伴う仕事に向かうというのに、レールの継ぎ目を跳ねるように進む走行音を耳についまどろんでしまう。
 レギオンとの戦いで負った傷を癒やしながら学校で授業を受けたあと、直行した<サムソン&デリラ>でトリガーの訓練をこなしていく慌ただしい日々とくらべれば、いまだいぶ緩やかな時間が流れているように感じた。

 それでも、不安をおぼえていないと言えば嘘になる。
 地元から実際の距離以上に遠くへ来てしまったように感じていたし、無事に帰って来られるという保障もなかったからだ。

 今頃啓二たちは、いつもと同じように授業を受けているのだろうか……放課後連れだって遊ぶこともすっかりなくなってしまった。
 いずれは彼らも自分に対して不信感を抱きはじめ、そしてそのまま離れていってしまうのかもしれない。
 そうなったところで勇三が友人たちを責める権利はないが、取り残されることを考えると漠然とした不安をおぼえてしまう。
 だが足取りの重さを無視するように、電車は着実に勇三を目的地へと運んでいった。

 いま足元には、大急ぎでまとめた荷物を詰め込んだボストンバッグと、強化プラスチック製のケースが並んで置いてあった。ケースに入ったライフルという存在が、自分と日常とを決定的に切り離しているように思えてしまう。
 だが、いざというとき最後に頼れるのがこの道具であることもわかっていた。

 窓枠の中から高層ビル群が消え失せ、山間に広がる林と田畑、それらを貫くどこか仰々しい国道がとって代わっていた。

 目的の駅に到着すると、勇三は痛む頭を抱えながら電車を降りた。静まりかえった車内でうとうととしていたものの、完全に眠りに落ちることができなかったのだ。
 右手に持ったケースが、左肩に掛けたボストンバッグ以上に重く感じる。分解されているとはいえ、ライフルを携えて交番の前や人通りの多いところを歩くことも考えられず、勇三はあえて遠回りして目的地へと向かった。

 駅前のバスローターリーにあった案内板と手元のメモを頼りに、人陰もまばらなアーケードを通り抜けていく。
 地図上で見たかぎりでは大きな建物の無い地区のようだったが、勇三はその点に関して訝りはしなかった。一都四県をまたぐ巨大な<アウターガイア>は、どんな場所が入口になっているのか予想もつかなかったからだ。
 ゲームセンターの地下倉庫からつながっていたり、オフィス街の喫茶店から降りることもできる。いま歩いているアーケードの両側にはシャッターが降りた個人商店やファストフード店が建ち並んでいたが、そのうちのどれかが地下世界に通じていたとしてもなんら不思議はなかった。

 突如背後から鋭い気配を感じ取って振り返ると、通りの反対側をスキンヘッドの男が歩いていた。
 肌の色が白く、目は青い。眉はほとんど見えないほどに薄く、反面、口の周りには濃いひげを蓄えている。男がこの国の人種でないことはあきらかだった。

(同業者だ)

 歩調を緩めてわざと追い抜かせた後ろ姿を見ながら、勇三はそう思った。

 実際、男はたくましい体格をしていた。
 タンクトップから伸びた腕は筋肉がごつごつとしており、一歩進むごとにぶ厚い背面が力強く隆起している。
 そしてグローブのような手で、まるで示し合わせたように大型のケースを持っていた。
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