ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第三章・血斗

12

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 すでに大の男が三人と、彼らの荷物に占領されていた空間は手狭で、勇三は自分の荷物を抱えるようにしてどうにか身体の置き場所を確保した。

 宙吊りのエレベーターが乗り込んだそばから危なげに揺れ、肩に触れた壁に貼られたフェルト地の荒い感触が不安をさらにかきたてる。
 ドアが完全に閉じる最後の瞬間まで、高岡は無言のまま勇三たちに視線を送っていた。

「さてと……」エレベーターの奥からヤマモトが声をかける。「おい坊主、悪いがボタンを押してくれ。こっちはクソの山ふたつに挟まれて身動きがとれない」

 ドーズがヤマモトに話しかける。詳細はわからないが、語尾が上がり気味なところからなにかを訊ねているのだろう。
 ヤマモトが笑い混じりに英語で返事をすると、ドーズとヘザーが冗談交じりに彼を小突いた。その動きのせいで、エレベーターがふたたび揺れる。

「どれを押せばいいんだ?」勇三は正面のパネルに向き合いながら、声を張り上げた。
「まずは三階を押してくれ」笑いの尾を引きながらヤマモトが言う。

 まずは、という言葉に引っかかりを感じながらも、勇三はボタンを押した。短い振動のあと、エレベーターが三階に到着する。
 開いた扉から降りようとする勇三を、ヘザーが首根っこを掴んで止めた。

「まだ降りるなよ」ヤマモトが言う。「初めからやりなおしになっちまう。次に二階を押してくれ」
「なんなんだ、これ?」
「いまは質問は無しだ。後ろで待ってる連中に尻を蹴りあげられたいなら話は別だがな」

 勇三はため息をついて二階のボタンを押した。ドアが閉まり、エレベーターが降りていく。

「次は四階だ」

 勇三は黙って従った。
 四階に着くと、今度は三階に下る……こうして二階分あがってはひとつ降りる、という動きを繰り返し、彼らは最上階の五階に辿りついた。

「よし、上出来だ。それじゃあ最後に一階を押してくれ。ご苦労さん」

 一階にボタンに触れた瞬間、電流でも流れているかのように指を離してしまった。

 あとは地獄へ真っ逆さま……

 脳裏をよぎる不吉な思いつきをかき消してボタンを押す。今度は電流のような感覚は襲ってこなかった。

 待機していたエレベーターは扉を閉ざし、一階を目指しておりていった。表示板のオレンジ色の数字だけが彼らの位置を示してくれる。

 ……4……3

 一階で同じく止まるという勇三の予想に反して、エレベーターがスピードを緩める様子はなかった。それどころか、スピードをあげているのが感じ取れた。

 ……2……1

 地面にぶつかる。そう確信した直後にエレベーターが大きく揺れ、同時に天井の蛍光灯が明滅した。表示板の数字が消え去り、背景の黒だけが壁を切り取る。

(下がり続けているんだ)勇三が思い至った直後、エレベーターの揺れがよりいっそう激しくなる。(地獄に落ちてる……)

 言葉を発する者は誰もおらず、ただ落下の振動に身構える息遣いだけが聞こえる。
 勇三もこぶしを握り締めながら、漏れ出てしまいそうな声を堪えていた。

 やがてエレベーターが速度をゆるめ、停止する。
 開いた扉から転がるようにして外へ出た勇三は思わず息を飲んだ。そこはあの寒々しくも洗練された白い廊下ではなく、さらにその下にある巨大なトンネルだった。
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