ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第三章・血斗

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 足場を組んでいるあいだに、ほかの二チームともそれぞれ別の作業を済ませていた。
 片付いた二階の一室に入ると、勇三はここにきて初めて休憩をとることができた。

「おれたちはこれから三交代制で動く」ビールの缶を手に、骨組みだけとなったベッドにもたれたヤマモトは言った。「歩哨と見張りするチーム、施設のメンテナンスと通信、それから棚卸を担当するチーム、それから休憩にありつけるラッキーなやつら。それぞれを二時間ごとに交代するんだ」

 説明を聞きながら、勇三は半ば押しつけられるようにして持たされた缶を口に近づけた。しびれを伴うような炭酸と苦みが、舌の上で弾ける。
 思わず顔をしかめて缶を床に置いてしまった彼を見て、ヤマモトの両脇に座っていたドーズとヘザーが笑みを浮かべる。
 四人はいま、床に直接腰をおろして電気式のランタンを囲む車座になっていた。

「そう嫌な顔するなよ」ヤマモトが微笑みながら、ビールを大きくあおる。「クライアントからせっかくのご厚意なんだ。ビールだけじゃない、食料と薬品類も支給されてるんだぜ。まったく、政府っていうのは自分たちの利益のためなら信じられないくらい太っ腹になるもんだな」

 勇三はふたたび缶を取り上げると、中身をまじまじと見つめた。それから息を吐き、吸い込む空気と一緒に缶の中身を空にする。

 口の中をつついた炭酸が食道を通るにつれ心地よい喉ごしへと変わりながら、胃の底へと落ちていく。飲み馴れない苦みを身体が押し戻そうとするのを堪えながら、勇三はどうにか息をついた。

 それを見た三人の反応は様々だった。ヤマモトは笑みを絶やさぬままビールをもうひとくち飲み、ヘザーは両手の指を組みながらしきりに頷いている。
 ドーズは見た目のいかつさに似つかわしくない軽快な口笛を吹くと、親しみをこめるように勇三の肩と背中のあいだ、ちょうど肩甲骨のあたりを叩いてきた。
 その拍子に身体の内側が痙攣し、胃の奥から大きなげっぷがせりあがった。アルコールを含んだ呼気が鼻腔を焼き、飲み干したとき以上の酩酊感をもたらしてくる。

 故意ではないにせよ、自分の行儀の悪さに勇三は顔をしかめた。ヤマモトたちからも笑みが失せ、真顔でこちらを見てくる。

(これはまた、からかわれるな)

 勇三がそう覚悟した直後、先ほどよりもさらに大きな賞賛と拍手が三人からわきあがった。
 ドーズだけでなくヘザーも加わり、両側から肩や背中を叩いてくる。その力強さに閉口しながら、勇三はヤマモトを見た。

「よし、それじゃああらためて乾杯しよう。ほら、新しいのを開けろよ」

 言いながらヤマモトは新しいビールをまわした。
 ドーズは自分を後回しにして受け取った缶を、わざわざプルタブまで開けて勇三によこしてきた。

「今回、おれたち流れ者集団に新しくやってきた男……そう、男の中の男の登場を、我らが偉大なる発明家、クレオパトラに報告しよう」

 同じ内容だろう、ヤマモトはドーズとヘザーにも英語でそれを伝えた。ふたりが頷き、リーダーとともに缶を掲げる。

「クレオパトラ?」

 勇三も缶を持ち上げながら訊ねたが、ヤマモトは意味深に片目をつぶってみせただけだった。
 それから彼の合図で、四つのビールが高らかに打ち鳴らされた。
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