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第三章・血斗
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煙が立ち、リンのつんとした匂いとともにマッチが燃える。
いまにも消えようと危なげに揺らめく火を、勇三は手製の武器の先端へと近づけた……廃材の中から拾い上げた鉄パイプと、発電用のエンジンを動かすためのガソリンとを染み込ませた布とを組み合わせて作った松明に。
松明が生命の躍動を感じさせるように輝く。
顔の火照りを無視しながらひと振りすると、炎の動きに合わせて大小さまざまな影が踊り出した。
勇三は無意識のうちに雄叫びをあげながら、既にスキンヘッドの男まであと数センチと迫っていた群れの先頭に松明を突き出した。
群れがざわめき、怯んだように停止する。スキンヘッドの男と群れとのあいだに立った勇三は、威嚇するようにさらに松明を振り回した。
せめて時間を稼ぎながら敷地まで後退できれば……そんな勇三の期待以上に、舞い散る火の粉が触れた瞬間幼生たちが火に包まれた。
数秒のうちに、枯れて乾いた草原に放たれた野火のように群れがいっせいに燃えだした。視界のあちこちで炎が暗闇を舐め、あたりを橙に染め上げていく。
呆然とした勇三を我に返したのは、足を掴んできた誰かの手だった。
視線を落とすと、懇願するのと同時に怒り狂ったような眼差しをしたスキンヘッドの男と目が合う。
「大丈夫か?」相手の理解はお構いなしに勇三は言った。「そんなわけないか。ちょっとのあいだ、我慢しててくれよ」
相手の返答は待たなかった。
勇三は男の脇の下と足のあいだに腕を差し込むと、首の後ろにまわすようにしてその巨体を担ぎあげた。傷口から新たに血が吹き出したが、気遣う余裕は無かった。
駆け出す直前に振り返った一瞬、火に焼かれたままこちらへと追いすがる幼生たちが見える。
肩の後ろで破裂音が響き、視界の隅で閃光がきらめく。スキンヘッドの男が拳銃を撃っているのだとすぐにわかった。弾丸が命中した幼生の断末魔と、男の咆哮、自分の息遣いも聞こえてくる。
「なにやってる! ゲートまで走れ!」
次いで耳に届いた叫びに顔をあげると、『ウィリー』に構えるドーズの隣で、ヤマモトがフェンスに取り付きながら右方向を指さしていた。
そちらを向くと、ゲートのそばでヘザーが手を振っている。勇三は足を転じると、男を担ぎながらフェンスにゲートに向かって全速力で走った。『ウィリー』のものだろう、散発的な砲火が轟く。
ゲートを駆け抜けた勇三は少々手荒ながらスキンヘッドの男を降ろすと、ヘザーが閉じているゲートに向けてライフルを構える。
照準の先、炎の中に立つ怪物の母親を見た。
蹄のついた脚をぴんと伸ばし、割れた突起を閉ざされた天に向けて大きく広げている。歯の並んだ器官の奥からは、古ぼけたエンジンのような音が絶えず響いていた。
怪物が悲しみ、怒り狂っているということは、地面で炎に焼かれた我が子の亡骸を見てすぐにわかった。
怪物と死者、そして生存者とを閉ざされたゲートが隔てるなか、勇三と炎の中の母親は対峙した。
やがてレギオンは焼け死んでいった子供たちを残し、炎の向こうに広がる闇の中へと姿を消した。
いまにも消えようと危なげに揺らめく火を、勇三は手製の武器の先端へと近づけた……廃材の中から拾い上げた鉄パイプと、発電用のエンジンを動かすためのガソリンとを染み込ませた布とを組み合わせて作った松明に。
松明が生命の躍動を感じさせるように輝く。
顔の火照りを無視しながらひと振りすると、炎の動きに合わせて大小さまざまな影が踊り出した。
勇三は無意識のうちに雄叫びをあげながら、既にスキンヘッドの男まであと数センチと迫っていた群れの先頭に松明を突き出した。
群れがざわめき、怯んだように停止する。スキンヘッドの男と群れとのあいだに立った勇三は、威嚇するようにさらに松明を振り回した。
せめて時間を稼ぎながら敷地まで後退できれば……そんな勇三の期待以上に、舞い散る火の粉が触れた瞬間幼生たちが火に包まれた。
数秒のうちに、枯れて乾いた草原に放たれた野火のように群れがいっせいに燃えだした。視界のあちこちで炎が暗闇を舐め、あたりを橙に染め上げていく。
呆然とした勇三を我に返したのは、足を掴んできた誰かの手だった。
視線を落とすと、懇願するのと同時に怒り狂ったような眼差しをしたスキンヘッドの男と目が合う。
「大丈夫か?」相手の理解はお構いなしに勇三は言った。「そんなわけないか。ちょっとのあいだ、我慢しててくれよ」
相手の返答は待たなかった。
勇三は男の脇の下と足のあいだに腕を差し込むと、首の後ろにまわすようにしてその巨体を担ぎあげた。傷口から新たに血が吹き出したが、気遣う余裕は無かった。
駆け出す直前に振り返った一瞬、火に焼かれたままこちらへと追いすがる幼生たちが見える。
肩の後ろで破裂音が響き、視界の隅で閃光がきらめく。スキンヘッドの男が拳銃を撃っているのだとすぐにわかった。弾丸が命中した幼生の断末魔と、男の咆哮、自分の息遣いも聞こえてくる。
「なにやってる! ゲートまで走れ!」
次いで耳に届いた叫びに顔をあげると、『ウィリー』に構えるドーズの隣で、ヤマモトがフェンスに取り付きながら右方向を指さしていた。
そちらを向くと、ゲートのそばでヘザーが手を振っている。勇三は足を転じると、男を担ぎながらフェンスにゲートに向かって全速力で走った。『ウィリー』のものだろう、散発的な砲火が轟く。
ゲートを駆け抜けた勇三は少々手荒ながらスキンヘッドの男を降ろすと、ヘザーが閉じているゲートに向けてライフルを構える。
照準の先、炎の中に立つ怪物の母親を見た。
蹄のついた脚をぴんと伸ばし、割れた突起を閉ざされた天に向けて大きく広げている。歯の並んだ器官の奥からは、古ぼけたエンジンのような音が絶えず響いていた。
怪物が悲しみ、怒り狂っているということは、地面で炎に焼かれた我が子の亡骸を見てすぐにわかった。
怪物と死者、そして生存者とを閉ざされたゲートが隔てるなか、勇三と炎の中の母親は対峙した。
やがてレギオンは焼け死んでいった子供たちを残し、炎の向こうに広がる闇の中へと姿を消した。
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