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第三章・血斗
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勇三は『ウィリー』の銃座につきながら、戦いの一部始終を見ていた。正確には、身をすくませる以外になにもできなかった。この死闘に割って入ることもできず、そうしようとする気持ちすら起きず、ただ我を忘れて事の顛末を見ているだけだった。
燃え上がるトラックの炎のなかで影がうごめく。それは炎の揺らめきとして見過ごせないほど濃く、そして大きかった。
勇三を突き動かしたのは使命感ではなく恐怖だった。反射的に『ウィリー』の銃口を炎のうごめく部分に向け、引き金を引く。
だが弾丸が貫いたのは陽炎だけだった。一瞬早く、炎の中から黒こげの巨体が空中へと躍り出たからだ。
炎に包まれながらも、怪物の動きは少しも鈍っていなかった。
勇三が狂ったように左右を跳びまわるレギオンを『ウィリー』の銃口で追いながら乱射しても、弾丸は一発たりとも命中しなかった。むしろ小回りの効かない銃身の大きさがあだとなり、撃つごとに弾丸の軌道は大きくはずれていた。
募る焦りが次第に恐慌へと変わるなか、怪物は銃撃をかわしながら勇三との距離を急激に近づけてきた。
レギオンが大きく脚を溜めて大地を蹴る。巨体が半回転しながら最後の距離を詰めるその動きに負傷したヤマモトたちの姿が重なり、反射的に身をかがめる。額からわずか数センチの距離まで迫っていた刃をかわしながら、勇三は『ウィリー』ごとフェンスのほうへと向きなおった。
身にまとっていた炎を振り切り、皮膚が焼けただれた怪物は薄くたわみやすいフェンスの上に着地していた……右腕の刃を振り上げていた。
咄嗟に持ち上げた『ウィリー』の銃身と刃の軌道とが重なる。目もくらむような閃光のなか、勇三は銃身ごとこちらを断ち切ろうとする刃の圧力を感じた。
反射的に見張り台を蹴り、後ろ向きに飛び降りる。空中を落ちていくなか、刃が髪の毛をひと房切り落としていく。
四メートルの高さから地面に叩きつけられ、視界が一瞬暗くなる。
だが届いた雄叫びを耳に、勇三は抱えていた『ウィリー』を横向きして両腕を宙へと突き出した。
ふたたび衝撃が襲いかかってきたが、今度も銃身は勇三の身を守ってくれた。
目を見開くと、怪物の両手の刃が力任せに自分を押し切ろうとしていた。走らせた刃が、銃身のなかに数センチほどめりこんでいる。
ライフルの弾丸を連続で受けたせいか、滑らかだった刃の表面はのこぎりのようにあちこちが欠けていた。もしも万全の状態だったら、あっという間に身体を両断されていただろう。
だがレギオンの怪力は衰えていなかった。そこに自重も加わって刃が眼前に迫るなか、勇三の身体は地面と『ウィリー』とのあいだに挟まれていた。刃が肩に食い込み、焼けた銃身を掴んだ手の平とともに痛みを伝えてくる。
炭化した怪物の表皮が剥がれ、ぱらぱらと顔に振りかかってくる。死に瀕しているような見た目に反して、そこには妄執的とさえ言える活力がにじんでいた。
殺される。そんな勇三の予想を体現するように、怪物が両肩のあいだにある突起をゆっくりと伸ばしてきた。表面に十字の切れ込みが入り、割れた部分から覗いた無数の刃とピンクの肉が、火傷で覆われた体表と恐ろしいコントラストを描いている。
トンネル掘削機のように円形に並んだ歯が迫り、ゆっくりと勇三の頭を包みこもうとする。
すべてを諦めかけたそのとき、彼らの戦場からはるか遠くの空でひとつの小さな光が瞬いた。
燃え上がるトラックの炎のなかで影がうごめく。それは炎の揺らめきとして見過ごせないほど濃く、そして大きかった。
勇三を突き動かしたのは使命感ではなく恐怖だった。反射的に『ウィリー』の銃口を炎のうごめく部分に向け、引き金を引く。
だが弾丸が貫いたのは陽炎だけだった。一瞬早く、炎の中から黒こげの巨体が空中へと躍り出たからだ。
炎に包まれながらも、怪物の動きは少しも鈍っていなかった。
勇三が狂ったように左右を跳びまわるレギオンを『ウィリー』の銃口で追いながら乱射しても、弾丸は一発たりとも命中しなかった。むしろ小回りの効かない銃身の大きさがあだとなり、撃つごとに弾丸の軌道は大きくはずれていた。
募る焦りが次第に恐慌へと変わるなか、怪物は銃撃をかわしながら勇三との距離を急激に近づけてきた。
レギオンが大きく脚を溜めて大地を蹴る。巨体が半回転しながら最後の距離を詰めるその動きに負傷したヤマモトたちの姿が重なり、反射的に身をかがめる。額からわずか数センチの距離まで迫っていた刃をかわしながら、勇三は『ウィリー』ごとフェンスのほうへと向きなおった。
身にまとっていた炎を振り切り、皮膚が焼けただれた怪物は薄くたわみやすいフェンスの上に着地していた……右腕の刃を振り上げていた。
咄嗟に持ち上げた『ウィリー』の銃身と刃の軌道とが重なる。目もくらむような閃光のなか、勇三は銃身ごとこちらを断ち切ろうとする刃の圧力を感じた。
反射的に見張り台を蹴り、後ろ向きに飛び降りる。空中を落ちていくなか、刃が髪の毛をひと房切り落としていく。
四メートルの高さから地面に叩きつけられ、視界が一瞬暗くなる。
だが届いた雄叫びを耳に、勇三は抱えていた『ウィリー』を横向きして両腕を宙へと突き出した。
ふたたび衝撃が襲いかかってきたが、今度も銃身は勇三の身を守ってくれた。
目を見開くと、怪物の両手の刃が力任せに自分を押し切ろうとしていた。走らせた刃が、銃身のなかに数センチほどめりこんでいる。
ライフルの弾丸を連続で受けたせいか、滑らかだった刃の表面はのこぎりのようにあちこちが欠けていた。もしも万全の状態だったら、あっという間に身体を両断されていただろう。
だがレギオンの怪力は衰えていなかった。そこに自重も加わって刃が眼前に迫るなか、勇三の身体は地面と『ウィリー』とのあいだに挟まれていた。刃が肩に食い込み、焼けた銃身を掴んだ手の平とともに痛みを伝えてくる。
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トンネル掘削機のように円形に並んだ歯が迫り、ゆっくりと勇三の頭を包みこもうとする。
すべてを諦めかけたそのとき、彼らの戦場からはるか遠くの空でひとつの小さな光が瞬いた。
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