ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第四章・エンド・オブ・ストレンジャーズ

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 暗いままの部屋を横切ると、勇三はベッドの上にごろりと横になった。
 数か月留守にしていたにも関わらず、部屋には自宅アパートのような埃っぽさはなかった。きっと叔母が掃除を欠かさないのだろう、布団や枕からも太陽の匂いがする。

 なまりきった身体で歩き回ったせいか、全身が泥のように重い。
 だが、すぐに眠りに落ちるだろうという予想に反して、まぶたはいっこうに降りてこなかった。それどころか、闇の中にいると余計に目が冴えてしまった。

 入院していたときに飲んでいた薬が欲しかった。あれさえあれば、自分の意思などお構いなしに眠ることができた。ひとり生き残ったことに対する孤独も恐怖も関係無しに、ただ眠りの世界に身を委ねることができた。

 組んだ両手に頭を乗せて薄暗い天井を見つめながら、いつしか勇三は死んでいった者たちのことを考えていた。
 ドーズやヘザー、名前も知らないスキンヘッドの男に<死者の行進>のメンバー。そしてなにより、ヤマモトのことを……いま振り返ってみると、勇三はあの場に居合わせた全員のことを、自分が思っていた以上に好きだったのではないか。

 自分だけが生き残ったいまになってそのことに気づき、不意に涙があふれてきた。
 襲いかかる悲しみから目をそらすように寝返りをうつと、階下から床を通して叔父と叔母の話し声が聞こえてくる。いまの勇三にとって、その声はどこまでも遠くに感じられた。

 もう自分は、あちらに戻ることは許されない。かといって、<グレイヴァー>となる道を自ら進んで選ぶこともできない。
 自分の命や大切な人たちの安全を守るためという理由も、いまやじゅうぶんなものではなくなっていた。なにより、一度屈してしまったあの恐怖が支配する世界に身を置きたくはなかった。

 自分はこうして生の世界からも死の世界からも見放され、中空をさ迷う存在になってしまった。
 そう考えると頬をまた一筋、涙が落ちていった。

〝まともなままで生きていけ。こんな狂った世界に合わせて、おまえまで狂っちまうことはないんだ〟

 ヤマモトの最期を思い出す。勇三は<グレイヴァー>であったこと以外、彼についてはとうとうなにも知ることができなかった。その生い立ちや、この言葉を通して伝えたかったことなど、なにひとつとして。

 窓から差し込んでいた光が消えた。勉強を終えてサエが眠りについたのだろう、人工の明かりが譲った場所に夜の闇が流れ込む。
 不意に勇三は、こうしてベッドに横になっていることをひどく無防備に感じた。闇は<アウターガイア>のものほど威圧的ではなかったが、彼はその本質をよく理解していた。
 同じ家屋に叔父と叔母が、そしてほんの二メートルほどの距離にサエもいることはわかっていたが、そうした物理的な理屈を超え、彼は闇の中にひとり取り残されていた。

 勇三はベッドから起き上がると部屋の一角に背を預けて座り込み、目の前の暗がりを油断なく見つめた。
 暗がりの奥から白い手が伸びて、自分の命をかすめとっていく……そんな妄執が、いくら振り払おうとしても頭から離れなかった。
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