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第四章・エンド・オブ・ストレンジャーズ
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Ⅴ
薄暗さと静けさの奥に、強い敵意と殺気を感じる。
霧子は車窓の外を流れていく風景を眺めながら、<アウターガイア>を満たす空気で感覚を研ぎ澄ましていた。
隣の座席ではハンドルを持った男が、後部のシートの屋根をぶちぬいて設置した銃座には女が、それぞれ揃いの黒いスーツに身を包み、周囲に視線を配っていた。
「降車一分前です」運転席の男が言う。
「標的はまだ封鎖ポイントなんだな?」
「ええ、いまのところ付近をうろついているだけです」
霧子はため息をつくと、「あんたらの本部から連絡が無かった時点で嫌な予感はしていたんだが……途中で出くわせば距離も稼げたんだがな」
「あの巨体です、基礎代謝だけでもエネルギーが相当必要なんでしょう」
「腹は減ってるが、まだ飢え死にするほどじゃないってことか。こんな身体でも腹の足しにはなるかな」言いながら、自分の二の腕を叩いてみる。「まったく、餌役のしがいがある」
直線道路の途中で車両が停まる。
「周辺に標的以外の脅威反応はありません」
「わかった」
「お気をつけて」車から降り、ドアを閉めようとする霧子に男が声をかける。
「ああ、世話になったな」
「仕事ですから」応えたのは銃座にいる女だった。
運転席の男も笑顔をたたえて頷く。
霧子も頷いてみせ、それから助手席のドアを閉めた。
車両がバックしながらハンドルをきり、上下二車線ずつの広い道幅を使って鼻先を来た道を引き返していく。
エンジン音とともに赤いテールランプが光の尾を描きながら遠ざかっていくと、周囲を静寂が包んだ……いや、別の場所でも別の戦闘があるのだろう。どこか遠くから、散発的に乾いた銃声が聞こえてくる。
車両が最初の角を曲がったのを見届けると霧子は方向を転じ、ブーツがたてる靴音で銃声に彩りを加えた。
途中、右手に曲がる分かれ道の先に伸びていた橋は落とされていた。残された欄干のわずかな残骸の先には警告文の上に交差した大腿骨と重なった頭蓋骨のイラストが添えられている。
(あれが地雷原か)霧子は思った。
橋が架かっていた用水路自体、レギオンの巨体ならば渡ることも容易いはずだ。<特務管轄課>もそれを見越してあそこに罠を仕掛けたのだろうが、どうやら怪物にそれを嗅ぎつけられたらしい。
「税金の無駄だったみたいだな」
「聞こえてるぞ、入江」耳にはめたイヤホンから高岡の声が応える。
「受信状況はお互い悪くないみたいだな」
「無駄話も大概にしとけよ」
「見送りの手配、助かったよ」橋の残骸の前を通り過ぎながら霧子が言う。「あのふたりにも礼を言っておいてくれ」
「そのふたりも、作戦を継続中だ。キルゾーンで待機してるから、礼なら生き延びて直接言え」
「そうさせてもらうよ」
直後、霧子は足を止めた。
実際のところ、彼女は車を降りた時点でレギオンのかすかな気配を感じとっていた。
はじめ肌に羽毛が触れるような感覚は、歩を進めるごとに段々と強まっていった。
薄暗さと静けさの奥に、強い敵意と殺気を感じる。
霧子は車窓の外を流れていく風景を眺めながら、<アウターガイア>を満たす空気で感覚を研ぎ澄ましていた。
隣の座席ではハンドルを持った男が、後部のシートの屋根をぶちぬいて設置した銃座には女が、それぞれ揃いの黒いスーツに身を包み、周囲に視線を配っていた。
「降車一分前です」運転席の男が言う。
「標的はまだ封鎖ポイントなんだな?」
「ええ、いまのところ付近をうろついているだけです」
霧子はため息をつくと、「あんたらの本部から連絡が無かった時点で嫌な予感はしていたんだが……途中で出くわせば距離も稼げたんだがな」
「あの巨体です、基礎代謝だけでもエネルギーが相当必要なんでしょう」
「腹は減ってるが、まだ飢え死にするほどじゃないってことか。こんな身体でも腹の足しにはなるかな」言いながら、自分の二の腕を叩いてみる。「まったく、餌役のしがいがある」
直線道路の途中で車両が停まる。
「周辺に標的以外の脅威反応はありません」
「わかった」
「お気をつけて」車から降り、ドアを閉めようとする霧子に男が声をかける。
「ああ、世話になったな」
「仕事ですから」応えたのは銃座にいる女だった。
運転席の男も笑顔をたたえて頷く。
霧子も頷いてみせ、それから助手席のドアを閉めた。
車両がバックしながらハンドルをきり、上下二車線ずつの広い道幅を使って鼻先を来た道を引き返していく。
エンジン音とともに赤いテールランプが光の尾を描きながら遠ざかっていくと、周囲を静寂が包んだ……いや、別の場所でも別の戦闘があるのだろう。どこか遠くから、散発的に乾いた銃声が聞こえてくる。
車両が最初の角を曲がったのを見届けると霧子は方向を転じ、ブーツがたてる靴音で銃声に彩りを加えた。
途中、右手に曲がる分かれ道の先に伸びていた橋は落とされていた。残された欄干のわずかな残骸の先には警告文の上に交差した大腿骨と重なった頭蓋骨のイラストが添えられている。
(あれが地雷原か)霧子は思った。
橋が架かっていた用水路自体、レギオンの巨体ならば渡ることも容易いはずだ。<特務管轄課>もそれを見越してあそこに罠を仕掛けたのだろうが、どうやら怪物にそれを嗅ぎつけられたらしい。
「税金の無駄だったみたいだな」
「聞こえてるぞ、入江」耳にはめたイヤホンから高岡の声が応える。
「受信状況はお互い悪くないみたいだな」
「無駄話も大概にしとけよ」
「見送りの手配、助かったよ」橋の残骸の前を通り過ぎながら霧子が言う。「あのふたりにも礼を言っておいてくれ」
「そのふたりも、作戦を継続中だ。キルゾーンで待機してるから、礼なら生き延びて直接言え」
「そうさせてもらうよ」
直後、霧子は足を止めた。
実際のところ、彼女は車を降りた時点でレギオンのかすかな気配を感じとっていた。
はじめ肌に羽毛が触れるような感覚は、歩を進めるごとに段々と強まっていった。
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