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第五章・雨。その帳の向こう
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「黒川も局に戻ったら仕様を変えておくといい」
高岡は言いながら操作を続け、『特殊作戦案件』というページから『B項』を選択し、表示された一覧を上から順に目を通していった。
この『特殊作戦案件』は通常の<アウターガイア>内におけるレギオンの討伐とは一線を画し、主に拠点防衛、偵察、輸送など、レギオンとの直接戦闘以外の作戦内容を指していた。その中で『B項』というカテゴリーは<アウターガイア>の監視下から抜け出し、行方の知れなくなったレギオンの情報を集めたもので、他の案件以上に優先されるべきものだった。
謎に満ちた生態ではあるものの、レギオンに共通する主な習性として地上を目指すという行動が挙げられる。
レギオンの地上進出は<特務管轄課>と<グレイヴァー>がいくら足並みを揃えようとも完璧に防ぐことはできず、頻度こそ低いものの必ず起きてしまうことがある。
そうした事態に陥ったときは、普段にも増して秘匿性と緊急性が求められる。事情も身を守る術も知らない一般人が危険にさらされるからだ。平和という贅沢を謳歌するこの国の人々は、脅威に対してあまりにも無防備だった。
もっとも、権力者たちにとっては国民の命が危ぶまれること以上に、レギオンと、その裏に控える<アウターガイア>という存在が露呈するのを恐れている節はあったが……いずれにせよ、このまま手をこまねいていればさらなる被害が出てしまうことは間違いない。
『B項』で脅威判定の高いものから順に調べていた高岡の目に、とある情報が止まる。
「これだ」思わず声が昂ぶる。「十二時間前に<アウターガイア>から地上に抜け出したレギオンがいる。SA―27……<グレイヴァー>のあいだではストローヘッドと呼ばれている個体らしい」
高岡は監視映像から切り出した静止画を指さした。そこにはずんぐりとした体躯のレギオンが、目の前に下降してきた昇降機にいまにも足を踏み入れようとしているところが俯瞰気味に映っていた。
「〝イ〟號地区の第三十一昇降機……よりにもよって無人のところを。くそ、ほとんどザルじゃないか」
「案山子ですか?」
「おまえにはこいつが痩せっぽちに見えるか? こいつは口吻が異常に発達しているんだ。これで獲物の脳みそを吸う」
「だからストローヘッド……でも、どうやってこいつを見つけるんですか? ただでさえ、一般人の目があるのに」
黒川の質問には答えず、高岡は端末を操作して地上の地図を表示した。この農場周辺を上空から捉えたものだった。
「この赤い光点が三十一昇降機の最寄りにある地上出入口だ。ここから農場までは直線距離でおよそ二十キロ弱。やつはその距離を十時間から十三時間をかけて移動し、この場で腹ごしらえをしている」高岡が指先で地図をずらすと、河沿いの空き地に位置していた赤い光点が北北西の彼方に消え、かわりに南南東の河向こうから市街地があらわれた。「さて、そこで問題だ。仮におまえがこのストローヘッドだとしたら、次の食事はいつ、どこでする?」
高岡の質問に対して黒川は牛舎の中をぐるりと見渡したあと、地図に目をこらした。
高岡は言いながら操作を続け、『特殊作戦案件』というページから『B項』を選択し、表示された一覧を上から順に目を通していった。
この『特殊作戦案件』は通常の<アウターガイア>内におけるレギオンの討伐とは一線を画し、主に拠点防衛、偵察、輸送など、レギオンとの直接戦闘以外の作戦内容を指していた。その中で『B項』というカテゴリーは<アウターガイア>の監視下から抜け出し、行方の知れなくなったレギオンの情報を集めたもので、他の案件以上に優先されるべきものだった。
謎に満ちた生態ではあるものの、レギオンに共通する主な習性として地上を目指すという行動が挙げられる。
レギオンの地上進出は<特務管轄課>と<グレイヴァー>がいくら足並みを揃えようとも完璧に防ぐことはできず、頻度こそ低いものの必ず起きてしまうことがある。
そうした事態に陥ったときは、普段にも増して秘匿性と緊急性が求められる。事情も身を守る術も知らない一般人が危険にさらされるからだ。平和という贅沢を謳歌するこの国の人々は、脅威に対してあまりにも無防備だった。
もっとも、権力者たちにとっては国民の命が危ぶまれること以上に、レギオンと、その裏に控える<アウターガイア>という存在が露呈するのを恐れている節はあったが……いずれにせよ、このまま手をこまねいていればさらなる被害が出てしまうことは間違いない。
『B項』で脅威判定の高いものから順に調べていた高岡の目に、とある情報が止まる。
「これだ」思わず声が昂ぶる。「十二時間前に<アウターガイア>から地上に抜け出したレギオンがいる。SA―27……<グレイヴァー>のあいだではストローヘッドと呼ばれている個体らしい」
高岡は監視映像から切り出した静止画を指さした。そこにはずんぐりとした体躯のレギオンが、目の前に下降してきた昇降機にいまにも足を踏み入れようとしているところが俯瞰気味に映っていた。
「〝イ〟號地区の第三十一昇降機……よりにもよって無人のところを。くそ、ほとんどザルじゃないか」
「案山子ですか?」
「おまえにはこいつが痩せっぽちに見えるか? こいつは口吻が異常に発達しているんだ。これで獲物の脳みそを吸う」
「だからストローヘッド……でも、どうやってこいつを見つけるんですか? ただでさえ、一般人の目があるのに」
黒川の質問には答えず、高岡は端末を操作して地上の地図を表示した。この農場周辺を上空から捉えたものだった。
「この赤い光点が三十一昇降機の最寄りにある地上出入口だ。ここから農場までは直線距離でおよそ二十キロ弱。やつはその距離を十時間から十三時間をかけて移動し、この場で腹ごしらえをしている」高岡が指先で地図をずらすと、河沿いの空き地に位置していた赤い光点が北北西の彼方に消え、かわりに南南東の河向こうから市街地があらわれた。「さて、そこで問題だ。仮におまえがこのストローヘッドだとしたら、次の食事はいつ、どこでする?」
高岡の質問に対して黒川は牛舎の中をぐるりと見渡したあと、地図に目をこらした。
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