ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第五章・雨。その帳の向こう

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 解錠に勤しむ霧子の手の動きには、焦りもにじんでいた。

 レギオンが通ると予想されている住宅街にはじゅうぶんな<特務管轄課>の実働部隊が配置されていたが、その包囲網が突破されたとき、この学校が戦いの場になる可能性も大いにあった。
 そのため霧子は、いち早く屋上に出て高所から周囲の様子を把握しておきたかった。

 今回高岡が<グレイヴァー>を雇ったのは、校内をある程度自由に動ける人間を確保しておくという、いわば保険のような側面が強かった。だがその当人である霧子は、それで事が済むとは思えなかった。

<特務管轄課>の実力を過小評価しているわけでもないし、根拠があるわけではない。それは直感と言って差しさわりの無いものだった。だが霧子はこの薄暗い予兆めいた感覚が、信じるに値するものだとも考えていた。

 確かに高岡から訊いた人員配置は豊富で強固なものに思えた。レギオンの行動パターンを予想したルート上に局員を配置し、近隣住民に被害が及びそうになったり標的を包囲する必要に迫られたりした場合には即応できるようにしている。
 さらに捜索隊を組むだけでなく、レギオンが予想した位置からかけ離れた場所に出現した場合、現場に急行できるように別動隊も組んでいるようだ。
 作戦本部では半径三十キロ圏内に設置された監視カメラの動向を押さえ、警察無線を傍受し、さらにはSNSの情報にまで目を光らせている。

 まさに水も漏らさぬと言ったところか。
 だが規模が大きいということはそれだけ統制をとりづらいということであり、不足の事態に見舞われたときには対応が遅れるリスクも生じてしまう。
 そしてなによりレギオンという怪物は狡猾で、人間の裏をかくのが上手いのだ。

 やつは必ずここに来る。巡回の目をかいくぐって。霧子はそう確信していた。

 怪物がここにやってきたとき、校内を見渡せる屋上に陣取っていればすぐに迎撃できるはずだ。
 訪れるであろう戦いの予感を前に、錠前破りの手に自然と力が入った。

「なにやってんだ?」
「にゃあ!?」

 突如背後からかけられた声に、霧子は思わずそう声をあげてしまった。
 はたして、振り返った先には勇三が立っていた。

「勇三? おまえ、なんでここに?」
「それはこっちの台詞だ。啓二……おれの友達が幽霊見たなんて言うから、まさかと思って来てみれば。なんでおれの学校にいるんだよ?」
「ここ、おまえの学校だったのか」霧子は立ち上がって周囲を見回した。「そういえば、前に預かった学生証に同じ学校名が書いてあったな。で、さっきの生徒はおまえの友達だったと……世の中狭いもんだな。幽霊かって訊かれたからきちんと訂正しておいたぞ。わたしはようせ――」
「重要なのはそこじゃねえ」

 勇三はそう遮り、がしがしと頭を掻いた。

「高岡が言ってたが……勇三、もしかしておまえが協力者なのか?」
「協力者? なんだそれ?」

 勇三が手を止め、まじまじと見つめてくる。
 その赤い双眸に不安がよぎるのを察しながら、霧子は自分がここに来たあらましを説明した。話を進めていくそばから変わっていく表情を目に、彼女はこの相棒が協力者ではないことを理解していた。
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