ReaL -墓守編-

千勢 逢介

文字の大きさ
142 / 204
第五章・雨。その帳の向こう

18

しおりを挟む
「ちょっと待てよ」霧子の説明を耳にした勇三が言う。その瞳は動揺を物語っていた。「レギオンが出たって、ここにか? <アウターガイア>じゃなくて?」
「さっきからそう言ってるだろ。<グレイヴァー>のあいだじゃ〝穴抜け〟なんて呼ばれてる。ごくたまにいるんだ。運良く地面の下から這い出てこれるレギオンが」
「けど、ここじゃない別のところにいるかもしれないんだろ?」
「そいつはどうだろうな」

 霧子はゆっくりと首を横に振った。すがるような勇三の視線を振り切るようで、ためらわれもしたが、それでもこう続けた。

「ここに来る確率は高いと思う。<特課>も今回のレギオン……ストローヘッドの習性を考えてそう予想してるし、わたしもそんな感じがするんだ」
「どうして?」
「その、どうもな……呼び込みやすいんだよ、わたしは。化け物どもをさ」

 盗み見るように窺うと、勇三の表情は半信半疑といったところだった。
 それでも思い当たる節くらいはあるだろう。例えば彼が最初に<アウターガイア>に落ちたとき、直前まで反応が無かった怪物が降って沸いたようにあらわれたではないか。

「おれは、どうすればいい?」
「ここはわたしに任せて、授業なり居残りなり受けるんだな」
「そんなことできるかよ!」
「だったら指示をあおぐな。自分で考えろ」

 口を噤んでしまった勇三を見かねて、霧子は傍らに置いたリュックを開けた。

「この雨だ。予備を用意しておいてよかった」そう言って立ち上がると、霧子は勇三に拳銃を差し出した。「とりあえず持ってろ」

 しばし見つめていたが、勇三は拳銃を受け取り、馴れた手つきで弾倉の中身をあらためた。これもトリガーの訓練の賜物か、次いで霧子が手渡した消音器を素早く銃口に取り付けていく。遊底を引き、弾室を確かめる様子は自分そっくりだった。

「もし、学校の誰かにレギオンを見られるような事になったら?」ベルトの内側に挿し込んだ拳銃を覆い隠すように学ランの裾をなおしながら、勇三がそう訊ねてくる。「目撃者はどうなる?」
「十中八九、<特課>の施設で記憶改竄の施術を受けるだろうな。おまえみたいに<グレイヴァー>になれるのは特例中の特例だ。だからそうなる前に、誰にも見られずレギオンを殺さなくてはならない」

 それから霧子は、口を引き結ぶ勇三に笑いかけてみせた。

「そう深刻に考えるな。だからわたしがここにいるんだ。それに高岡も<グレイヴァー>をもうひとり雇ったみたいだしな」
「それがさっき言ってた協力者ってやつか……」
「さて、わたしはそろそろ仕事に戻らせてもらうぞ」

 そう言って霧子が錠前にとりかかっても、背後の気配が消える様子はなかった。解錠し終えた彼女はため息をつくと、ふたたびリュックの中を漁りはじめた。

「ほら」

 霧子が投げ渡した無線を受け取り、勇三の口元がかすかにほころぶ。

「まあ、人数が大いに越したことはないからな。周波数はいつものだ」

 頷きながら勇三はイヤホンを耳に入れ、チョーカータイプの送話装置を首に巻いた。

 そのとき、ふたりの準備が整ったのを見計らったかのように、校舎内に設置されたスピーカーが割れた雑音を鳴らし、次いで教師の声がこう告げた。

「全校生徒の皆さん。本日午後の授業は中止します。レクリエーションを開催しますので、体育館に集まってください」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...