ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第五章・雨。その帳の向こう

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「ふたりとも無事か?」
 霧子が高岡の問いに片手を挙げると、「派手な登場だな。まるで映画の騎兵隊みたいだ」
「役立たずだって言いたいのか? ちゃんと学校関係者の警護はうちが……」と、高岡は地面に倒れるサエと友香を見ると、局員に治療するよう指示を出した。「くそ、これじゃあ反論の余地もないな……だが、こっちはこっちで色々あったんだ。ここ以外のポイントでもレギオンの目撃情報が出たんだ」
「まだ他にも〝穴抜け〟が?」霧子が眉根を寄せる。
「いや、どの現場も化け物の姿どころか痕跡も無かった。そもそも<アウターガイア>の監視網にかかった情報もなかったわけなんだが、かといって裏を取らんわけにもいかんだろう」
「なるほどな」霧子は頷いた。「なら、今回も個人的な貸しにしておく」
「貸しって、おまえな……とにかく、今回も助かったよ」

 言いながらこちらを見てきた高岡を、勇三は黙って睨み返した。学校を不必要に危険にさらした彼を本当なら殴ってやりたかったが、あいにく立っているだけで精一杯だった。
 そうしているあいだにも、<特務管轄課>の局員たちはレギオンの周囲をブルーシートで覆い、気を失ったサエと友香に酸素マスクをかぶせ、担架で運んでいった。

「ご心配なく。彼女たちの安全は我々が保障します」

 サエたちを見つめていた勇三にそう声をかけてきたのは、高岡の横に立つ女性局員だった。彼女はこちらへ歩み寄りながらさらに続けた。

「自分は<特務管轄課>第三局の黒川と申します。入江さんでいらっしゃいますね。お噂はかねがね、ご高名な<グレイヴァー>とお会いできて光栄です」
「いや、おれは……」上から差し伸べられた黒川の右手を見つめながら、勇三は口ごもった。
「おい黒川、入江はこっちだ」そう割って入った高岡は勇三に向き直ると、「で、おまえはなんでここにいるんだ?」
「うるせえな、通りすがりだよ」
「そんなわけあるか」

 いがみ合う勇三と高岡をよそに、黒川が霧子に向き直る。

「失礼しました。ええっと……あなたが入江さん、でありますか?」
「そうだ」霧子はそれから高岡の方に向き直り、「新人か?」
「ああ。新入りのゲロ……黒川だ」
「高岡さん、いまなにか言いかけました?」
「気にするな」

 黒川の疑惑の視線をかわしながら、高岡は続けた。

「それにしても、お手柄だったな。被害を未然に防ぐこともできたし、政府の人間として感謝するよ」それから勇三にも向き直ると、「それとおまえもな、いちおう」
「光栄だね」勇三は相手を見もせずに言った。
「礼を言われるほどのもんじゃないさ」霧子が肩をすくめる。「実際、わたしたちは無様なもんさ。例の同業者……あいつが美味しいところを全部持っていったんだろ?」
「みたいだな」言いながら高岡は校舎のほうを向いた。「そいつもここに呼んでるんだ。もうすぐ来るはずだ」
「わたしは別に会いたくもないんだがな」
「そう言うなよ」

 霧子はあきらかに不機嫌そうだった。屋上に通じる階段室で鼻息も荒く撃破報酬のことを話していた様子から、気持ちが理解できないわけではない。彼女ほどではないだろうが、勇三もまたそわそわと落ち着かない気分だった。

 はたしてどんな人物がやってくるのだろう。大砲を携えたゴリラまがいの大男か、それとも正気を失った眼差しをしたイカレ野郎か……興味が無いということもなかったが、心身ともに疲れ果てているいまは新しいお仲間を作る気にはなれそうにもない。

「勇三……」

 ふと、後ろからかけられた声に勇三が思わず振り返ったのは、その声に聞き覚えがあったからだ。

「ああ、来たな」高岡がその声の主に笑いかける。

 同業者の姿を見て勇三は息を呑んだ。
 そこいたのは彼の友人、照輝彦だった。
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