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第六章・炎と水と
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Ⅰ
その日、<グレイヴァー>たちは目の前の光景に息をするのも忘れていた。
<アウターガイア>の大通りに横たわっているのは、レギオンの巨大な死骸だった。いや、その表現は生易しい。それはまさに、惨殺体と呼んでも差し支えのないしろものだった。
生前は化け物じみた大きさの蜘蛛のような身体と牛のような顔をしていたレギオンは、あちこちに四肢を散乱させていた。
中世の騎士の槍のような鋭い鉤爪をもつ腕は、一本が建物の壁に突き刺さり、別の一本は信号機に関節を引っかけてぶらさがっていた。大きく裂かれた球形の胴体からは、片栗粉をまぶしたように白い紐状の内臓が飛び出している。死体のあちこちから滴る白い体液が、死にゆく命の末路を刻む鼓動のように重々しい音をたて、アスファルトの上へと広がっていった。
そうした残骸の中心に鎮座していたレギオンの頭部は縦に両断されており、ちぐはぐな視線で地下世界の薄闇を恨みがましく睨みつけていた。
<デッドマンズ・ウォーク>の分隊長である男は一同の先頭に立ち、サングラスで覆われた怒りに燃える瞳を、この怪物の成れの果てに向けていた。
今回の仕事のために彼が本隊から用意した選りすぐりの精鋭の数は、総勢三十人。それに加えてロケット砲と大量の爆薬、さらにはミニガンで武装したハンヴィーも用意したが、それらはすべて無駄になった。というのも、自分たちが狩りにきた獲物はすでに何者かの手によって仕留められていたからだ。
標的が死んでいたことには驚かされたが、なにより度肝を抜かれたのはその殺され方だった。
大型のダンプカーにも劣らないレギオンの巨体は、爆薬で吹き飛ばしたのでも銃撃で引きちぎったのでもなく、あらゆるところが切断されていたのだ。
その切断面は巨大なエンジンカッターや、戦車の装甲をパウンドケーキみたいに切り離せる戦闘機の機関銃ではとてもできそうにないほど、美しく滑らかだった。まるで切り口を合わせれば、元通りくっついてしまいそうなほどに。
傍らに立っていた部下が横合いから紙に巻いたマリファナを差し出してきた。
サングラスの男はこうした趣向品の類いを悪魔のクソと同等に考えていたが、この日ばかりは素直に受け取った。一服つけることをありがたいとさえ思った。
マリファナを持つ指先がかすかに震えている。仕事が空振りに終わったことに怒りを感じていたが、それ以上にこのレギオンを葬った者に畏怖の念を抱いていたのだ。
気を落ち着けるように煙をくゆらせていると、大通りの向こうから偵察によこした隊員のひとりが死体の残骸をかき分けるように戻ってきた。
その日、<グレイヴァー>たちは目の前の光景に息をするのも忘れていた。
<アウターガイア>の大通りに横たわっているのは、レギオンの巨大な死骸だった。いや、その表現は生易しい。それはまさに、惨殺体と呼んでも差し支えのないしろものだった。
生前は化け物じみた大きさの蜘蛛のような身体と牛のような顔をしていたレギオンは、あちこちに四肢を散乱させていた。
中世の騎士の槍のような鋭い鉤爪をもつ腕は、一本が建物の壁に突き刺さり、別の一本は信号機に関節を引っかけてぶらさがっていた。大きく裂かれた球形の胴体からは、片栗粉をまぶしたように白い紐状の内臓が飛び出している。死体のあちこちから滴る白い体液が、死にゆく命の末路を刻む鼓動のように重々しい音をたて、アスファルトの上へと広がっていった。
そうした残骸の中心に鎮座していたレギオンの頭部は縦に両断されており、ちぐはぐな視線で地下世界の薄闇を恨みがましく睨みつけていた。
<デッドマンズ・ウォーク>の分隊長である男は一同の先頭に立ち、サングラスで覆われた怒りに燃える瞳を、この怪物の成れの果てに向けていた。
今回の仕事のために彼が本隊から用意した選りすぐりの精鋭の数は、総勢三十人。それに加えてロケット砲と大量の爆薬、さらにはミニガンで武装したハンヴィーも用意したが、それらはすべて無駄になった。というのも、自分たちが狩りにきた獲物はすでに何者かの手によって仕留められていたからだ。
標的が死んでいたことには驚かされたが、なにより度肝を抜かれたのはその殺され方だった。
大型のダンプカーにも劣らないレギオンの巨体は、爆薬で吹き飛ばしたのでも銃撃で引きちぎったのでもなく、あらゆるところが切断されていたのだ。
その切断面は巨大なエンジンカッターや、戦車の装甲をパウンドケーキみたいに切り離せる戦闘機の機関銃ではとてもできそうにないほど、美しく滑らかだった。まるで切り口を合わせれば、元通りくっついてしまいそうなほどに。
傍らに立っていた部下が横合いから紙に巻いたマリファナを差し出してきた。
サングラスの男はこうした趣向品の類いを悪魔のクソと同等に考えていたが、この日ばかりは素直に受け取った。一服つけることをありがたいとさえ思った。
マリファナを持つ指先がかすかに震えている。仕事が空振りに終わったことに怒りを感じていたが、それ以上にこのレギオンを葬った者に畏怖の念を抱いていたのだ。
気を落ち着けるように煙をくゆらせていると、大通りの向こうから偵察によこした隊員のひとりが死体の残骸をかき分けるように戻ってきた。
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