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第六章・炎と水と
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息を切らしながら報告する隊員の声はか細く、恐怖していることが明らかだった。いまやここにいる誰もが、恐れを感じていた。それもレギオンにではなく、この惨劇を生み出した張本人に対する恐れを。
隊員の先導によってレギオンの頭を迂回した先でまず彼らを出迎えたのは、一条の鈍い光だった。光は半ばからぽっきりと折れ、地面に突き刺さった一本の剣の刀身から放たれていた。緩く弧を描く刀身は、まるで彼らをあざ笑っているかのようだ。
そこにいるすべての人間が、刀身の放つ妖しい光に目を奪われていた。ここが怪物たち息づく死と隣り合わせの世界であっても、彼らの意識はその抵抗しがたい魅力に引き寄せられていた。
ただひとり、サングラスの男だけは強い怒りを抱くことで、刀身の呪縛をかわすことに成功していた。それでも歯を強く食いしばっていたせいで、銜えていたマリファナを真っ二つに噛みちぎってしまった。
吸い口と別れを告げた部分が、地面に落下してぱっと火の粉を散らせる。彼は口の中に残った残骸も吐き捨てると、そばにいた隊員にあごで示した。
「回収しろ。こいつを会社に持ち帰って、おれたちの上前をはねたやつを吊るしあげてやる」
そう言い残したサングラスの男は刀身に背を向けると、車両にへと引き返した。
誰が、ということはわからずじまいだったが、なにがレギオンをばらばらにしたのかは少なくとも理解できた。そしてその正体を知ったいま、彼は一刻も早くここから離れてしまいたかった。
武器の種類は形からすぐにわかった。
ファイティングナイフ。グルカナイフ。カランビット。果てはブロードソードに青龍刀、レイピア、マチェーテに至るまで。戦闘用の刃物にもいろいろあるが、すらりとした強さとしなやかさを持つあの刀身はこの国で『カタナ』と呼ばれる代物だった。目の前に折れた刀身が存在し、すべての傷の断面がガラスのように滑らかであることから、レギオンに死をもたらしたのはその『カタナ』であることはあきらかだった。
問題はやはり、それをしでかしたのが誰がということだった。
複数人いるとは考えづらい。たった一本の剣だけでレギオンと渡り合い、あまつさえ血祭りにあげられるだけの達人が何人もいるとはとても思えなかったからだ。
かといって、原始的な武器だけで怪物と渡り合える人間がたったの一人でもいるということも認めたくなかった。認めてしまえば最後、これまで兵士として自分が積み上げてきたすべてを否定することになるからだ。
今回の標的は序列の上から二番目、ナーガ級だったのだ。集めた人員が過剰だというつもりはなかったし、全員の生存が望める相手ではないということも承知していた。
だがそうした覚悟は脆くも崩されてしまった。たったひとり、己の身体と剣一本のみを頼る人間に。
この怒りが恐怖を紛らわすために沸き上がったものだということに気づかされ、自己嫌悪からさらに増長していく。
だがそうした感情のせめぎあいのなか、男のの根底にあったのは羨望だった。
ここには確かに本当の戦士がいた。
ここにはその証明があった。
真の<グレイヴァー>……怪物を殺す怪物の足跡が残されていたのだ。
時期は二月。姿無き<グレイヴァー>の存在に取り憑かれた男が、後に<アウターガイア>の端にある丘の上で死を迎える、数ヶ月前のことである。
隊員の先導によってレギオンの頭を迂回した先でまず彼らを出迎えたのは、一条の鈍い光だった。光は半ばからぽっきりと折れ、地面に突き刺さった一本の剣の刀身から放たれていた。緩く弧を描く刀身は、まるで彼らをあざ笑っているかのようだ。
そこにいるすべての人間が、刀身の放つ妖しい光に目を奪われていた。ここが怪物たち息づく死と隣り合わせの世界であっても、彼らの意識はその抵抗しがたい魅力に引き寄せられていた。
ただひとり、サングラスの男だけは強い怒りを抱くことで、刀身の呪縛をかわすことに成功していた。それでも歯を強く食いしばっていたせいで、銜えていたマリファナを真っ二つに噛みちぎってしまった。
吸い口と別れを告げた部分が、地面に落下してぱっと火の粉を散らせる。彼は口の中に残った残骸も吐き捨てると、そばにいた隊員にあごで示した。
「回収しろ。こいつを会社に持ち帰って、おれたちの上前をはねたやつを吊るしあげてやる」
そう言い残したサングラスの男は刀身に背を向けると、車両にへと引き返した。
誰が、ということはわからずじまいだったが、なにがレギオンをばらばらにしたのかは少なくとも理解できた。そしてその正体を知ったいま、彼は一刻も早くここから離れてしまいたかった。
武器の種類は形からすぐにわかった。
ファイティングナイフ。グルカナイフ。カランビット。果てはブロードソードに青龍刀、レイピア、マチェーテに至るまで。戦闘用の刃物にもいろいろあるが、すらりとした強さとしなやかさを持つあの刀身はこの国で『カタナ』と呼ばれる代物だった。目の前に折れた刀身が存在し、すべての傷の断面がガラスのように滑らかであることから、レギオンに死をもたらしたのはその『カタナ』であることはあきらかだった。
問題はやはり、それをしでかしたのが誰がということだった。
複数人いるとは考えづらい。たった一本の剣だけでレギオンと渡り合い、あまつさえ血祭りにあげられるだけの達人が何人もいるとはとても思えなかったからだ。
かといって、原始的な武器だけで怪物と渡り合える人間がたったの一人でもいるということも認めたくなかった。認めてしまえば最後、これまで兵士として自分が積み上げてきたすべてを否定することになるからだ。
今回の標的は序列の上から二番目、ナーガ級だったのだ。集めた人員が過剰だというつもりはなかったし、全員の生存が望める相手ではないということも承知していた。
だがそうした覚悟は脆くも崩されてしまった。たったひとり、己の身体と剣一本のみを頼る人間に。
この怒りが恐怖を紛らわすために沸き上がったものだということに気づかされ、自己嫌悪からさらに増長していく。
だがそうした感情のせめぎあいのなか、男のの根底にあったのは羨望だった。
ここには確かに本当の戦士がいた。
ここにはその証明があった。
真の<グレイヴァー>……怪物を殺す怪物の足跡が残されていたのだ。
時期は二月。姿無き<グレイヴァー>の存在に取り憑かれた男が、後に<アウターガイア>の端にある丘の上で死を迎える、数ヶ月前のことである。
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